第68話ケイからの提案~魂の欠片集めの始まり~

 周囲から感じる死の気配が強まり、そこら中にアンデットが生まれたのを感じた。

 目の前にもイーリス以外に多数のアンデット生まれてこちらへ襲い掛かろうとしているが、何かに気が付いたイーリスがアンデットが動き出そうとしていたのを手で制して止めたようだ。

 緊張感が高まる中、今まで聞いた事の無い声が響き、ダンケルクの目の前に子供が姿を現した。


 「さて、そろそろ俺も話しに混ぜて貰おうかな。イーリスには悪いが殺すのは待って貰うよ?公爵殿とその配下の騎士さんにはゲームのプレイヤーになって貰う事にしよう」

 「貴方達をここで殺すのは簡単だけど、それでは面白くないですからね。我々と命賭けのゲームをしましょう。貴方達には魂の欠片を集めて貰うわ」


 突如現れたケイの方を見て驚きを隠せない2人だったが、イーリスが文句1つ言わずに従う姿を見て力関係を察したようだった。


 「何を言っている。何故我々が貴様達の遊びに付き合わなければならんのだ?殺したければ殺せばいいだろう。ここで本当に死のうと、また何度も何度も殺そうと好きにすれば良いさ」

 「貴方の妻が蘇るチャンスをあげると言っても同じ答えを返すのかしら?」

 「妻が生き返る?さっきのように人形を準備して私を謀るつもりだろうに。貴様らの手口には乗らんよ」


 怒りの表情すら浮かべず、淡々とイーリスの言葉を受け流すダンケルクはもう諦めたとばかりに首を縦には振らなかった。


 「もう一度確認するけれど、この提案は私が貴方達にしているのではないわ。目の前に入るこの世界の神、ケイ様からの提案よ......無様に死ぬだけだった貴方達にとっては最後チャンスだわ」

 「神だと?」

 「私が1人でこんな復讐計画を実行出来る訳が無いでしょう?貴方達は何回死んで蘇生したと思っているの?館全体が異界と化しているのは何故?万を超える数の死者が私に従うのはどうしてかしら?」

 「頭の切れる公爵殿だ、今までの出来事とこの状況を考えれば容易に答えは出るよな」


 確かにそうである。どんなに優れた術士でも、並外れた魔道具を多数揃えてもこんな馬鹿げた規模の復讐など実行出来はしないだろう。アベンチュリンの泉でゼストに殺されたはずのガードルートがここにいるのだって本来ならばありえないだろう。


 「良いだろう。その神とやらの提案を聞かせて貰おうか。見た目は子供に見えるが、上手く化けの皮を被ったものよ。なるほど、確かに神という存在が力を貸していたとなれば、これまでの異常な展開も頷ける」

 「神と聞いてもその不遜な態度は変わらないのね。まぁ良いわ。ルールは6つよ」


 1.2人は館全体に配置されたロシル・エカテリーナの魂を回収する。全部で数は13個。

 2.ダンケルク、ガードルート両名はこれまで通り半不死だが、10回死ぬ毎に魂の欠片が1個消滅する。

 3.どんな方法を使ってもこの世界が崩壊する事は無い。装備も全て返却するので全力で抵抗して良し。

 4.欠片が多ければ多いほど完璧に近い状態で蘇生を行える。蘇生には最低4つの欠片が必要。

 5.ダンケルク、ガードルート両名は魂の欠片を集めて庭に存在する奈落(死体を遺棄した穴)の最奥へ向かう。

 6.制限時間は24時間とする。間に合わなかった場合も蘇生は行わない。


 「約束するわ。このゲームに勝てば必ず蘇生は行うし、貴方達2人も生きてこの異界から出してあげる」

 「嘘は言わないよ。人間を1人蘇生させる事など10数える間に終わる事だ」


 ニコリと笑顔を浮かべたイーリスは不気味だったが、目の前にいる神が提案を蹴る事など出来はしないだろう。信じがたい事を言っているが、嘘を言っているようには感じない。それどころか話が真実であると信じさせるだけの言葉の重みを感じさせる。


 「この提案はチャンスだと思うよ?別に強制しようとは思わないが......受けてくれるね?公爵殿」


 我々が所持していた装備まで返してくれるというのだから成功率は低くないだろう。それに、私だけで無くガードルートまで居るのだから大丈夫だ。問題など無いだろう。


 「良いだろう。その提案を呑む。我々はどうすれば良い?」

 「ならばケイ様から預かっているアイテムを渡すわ。それと、これを使って回収を行って」


 回収した魂を入れる器と館のマップが渡され、マップには光点が浮かび上がっている。見ただけでかなり希少な魔道具だと分かるが、彼等にとってはくれてやるのに躊躇う程の物ではないのだろう。


 「青が現在位置、黄色が魂の欠片、赤は特別な刺客の場所を示しているわ。アンデット達は全て相手にする必要は無いけれど、何か便利な物を持っているかもしれないわね」

 「ふん、舐めた真似をした事を後悔するなよ?」

 「私が居る以上は閣下が敗北する事などありはしない。アンデットなど全て捻り潰してくれるわ!」


 鞘から剣を抜き放ったガードルートが切っ先をイーリスに向けて言い放つが、歯牙にも掛けぬとばかりにイーリスハチラリと視線を向けて言葉を残す。


 「貴方達が少しでも苦しむ事を祈っているわ。死者達が奈落で積み上げた怨念がどれほどの物か身を持って知りなさい」


 そう言い残すとアンデット達と共にイーリスは空間に溶けるように消えた。

 視界から暗闇が消えて部屋の景色が戻ってくる。現在位置は公爵邸の最奥部、2階にあるダンケルクの執務室だった。


 「許さぬ。この屈辱は絶対に晴らして見せる。神とやらに我が覚悟を見せてくれるわ!」

 「我が剣の価値を結果でお見せします。閣下の奥方はこのガードルートが全力でお助けする」

 

 そう意気込む2人にケイは言葉を掛ける。


 「この部屋の扉を開けたらゲーム開始の合図だ。打ち合わせする時間はどれだけ使用してくれてもかまわない。我々は2人が部屋から出るのを待っている。健闘を祈るよ」


 そう言ったケイは目の前の空間に転移門を生み出すと、その中に消えていく。

 残された2人は装備の確認と作戦を決める事にしたが、イーリスやケイ達とのやり取りで精神的に消耗しているのを感じた為、まずはひと休みする事になった。


 部屋の外からは相変わらずアンデットの気配がするし、協力な個体はその存在感もかなりだろう。扉越しにもビンビン感じる程の力を持っているのを感じる。2人で手分けして捜索する時と合流して行動するパターンを上手く使い分けて行動しなければ無駄に命を失う事になる。


 「何度も殺され続けて自分の命を軽く感じるとは......しかし、痛みに対する耐性を得る事が出来たし、状態異常に対しても抵抗する術を手に入れている今ならば、これまで以上に上手く立ち回れるだろう」

 「閣下も昔は勇名を轟かせた実力の持ち主ではないですか、己を腕を振るっていた時代の感覚は剣に触れていれば徐々に戻ってくるでしょう。私も居ますから雑魚相手に感覚を取り戻すと良いでしょう」


 あのまま嬲り殺しにされるだろうと思っていたが、降って沸いたチャンスを無駄にする事無く、最大限に生かせるようにしなければならない。


 「待っていろエカテリーナ!我が存在の全てと引き換えにしても取り返して見せる!見かねて命を絶ったあの時とは違う結果を必ず手に入れてみせる」


 とても狂気に身を任せていた男の表情だとは思えないほど引き締まった顔をしたダンケルクがそこには居た。己の無力さに沈んだ過去を取り戻す決意を固めた彼は、事ここに居たって初めて男の顔をするのだった。

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