第27話決勝戦でもやらかしてしまった

 決勝戦は俺、ガイゼル、レオルでの三つ巴の戦いになる。

 1対1ではないのだ。戦場では常に1対1で戦えるような場は無い。

 多数対多数、少数対多数ばかりである、相手を如何にして殺すかが戦の本質なのだから、状況判断の力も要求されるのだ。

 

 それに、人間同士の戦いだけではなく、モンスターと対峙する時も状況判断能力は必須だ。

 周囲の状況把握能力だって、指揮官には不可欠な能力である。

 最終戦は剣術のみならず、駆け引きや状況判断能力までが問われる勝負となった。


 「お二人さん、よろしく頼むぜ?」


 自身有り気に八重歯を剥き出しにして笑うガイゼルだったが、純粋さの結晶というか、真面目さの塊というか、レオルには宣戦布告として受け止められなかったようである。


 「はい!僕もお二人と戦う事が楽しみでした。エルフィーさんともお手合わせしたい所でしたが、ケイさんとも戦えるのは良い経験になると思います!」


 輝くような笑顔に当てられたガイゼルと俺は、沸きあがっていた闘争心が萎えそうになるが、それ以上に彼の見せ付けた剣技に心が躍っていた。


 「んじゃ、始めようか?この決勝戦が楽しみだったんだ」


 そういった俺が短剣を抜き放ち、両手に携えて構えを取るとのが合図になり、2人も構える。


 「それでは、決勝戦を開始する......始め!!」


 堅実なレオルは予想通り様子見からのスタートだった。

 対して、好戦的なガイゼルも予想通り突撃を始めた。目標は、気になっていたレオルに対してだ。

 予選では不要だと判断したのか、長剣1本で戦っていたが、決勝には小盾を持って来ている。

 レオルの防御力は更に上がっているだろう。


 ガイゼルが左右の拳で息をつく間もない連撃を浴びせるが、レオルは難無く往なして見せる。

 ガキィン!ガキィン!とナックルダスターと盾が奏でる金属音が響くが、両者の顔には笑みしか浮かんで居らず、一合一合を楽しんでいるのが分かる。

 リズムを掴んだレオルから、反撃の突きが繰り出されると、それに合わせて拳を振るうガイゼルは、滑らせるように反撃のストレートを放った。


 蚊帳の外にされている俺だが、無視されている分けではなく、少しでも動きを見せれば行動に移れるように、こちらに注意を向けているのが分かる。

 1対1を見学しているだけでは笑われてしまうので、ここらで動きを見せようかな。


 「そろそろ混ぜろよ!」 


 言葉と共に膨大な殺気の波を放つと、短剣に魔力を纏わせて走り出す。

 魔力で大剣クラスまでサイズを肥大させた双剣が2人を襲う。


 「デタラメなガキだな!チィ」

 「まさか、そこまで魔力を使いこなすなんて!」


 x字にクロスされて振るわれた斬撃を回避した2人だったが、今度は揃って俺を攻撃してくる。

 しかし、実力さが圧倒的な俺には、2人掛りの攻撃も涼風のようなものである。

 猛烈な連打で振るわれる拳には、サイズを戻した短剣の切っ先で合わせて迎撃し、盾で視界を遮りながら繰り出した長剣の突きにも、同様に短剣の切っ先で迎撃する。


 「んだとぉ!?団長にだってそこまで虚仮にされたこたぁねえぜ!」

 「まるで父さんを相手にしているようです......底が見えませんね」


 誰を先に倒さなければいけないか悟ったようで、2人は連携して攻撃を開始した。

 ガイゼルは闘気を球状にして、空中に展開を始めた。10、15、20......30を超えた所で動きが止まる。

 レオルも剣に魔力を込めると、薄い青色だった魔力が高まり、濃い青色にまで凝縮された。

 そのまま魔法の詠唱を始めたレオルは、こちらに向かって束縛の術式を展開した。


 【茨の束縛ソーンバインド】


 地面から生み出された茨が絡みつき、俺の行動を妨げるように束縛を始める。

 とっさに全身に魔力を展開して防壁を作る。茨以上の魔力を練り上げて展開すると、その威圧感はそのまま力となって周囲に撒き散らされる。

 動きが止まった俺に向かって、ガイゼルが闘気弾を放ちながら突撃を敢行する。


 「一撃が駄目なら10でも20でも重ねてやる!いつまで防御し続けれるかな!?」

 

 ドドドドドドと闘気弾が着弾してくるが、無視してガイゼルの拳に合わせて短剣を突き出す。

 防御させる事も出来なかった事に驚愕したガイゼルだったが、傭兵だけあってメンタルはタフだった。

 実戦経験のあるガイゼルは、そこで折れる事無く次々と攻撃を繰り出す。


 「まだまだぁ!オラオラオラオラオラオラオラ!!」


 ギギギギギギギギン!と金属音が鳴り響き、その猛攻の凄まじさを物語る。

 この攻防が行われる裏で、更に詠唱を重ねて魔法を展開したレオルは、遅延術式を発動させて、大量の魔法をストックしている。

 後ろに回りこんでチャンスを伺いながらも、まだ備えが足りないと判断したのか、魔法を詠唱して準備を進めているようだ。


 「余所見してんじゃねぇぞ!ゴラァ!!」


 拳に込める魔力を引き上げてガイゼルが猛烈な連撃を繰り出す。

 さっきまでの魔力量では足りなくなったので、力を見せ付けるが如く、こちらも拳に込められた魔力の3倍まで力を引き上げた。


 「んなあ!?」

 「出し惜しみしている場合じゃないだろう?お前は俺を舐め過ぎだ。レオルを見習え!」


 瞬時に逆転した攻防は、回避と防御に専念するガイゼルと、短剣による刺突を繰り出す俺という図式へと変化した。

 さっきまで勢いに乗って攻勢に出ていたはずのガイゼルが、瞬時に劣勢に陥った事に驚愕するギャラリー達。

 だが、そんな事は予測していたとばかりに、レオルが遅延した術式から、援護と防護の魔法がガイゼルに飛ぶ。

 突如目の前に発生した防御壁が、刺突攻撃を5度6度と阻み砕ける。

 防ぐはずの攻撃が止められた事で、ガイゼルには余裕が与えられた為、瞬時に引いて体勢を整えた。

 

 「ガイゼルさん!ここは全力で行かなければ返り討ちにされますよ!切り札があるなら全部切って下さい!」

 「うっせぇ!そんな事は......言われなくても、分かってんだよぉおおお!!」


 全身を限界まで魔力強化したガイゼルが、それでも足りないと先程とは比べ物にならないサイズの闘気弾を形成し始める。

 1メートル大まで成長した闘気弾を背後に付き従わせたガイゼルが獣化して突撃を始める。

 そこにレオルが速度強化、攻撃強化の術式を発動させて、さっきから魔力を込め続けていた長剣を投射する。


 「グルォアアアアア!!」


 狼へと獣化したガイゼルは、レオルの援護を得て2倍を超える速度で移動する。

 先程までの攻防と同じになるかと思えば、ガイゼルも考えているらしく、直前で方向を変えるとフットワークを駆使して、攻撃の角度を変えながらフェイントを混ぜた攻撃を繰り出す。

 そこにレオルが遅延していた全魔法を展開して、攻撃に加わる。

 俺を通り過ぎて、飛んでいった長剣が後ろから迫ると同時に、剣からも魔法が展開された。


 「これでどうです!」


 【氷の棺アイスコフィン】

 

 剣から発動した氷魔法が俺を氷の中に閉じ込めようとするが、短剣を一閃して破壊する。


 【炎の槍フレイムランス】 【雷の戒めライトニングバインド】


 飛んできた炎の槍を拳で破壊した俺は、雷で編まれた網を切り裂きレオルに迫る。

 しかし、そうはさせぬと背後から巨大な闘気弾を放つガイゼルが攻撃に加わった。


 【風槌の一撃ウインドプレス】 【水圧の刃ウォーターカッター】


 まだまだ終わらないと、遅延された術式が闘気弾と同時に襲い掛かる。

 

 「おらぁああ!!!!」


 左手に込めた魔力刃を更に肥大化させて闘気弾を真っ二つにして、返す刃で水刃を切り払う。

 右手で真上から打ち下ろされる、風槌の中心点を突き刺して破壊した後に、背後から迫っていたレオルを右足で蹴り上げる。

 

 「え?う、うそ」


 受け止めた盾ごと宙に浮いたレオルの背後に飛び上がった俺は、こちらに向けて走りこむガイゼルに向かってレオルを蹴り飛ばす。

 狙っていた俺が掻き消え、空中でレオルを蹴り飛ばしている事に気が付いたガイゼルは、驚愕に足が止まった。

 殺さないように手加減はしているが、それなりの威力で蹴り飛ばしたレオルが直撃したガイゼルは、レオルを受け止めきれずに2人で転がる。


 

 「ちょっと肝が冷えたけど、2人とも父さん母さんには及ばないな」


 そう言った俺が倒れる2人を見下ろして決着がついた。


 「俺の負けだ。団長より強いんじゃないか?」

 「そうですね......僕も父さんと戦っているみたいでした」


 2人に手を貸して立ち上がらせたのだが......どうやら手加減が足りなかったようだ。

 レオルの着ていた鎧の止め具が破損していたらしく、ガチャリと地面に落ちた。

 その拍子に、服の胸元が弾けて乳房が露出する。


 「......えっと、僕?」 「じゃねぇ......よな?」

 「うえ、ああ......キャーーーーーーー!?」


 きつく巻いていたサラシが衝撃で切れていたらしく、服のサイズとあっていない胸が衣服を弱っていた衣服を破壊して飛び出したらしい......ファンタジーな光景である。

 胸を抱えて蹲るレオルに、あわてて脱いだ上着をかぶせる俺だったが、涙目のレオルに睨まれる事になった。


 「ううう、どうしてこんな事に......ふえええ、バレちゃいけなかったのにぃいい!」


 そんな事言われても、事前に教えてもらって無いし、無理ですし、お寿司。

 自分に言い訳をしながらも、こういう時は男が悪いのだと......っていうか攻撃したのは俺なのです。

 俺は、闇魔法で【闇の霧ダークミスト】を無詠唱で発動させると、更に無詠唱で時空魔法を使って転移する。

 

 【異空間展開アナザーディメンション】


 「ふえ?......ここはどこ?」

 「ああん?闇が発生して飲まれたはずだが?」


 真っ白な異空間へ移動した俺達だったが、ここは神らしく空中に浮いておくか。


 「ようこそ、2人とも」


 全身から神気を解放した俺は、18歳の頃の自分まで体を成長させて、尊大に振舞う。


 「おま、いや貴方は一体?」

 「ケイ君なの?」


 ここで更に演出を重ねよう、俺の両脇にドラゴンを召還する。


 ヒルダ【ホーリードラゴン】LV 62750 カイム【ダークドラゴン】LV 63241


 「「我が主のお招きによりここに参じました。何なりとご命令を」」


 突如現れた想像を遥かに超えた存在に言葉も出なくなる2人だった。

 それはそうだろう。そもそも存在としてのスケールが違う上に、こちらの世界では竜は神の如く崇められ、その存在自体が伝説の域まで達しているのだ。

 しかも、この2匹はあっちの神様が丁寧に育て上げた愛竜だったのを俺が譲り受けたのだ。そこらの竜など鎧袖一触にする莫大な力を持っている。


 10メートルを超える巨竜が頭を垂れて指示を乞う存在とは、如何なる存在か?

 この世界の者では想像も付かない、天上の存在である事は理解できるだろうが、そこまで2人の思考がおよぶだろうか?

 ここで俺が尊大に振る舞い、威厳を見せ付ける。


 「ご苦労、貴様等にはこの2名に加護を与えてもらう。気に入った方を選べ」


 そう言い放つと、2匹は値踏みするように2人を見据える。

 強大な存在に、自身の全てを見透かされるような感覚に陥った2人は、目を白黒させて動揺する。

 

 「では私はこの娘を」

「ならば、こちらの男は我が加護を授けましょう」


 固まっている2人に、白と黒の光が降り注ぎ、加護が与えられる。



 【ステータス】


  ガイゼル (18) LV67 ジョブ 格闘家マーシャル アーティスト 種族 獣人

  HP 331/830 MP 106/584

 スキル 『生産技能』狩猟 LV44 料理 LV15 細工 LV27 

      『便利技能』ステータス LV46 鑑定 LV36 手入れ LV29

      『特殊技能』【獣化】【再生力強化】

      『戦闘技能』格闘 LV62 武具習熟 LV41 兵器習熟 LV15 怪力 LV30 挑発 LV27 肉体強化 LV51 力強化 LV15 速度強化 LV 49 闘気術 LV36


  加護 【闇竜王の加護】 



  レオル・アルベリオン (フィオリナ・アルベリオン) (16) LV87 ジョブ 聖騎士ホーリーナイト 種族 ハーフエルフ

  HP 1031/1490 MP 406/1270

 スキル 『生産技能』料理 LV45 裁縫 LV46 

      『便利技能』ステータス LV71 鑑定 LV81 

      『特殊技能』【基本LV50】【魔力強化】【精霊言語】

      『戦闘技能』格闘 LV37 武具習熟 LV41 兵器習熟 LV25 全属性魔法 LV41 肉体強化 LV32 力強化 LV24 体力強化 LV38 魔法耐性 LV25


  加護 【奴隷紋】【光竜王の加護】 



 これで準備は完了したな。

 ちょっと突っ込み所があるステータスなので、そこらへんの所を語って貰ってから開放しなければならんな。

 それにしても、名前といい奴隷紋といい、この子は色んな問題を抱えていそうだな。


 これからの展開に頭を抱えたいが、とりあえずは演技を続けるとしようか。

 なぜ俺の所にはこうも厄介事が転がり込むんだろうか?

 もし、あの四聖神が裏で細工しているようならば、お仕置きが必要である。

 

 (((してません!してませんから!!))) (それはそれで......良いかも?)


 どうやら、無実のようである。

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