第26話準決勝~男の娘がクラスチェンジして帰ってきた~

 心と体の充電が完了した俺は、午後の部開始を待った。

 今度は5人1組でバトルロイヤルが行われる。


 メンバーはランダム抽選でシャッフルされるが、魔力の動きを見る限り、俺・ガイゼル・レオルが同じ組にならないように操作されている。

 公正な抽選ではないが、強者が被らないようにする事は、全体にとってプラスになるので良しとしよう。


 俺の組は当然だが瞬殺で終わらせた。

 正面の相手に全速で突撃した俺は、相手の鳩尾を打ち抜き、昏倒する相手の体を利用する。

 意識を失って脱力した体を別の選手に放り投げて隙を作る。

 とても10歳の力とは思えない、力任せに人をブン投げる光景に唖然としていた、左右の選手には短剣を投擲して仕留めた。

 残り一人になった事を悟り、最後の相手は投降してきた。

 

 予選の時から何度か視線を感じるが、かなり遠方からこっちを見ている奴が居るな。別に害意は感じないからかまわないが。

 


 ガイゼルの組は知り合い同士だったのか、最初はガイゼル を排除する事で同意したらしい。

 バレバレな程に、ガイゼルを集中攻撃している4人だったが、残念ながら実力が違い過ぎる。

 数の暴力ではどうにもならない実力差を思い知る事となる。

 

 獣人特有の身体能力も凄かったが、そこに肉体強化を使用して爆発的に高めた速度を使用する。

 左右から襲い掛かる相手にカウンターをお見舞いして、更にもう一撃。

 その隙に、背後と正面から切りかかってきた2人の攻撃を回避しながら、剣を振り下ろす腕・肘・手首に3連撃を浴びせる。

 堪らず剣を落とした2人のだったが、喉元に拳を突き付けられた事で両手を上げ、降参の意思表示をした。



 レオル・アルベリオンの試合はといえば、一言で言うなら丁寧で堅実な戦いだった。

 敵の攻撃を全て切り払い・切り落とし・弾き・受け流しと、剣技の極みとでも言える腕前を見せつけた。

 最後には切り払った剣の根元を切り落とす、斬鉄まで見せて圧倒する。

 その硬い防御と反撃への素早い切り替えは、訓練を積み重ねた者だけが到達できる境地だろう。



 残りの2組の結果だが、1組目はその実力が拮抗して中々決着が付かなかったが、勝負に出た一人が脱落したことでバランスが崩れた為、一気に決着した。

 最後に残ったのは、耐久力に優れた体格の良いマスルという男だった。

 振り回す戦槌の一撃は破壊力抜群だが、まだまだ技術不足で使いこなせておらず、隙が多い。


 もう1組の勝者は、エルフィーという火魔法と弓を組み合わせた使い手だった。

 魔砲弓士とでも言えば良いだろうか?弓に火を纏わせて炸裂させたり、戦闘フィールド全体に炎矢の雨を降らせたり、中々多彩な攻撃を使っていたが、その弓術は群を抜いており、百発百中の腕前だった。

 聞けば彼女自身が異名持ちで【鷹の目ホークアイ】と呼ばれているそうだ。

【ブルーストーン】に住んでいる弓士の娘らしいが、両親を無くしてから、その実力を開花させて、その腕一本で生きてきたらしい。

 目が合ったが、どうやら先ほどまでの視線の主は彼女らしい。


 こうして5人が揃ったわけだが、くじ引きで抽選を行い、レオルがシードで決勝戦進出となった。

 準決勝の組み合わせは、俺とエルフィー、ガイゼルとマスルの組で別れた。


 ガイゼルはマスルの攻撃など掠る事も無く。

 圧倒的な手数で連撃を加え、最後に鎧通しを打ち込んでマスルを打倒した。



 俺達はというと。 


 「それじゃあ始めようか?同じ辺境出身者とは言え、手加減は要らないからね、全力で来てくれよな!エルフィーさん」

 「手加減なんかしない、常に全力で相手を仕留める。手加減や油断は、死の危険を感知出来なくする原因......だ、それは唾棄すべき悪癖だと思ってる」


 クールな彼女はそう言うと、矢筒へ手を伸ばしながら呟く。


 「それに、格上相手に油断するような、愚かで傲慢な性格はしていない」


 言うが早いか速射で2連撃を放ち、魔法の詠唱に入るエルフィー。

 誰か有名な弓や魔法の名士に師事した訳でも無く、この手際の良さと詠唱速度は大した物だ。

 攻撃のバラエティーも素晴らしく、多彩なステップワークを織り交ぜた格闘から、魔法による目くらましを使いこなし、曲射や魔法矢も織り交ぜて打ってくる。

 

 「素晴らしい逸材だ、俺の仲間にスカウトしたいが?」

 「別に帰っても何も無い、私に勝てたら考えても良い」


 了解も貰えたようなので、ここらで俺の実力も見せようか。

 2本の短剣を構えた俺は、飛んでくる矢を切り払いながら前進する。

 鉄の鏃だろうが魔法の矢だろうが、種類に関係無く切り払うのは、相当な技術がいる。

 敢えてその技術を見せ付けるだけでも、ギャラリー達は楽しむ事が出来るだろう。


 「矢も魔力も無限じゃないだろう?決着を急いだ方がいいんじゃないか?」

 「余計な口出しは要らない。私は常に最善を尽くして戦う」


 それは答えてはいけない返答だろう。誘いなのか、それとも真実なのか。

 戦いを好きなように誘導出来ると言質を取ったも同然じゃないか。

 早速その答えを試させてもらおう。


 敢えて隙を見せる位では、フェイントだと見破られるだろう。

 だが、熟練者ともなればピンチを演出する事など造作も無い。

 真贋を見抜くには、君では経験不足だ、幼すぎる感では見破れない物もあると教えてやろう。


 切り払った矢から偶然外れた鏃が顔に当たり、痛みに目を閉じた俺。

 好機と見たエルフィーは、最後に番えた3本の矢を、一射で同時に天へ向かって放ち、弓を捨ててこちらに走り出した。

 短剣を抜き放ち、開いた手で俺の後方に向けて魔法の火矢を放つ。


 「これで......幕にする」

 「おいおい、気が早いなぁ?アドバイスが聞いたのかな?」

 

 エルフィーの視点では、目を閉じた俺はここまでの行動を把握できていない。

 後方を狙って放たれた矢には細工がされているが、気づかない振りをして戦いを続ける。


 左手に短剣、右手に魔法で作った炎剣を持ったエルフィーと対峙する俺は、巧みな剣捌きに感心しながら、魔力を纏わせて強化した短剣での攻防を続ける。

 さぁ、ここが彼女が決着を付ける為に用意した、必殺の時だ。

 天高くに打ち上げられた矢には、火の魔力が宿っている。


 「はぁああ!!やぁ!」

 

 ヒュンヒュンと風を切りながら振るわれる短剣を交わしながら、炎剣の斬撃を切り落とした瞬間だった。


 「かかったな、終わりだ!」


 炎剣が弾けて、熱風が俺を襲った。

 堪らず後退する俺が向かった後方には、先ほど放たれた魔法の火矢が燻っていた。

 磁石が引き合うように落下した矢が向きを変える。

 2本の矢が俺に向かって、正確には後方の矢に引き寄せられてだが、殺到する。

 十分に速度が乗った矢には威力が乗っており、右手で1本、左手で1本の矢を打ち落とす。


 「もらった!」

 「おしいな、だがまだまだ青い」


 注意を引き付ける為に態と声を出したんだろうが、すべての策略は見破っている。

 1本だけ弱い魔力を纏った矢を用意して、時間差で打ち下ろす作戦だったのだろう。

 真上から落下してくる矢と、正面から掛け声と共に振るわれる短剣の一閃がリンクする......はずだった。


 右手で短剣の斬撃を切り払い、左手で矢を掴み取る、左手から零れ落ちた短剣を咥えた俺は、エルフィーの首筋に短剣を突きつけた。


 「ひぇっふえいとら!(チャックメイトだ)」

 「......参った。負けを認める」


 神様達から延々と指導を受け続けた俺に死角は無いのだ。

 たとえ目が潰されても、周囲に放った魔力で全方位を探知出来る俺には、目潰しや目くらましなど意味が無い。


 「流石は慧君ですね。善戦したと思ったのですが......」

 「なぬ!?エルフィーが実名の同級生なんて居なかったが?」

 「負けたのだから、隠し事は無しにしましょう。僕は一宮 雫ですよ。慧君」

 


 過去の映像が脳裏に浮かぶ。



 あれは、前世での出来事だった。

 高校2年になり、自分の限界を感じた俺は、それでも諦める事が出来ず、放課後も居残りで特訓をしていた。


 「ふー、さっぱりした。運動した後の冷水シャワーは最高だぜ!」


 部活を終えた俺はシャワー室から出て来た所だった。

 牛乳で割った、お手製のプロテインを飲みながら歩いていると、校舎裏へ2人の男子が駆け込んで行く所が見えた。

 

 「ちょっと......止めて!僕は男だよ!ちょ、胸触らないで!下も付いてるってば!!」

 「デュフフ。そんな事言って、実は女の子だっていうシナリオが待っていると、拙者の第七感が輝き叫んでいるで御座るよ!フヒヒ」

 「止めい、デブオタ!」 「デュフ!?」


 確かに、目の前で襲われていた青年は、線が細くて色白だし、伸ばした髪をポニーテールにしているが、男だろう......たぶん、おそらく、めいびー。

 目の前で男が男?をレイプしようとする現場を目撃した俺は、理由はなど考えず、とりあえず萌え豚野郎を張り倒した。


 「わ~ん!ありがとう!慧君が居なかったらどうなっていたか......」


 こいつは、見覚えがあるような、無いような......ああ、似たような感じで迫られている所を助けたっけ? 


 「ああ、オタクで男か女かわからん名前だけど、実は男だった雫君じゃないか!同じような場面で出くわすなんて偶然だね!?」

 「オタクはそうだけど!僕は男だよ!......君は体育の時だって僕の服を剥ぎ取ったじゃないかぁ......」


 そんな事もあった気がする。いや!同級生が男か女かって重要だよね!?

 っていうか、男だと言いながら、何でそんな潤んだ目で俺を見る!俺はやらないからな!配管工でもなければ、つなぎだって着てない。


 「ともかく、ありがとう!危険が迫ったら助けに来てくれるなんて!慧君はナイトだよ!」

 「いや、現実世界で騎士ってのはどうかと思うが、これも何かの縁だろうな。困った事があれば、何でも気軽に相談してこいよ?」

 「あ、ああ......うん!分かったよ!」

 

 男の癖に腕に抱きつくな!うっとうしい!


 「止めろ!くっつくな!俺はノーマルだからな?分かってるな?」

 「そんなの分かってるよぉ~、えへへ」



  

 という展開があった気がする。

 

 「前世ではありがとう!あの時は助かったよ。こっちでは十分に鍛えたから、あんな事にはならないようにと思ってたんだけどね?」

 「はぁ、んでさぁ?なんでエルフィーなの?」

 「それなんだけど、ネットゲームは知ってるよね?」

 「まぁ、それぐらいは知ってるが?」


 話を聞くと、あの糞爺(神)はずいぶんいい加減だったらしく。

 雫がネットゲーム全般で愛用しているハンドルネームを本名の代わりに設定しやがったらしい。

 

 「人生の半分をネットゲームに費やしとるんじゃから、ええじゃろう?エルフを引き当てたんじゃから、お主の望み通り、来世は女でどうじゃな?」


 とか発言したらしい、それ以外にも聞き捨てならない表現があった気がしたが......忘れた。


 「で......でも、感謝してるから、君にも会えたし!それにネットゲームで使っていたキャラクターの力まで上乗せしてくれたんだよ!?」



 【ステータス】


  エルフィー 《一宮 雫》 (10) LV3762 種族 ハイエルフ ジョブ マジックスナイパー(ユニーク)

  HP 8311/10630 MP 10447/14849

 スキル『生産技能』採取 Master 農業 Master 狩猟 Master 料理 Master 裁縫 Master 木工 Master

     『戦闘技能』武器習熟 Master 兵器習熟 Master カリスマ Master ロックオン Master     

     『魔法技能』火魔法 Master 水魔法 Master 風魔法 Master 土魔法 Master 光魔法 Master


     『便利技能』ステータス Master 鑑定 Master 鷹の目 Master 母性 Master ステータス隠蔽 Master

      『特殊技能』 【基礎LV3000】 【精霊支配】 【緑の加護】 【弓技無双】


   

 確かに、雪乃ちゃんと比べてもかなり優遇されているだろう。

 拘りが無ければ、名前くらいどうでもいいか?生まれ変わるんだしな。

 なぜ腕に抱きつく、イーリスから殺気がもれ始めたじゃないか!止めてくれ!!


 「仲間にも誘われちゃったし、離れられないな~うわ~これは仕方が無いな~」

 「さっきまでの演技とは打って変わって強かじゃないか雫君?」

 「違うよ~エルフィーだよ~?生まれ変わったんだからね!」


 前世のフラグまで俺を襲ってくるのか!?

 まずい、そんな所まで覚えていないぞ。


 こうして、決勝戦が始まるまで纏わり付いてくるエルフィーが離れてくれる事は無かった。

 こう考えて見ると、才能は無かったが恵まれた環境にあったのかもしれない?

 いやいやいや、ナチュラルにスルーしたが、腐女子も男の娘も、世間的にはデスフラグじゃねぇか!

 

 今のは俺の勘違いだ。うん、恵まれてはいない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る