異世界生活を満喫するために必要なのはチート能力よりもチートな兄姉だった?
卯月 唯
第1話 異世界転移は突然に?
視界一面緑溢れる自然というかジャングル。
聞こえてくるのは水の流れる音と鳥の鳴き声。
現実が信じられない。
とりあえず深呼吸でもしますか。
うん。
すー、はー。
すー、はー。
おお、空気が美味しいね。いや空気に味はないんだけどね。ほら、なんとなくってやつだよ。うん。
「じゃないよっ!なにまったりしてんの!ここどこ!?」
私の叫びが木々の間を木霊していく。
ふぅ。いやぁ、人間って処理能力越えると逆に冷静になるって本当だったんですね。
あっ、申し遅れました。私、柊詩乃、桜沢大学法学部2年生です。
好きな科目は民法全般、嫌いな科目は刑法全般(刑法の教授には秘密ですよ♪)。成績は中の下、サークル、バイトはしてないです。見た目はちょっと地味?でもそこまで顔面偏差値は酷くないはずです。
これからよろしくお願いしますね。
さて・・・もうちょっと現実逃避してもいいですかね?
家族構成は父母兄姉の5人家族。私は末っ子です。
両親ともに一流企業の会社員なので普通の家よりちょっと裕福目。
でも仕事ばっかりじゃなくてちゃんと子供にも関心を向けてくれる良い両親なんですよ。
私の理想の夫婦像ですね。
そしてそして満を持しての自慢の最強の兄姉っ!
こほんっ、僭越ながら紹介させていただきますよ♪
兄の彼方は日本一の国立大学を首席卒業されまして現在は注目のイケメン若手起業家様です。この前も雑誌に特集されておりました。イケメン過ぎるリアル王子様特集っていうキャッチコピーがついてたんですよ、もう爆笑でしたよ。大学でも女子たちが盛り上がってましたよ。イケメンの妹って特ですね。懐があったかくなりました。
姉の凛は某有名私立大学首席卒業にして在学時ミスコン優勝経験ありの才色兼備。現在アメリカの大手企業に就職中のエリート様です。一時期モデルをしていたこともあるんですよ。町を歩くとほぼお姉ちゃんの時もありましたね。ドラマの話もあったんですけど、断っちゃったんですよね。もったいないなって思ってたらハリウッドデビューしたんですけどね。映画館の巨大スクリーンで見るお姉ちゃんは最高でした。
これだけでも最強の二人ですけどその上運動は出来るし性格もいいっ!
まぁ、近所で有名になるくらいもの凄いシスコン兄姉なので、残念ながら未だに恋人が一人もいないですけど。
あ、私ですか。特に理由もなく普通に彼氏いない歴イコール年齢ですけど・・・何か?
こほん。
さてさて、そろそろ現実を受け止めましょうか。
柊詩乃19歳、5分前までは確実に人で溢れるコンクリートの街中にいましたよ。
現在、ジャングルレベルの大自然の中に一人。
高層ビル群の突風に驚いて瞼をパチッと閉じてパチッと開けたらそこはもう知らない場所でした。
私の詰まってない頭で考えるにこれは・・・壮大なる迷子ですね♪
いやー、小さい頃からちょっと目を離すと迷子になってたわねってよく言われるんですよ、兄姉に。そのせいで心配通り越してシスコンになっちゃったんですよねー。きっと自分でも気づかない間にその辺の公園にでも迷い混んだんですよ。
でも大丈夫。どんな場所にいても兄姉が私を見つけてくれますから!
「残念ながらそれは壮大なる勘違いだよね。」
・・・おっと、いけないいけない。難しいことを考えすぎて幻聴が。
「残念ながら幻聴でもないんだよね。」
もしかして私、ホームシックかな。寂しくて幻聴が聞こえるとか。うん、そうかもしれない。
「あ、これ話すの時間かかるね。しょうがない。先に転移させるよ。」
へ?
「てんい」という言葉を脳内で「転移」と変換するまでに、私の視界は大自然から真っ白な空間へと変貌した。
真っ白な空間にはこれまた真っ白な人がポツンと突っ立っている。
「いらっしゃい。小さき魂。」
・・・よし、わかった。これは夢だ。でなきゃ、こんな可笑しなこと、起こるはずないよね。うんうん。これは夢、これは夢、これは夢・・・
「そろそろいいかな?」
「もうちょっと待って。」
これは夢、これは夢、これは夢・・・
「そろそろいいかな?」
「もうちょっと待って。」
「さっきも同じことを言ってたよ。小さき魂。現実を受けとめようよ。」
ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅこれは夢なのっ!
私はっ、夢みることをっ、諦めないっ!!
「小さき魂、諦めようよ。ほら、右手を顔の横まで挙げてー。」
右手を顔の横まで挙げる。
「頬に手を添えてー。」
ほっぺたに手を添える。むっ。太ったか私。いやこれくらいはまだ許されるはず。ちょっとぷにってしてたほうが女の子は可愛いよね?
「そうしたら親指と人差し指で頬をおもいっきり引っ張ろう!」
親指と人差し指でほっぺたをおもいっきり
「って、痛ったぁい!」
夢なのに痛い・・・なわけない!
てことはこれは現実、真面目に凄く現実世界・・・だね。
「やぁ。」
呆然としている私の目の前で片手を挙げて真っ白い人が挨拶をしてくる。なんだろう、この感じ。見ているだけで、
「二度めのやぁ。」
殺意が湧いてくる。
「ひどいよ。」
はははー、もちろん冗談だよー。
「まぁいいや。仕切り直して。いらっしゃい。小さき魂。」
この空間には私と真っ白な人の二人だけ。つまり、真っ白な人の言っている「小さき魂」が私のことってことでいいのかな?
「その通りだよ。」
ん?私。今、口に出した?
「出してないよ。僕は小さき魂たちの心が読めるんだ。初めまして。僕はシン。この空間の創造者。小さき魂たちの言う神様だよ。」
うん。まぁ、一旦最後まで聴くよ。うん。とりあえず私のことは詩乃って呼んでね?
「わかったよ。詩乃。じゃあ僕のこともシンって呼んでね。えっと、どこまで話したっけ?あっそうそう全然話せてなかったね。もう詩乃が手間を取らせるからー、まあいいけど。僕は詩乃のいた世界を含めて4つの世界をもつ中級創造者なんだ。創造者には階級があって下級、中級、上級、特級って上がっていくのだけれど、狭き門でね。中級に上がれるのはほんの一握り、特級なんて砂漠の砂一粒ぐらいの割合なんだ。だから他の創造者たちは中級神になっただけで天狗になっちゃって仕事を適当にやることが多くて。詩乃も知ってると思うけど、ほら異世界転移とかいうの?そういうのをやっちゃうんだよねー。でも僕は自分で言うのもなんだけど、とても真面目でね。仕事をサボったこともなければ、大きな失敗もしたことがない。だから異世界転移とか異世界転生とかも僕の世界では一度も起こらなかったんだ。」
半分以上愚痴だよねそれ。そうか、きっとつらいことがあったんだね。うんうん。ここで発散するといいよ。
ん?あれ?異世界転移も異世界転生も起こらなかったんだよね?
じゃあ、私は?
「創造者同士で交流を持とうということで定期的に会議とかが開かれるんだけどね。この前の創造者定例会議で上級創造者様にお会いする機会があって。その時にいつも頑張ってるからって異世界転移許可証を一人分、発行して貰えたんだ。」
異世界転移許可証?
「えっと、この許可証があれば誰でも一人、自分の世界間を適法に移動させられるんだ。好きな子を好きな世界に移動させられるから創造者の間ではプレミアまでついてる凄いものなんだけど、まぁ僕の場合は誰にするかを決められなくて、こう、パラパラーっと小さき魂登録書をね、捲ってね。で、適当に決めちゃったんだけど・・・はぁ。」
なぜそこで溜め息をつく?そんなに残念なほど地味な女ですか私。あれ、否定できない?
「いや、そこはあまり問題じゃないよ。」
地味な女ってところは否定してくれてもいいんだよ?
「問題なのはね、詩乃の兄姉だよ。僕はね、詩乃を異世界へ送った時に詩乃の存在自体も送ったんだ。体も過去も未来も、詩乃を構成するすべてを送ったんだよ?つまり普通はいなくなったことに気づかない・・・はずなんだけど、・・・ぐす」
えっなんで涙ぐんでんの?
なんでそんな遠い目してんの?
「きづいちゃったんだよね、何故か。しかも、来ちゃったし・・・ぐす・・・」
な・に・が?
「「しーのーっ」」
えっ
呼ばれて振り返ると、見慣れたイケメンと美女がって
「お兄ちゃん!?お姉ちゃん!?」
元の世界にいるはずの二人がどうしてここに?
「「しーのーーっ」」
くぎゅぅ~
感動の再会だね。
ていうか、痛い。苦しい。しっ絞まってますぅ~!!
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