第22話 伝承と運命
今日向かったのはディルエールの西側五キロ付近だ。道中出てきたランク3~5の魔獣を余裕で屠りながら突き進んでいく。
「日向君、いいかい。剣は軽く持つものだ。強く握りしめては初撃をあてることができても、二撃目や切り返しが難しくなる。だから、武器に信じて、頼って攻撃することが大切だ。特に君のその剣にはそれが合っているはずだよ」
ルークはランク5の濃い紫の体表をした三つ首の犬のような魔獣『ケルベロス』を斬りつけながら、生徒に指導する先生あるいは弟子に熟練の技を伝道する師匠のようにその御業を見せつける。
「こんな感じで意識は敵に向けて、剣を自分の腕の一部と思うことが大切だよ」
日向はルークの教えにコクコクと頷いて、しっかりと目に焼き付ける。
(それにしても、不自然なくらい丁寧に教えてくれるなぁ)
確かにルークは他の『
「持ち方は人によって異なるけれど、片手で持つとどうも安定しないことが多い。慣れないうちは両手で持つことが無難だ」
そう言うルークは基本的に長刀を片手で振るっているが、『ケルベロス』を狩る現在はご丁寧に両手で斬りつけている。
「こんな感じだ」
ルークの動きを真似て、日向も剣を引き抜き果敢に『ケルベロス』に立ち向かう。日向の意志に呼応するように白銀光を放つ『デュランダル』を手に『ケルベロス』に肉薄する。
睨みつけるおぞましい六つの紫紺の瞳を白い双眸で睨み返し、そのうちの一つの首を、炎を吐き出す直前に斬り上げる。日向から向かって左側の首を飛ばした瞬間、残り二つの顔は苦悶の表情を浮かべながら業火を吐き出した。
日向の纏う鉄色の鎧にその炎が
「アチチチッ!」
熱を振り払うように鎧を擦り、体勢を立て直す。
「日向君、いい調子だ。そのまま中央を叩き切れ! 俺は右をやるっ!」
「……はっ、はいっ!」
ルークの激励に似た指示で二人は加速し、一体の『ケルベロス』に肉薄する。一首持っていかれた『ケルベロス』は激高し、断続的に炎を放射し続ける。
ルークは余裕の表情で、日向は必死の形相で、炎を躱し近づいていく。片足を蹴り、横にサイドステップ。すぐさま、頭を下げてしゃがみ込んで回避。前から飛び込んできた炎の球体を『デュランダル』で一閃。
二首の全力攻撃を捌ききり、二人はほぼ同時に『ケルベロス』の元へ到着。そして同時に斬りつけた。
舞い上がる二つの犬のような頭。飛び散る
「見事だ。覚えがいい」
「ありがとうございます。助かります」
握手を交わし、称え合う二人を『
けれど、微笑む口元にはどこか
「リバレイト」
戦場に響くはマロンの短文詠唱。隆起した体で大地を蹴り上げ、加速する。飛んでいるように低空を行く彼女の向かう先は全身を赤く染め上げた魔獣『オーガ』である。
高さは二メートル強。鬼とも呼べる醜悪で恐ろしい顔面は子供が見れば一瞬で泣き出し、永遠にトラウマになりそうである。猛々しい剛腕の片方には
「おぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
『オーガ』に全く怯むことなく突撃したマロンはその頑強になった拳で『オーガ』の腹を
「ルーク、お兄さん。後は任せました~」
ランク7の『オーガ』を束の間の速度で消し去ったマロンは尻を地面につけて、休憩がてら日向達の戦いぶりを見据える。
「日向君、『オーガ』は攻撃が当たればこちらの負けだ。回避を続けて、隙を見つけるんだ」
ルークと日向にそれぞれ一体ずつ『オーガ』が向かい合っている。ルークは長刀を片手に『オーガ』の体を少しずつ傷つけながら、形勢を優位にしている。
対して、日向は劣勢だ。『オーガ』の動きは思いの外機敏で、振るう棍棒をギリギリのところで
(こんなの食らったら、一撃でやられる。絶対、当たるわけにはいかない)
グァァァァァァァァァァ!
呻き声をあげ棍棒を振るう『オーガ』の攻撃を懸命に躱し切るものの、その体力は少しずつ削られていき、日向の動きは鈍くなる。
「……ああっ!」
足が縺れた拍子に日向は『オーガ』に隙を与えてしまった。
思わず漏れたその声に『オーガ』を
その時には、『オーガ』は棍棒を日向の方へ構えていて、あと数秒で惨劇が怒ろうとしていた。
「日向君っ! ——仕方ない」
その目に映った瞬間、即断でルークは行動を決定した。——顔には映る間もない強い覚悟をもって。
「その影に刹那を、そして別れを。——アクシズ」
ルークは加速する。影を置き去りにするかの如く、まさに刹那の速さで。
何よりも早く棍棒をその血色の剣で細切れにした後、刃先を『オーガ』の元へ向けて、一閃を刻む。
気づく間もなく命を絶たれた『オーガ』は紫紺色の
「……ありがとうございます。助かりました」
日向は『オーガ』を狩ったルークに賞賛と感謝の言葉を伝える。
「……」
血色の剣を持ち、純黒の鎧を纏うルークはただ佇んでいて、何も答えない。
「……ルークさん?」
日向はルークの肩をポンと叩いた。そして、ルークの体は重力に従って、地に伏し倒れた。ルークの体は冷たくなり、固まっていた。
その光景はその場の誰の目に焼き付いた。
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