重なり合うシカク
宮脇シャクガ
「僕の見ている世界は彼女と少しだけずれている」
僕は「彼女」と会うためにいつもの儀式を済ませる。
高校の同級生が働いているショップで、服に合う小物を
見立ててもらって、自称お洒落な友人にどこかしら変な
ところがないか最終確認してもらう。
僕としては毎回毎回ここまでするのも正直どうかと思う
ときもあるけど、だいたいの場合は赤っ恥をかかずにす
んでいるみたいだ。
それから、花屋に寄って、今日はバラを一輪。
もちろん服装に合ったものを、今ではすっかり親しくなった
店員さんに見繕ってもらう。
そして、失敗しないように今回も品種を聞いておく。
今日のやつはオレンジ色のイングリッシュローズ
系で、この香りの強さが特徴らしい。
なんで、バラを一輪買うのかって言うと、大学生の身の
上ではデートをするたび花束では財布が持たないし、肝
心のデート代がなくなってしまう。
それでも、僕たちが付き合うきっかけとなった彼女の言葉
を僕は律儀に守り続けているというわけなんだ。
不可能とされるバラの色に挑戦し続けてきた人たちの物語。
たった一輪の花にも無数にある人たちの物語。
たくさんある花言葉。
バラの花言葉はもう大体覚えてきた。
オレンジ色なら今回は、信頼とか絆で使うとよさそうだ。
この花を彼女に手渡して、いつものように何とも言えない
微妙な表情をされて、その後は、特に書くべきことはない。
そう、なかった。あの時までは・・・。
「信号が青になったよ。行こう。」
あのときの彼女の言葉がきっかけとなってしまったことが
今でも僕を悩ませる・・・。
―――――
いつもの場所に彼はいる。
いつものように5分前までには必ずそこにいる。
私から見ると微妙なセンスの服装で。
私から見たらいつも少しずれたタイミングで動く彼。
何度もそのことを言おうかと思ったけど、言えなかった。
もしかしたら、指摘をすることで傷つくのは彼だけでは
なくて、自分や周りの人もかも知れなかったから。
付き合ってるけど告白はお互いにしてなくて、ただ居心地
の良い関係をそのままにしておきたかった。
でも、それだけじゃあ満足できなくて。
もう一歩だけ前に進みたくて。
あるとき、彼に夢を話した。
英語を使った職業に就きたいこと。
そして、そのあとでうっかり言ってしまった一言。
「信号が青になったよ。行こう。」
今思えば、この一言が全ての始まりだった。
大事故と言ってもいいかもしれない。
「また、明日」
と気軽に言える事がどれだけの贅沢か、その日が来るま
で知りもしなかった。
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