パワーストーンで気になるア・イ・ツの♡をゲット! ②ルネサンスを彩った石

 恋に悩むオ・ト・メのために、パワーストーンを紹介している今回のシリーズ。

 前回は『亡霊葬稿ゴーストライターマスタード』に焦点を当て、タイガーアイとインカローズを取り上げました。第二回目は『亡霊葬稿ゴーストライターダイホーン』に目を向け、二人のキャラが着けているパワーストーンを解説したいと思います。


 梅宮うめみやあらたの着けているラピスラズリは、よく知られたパワーストーンです。

 12月の誕生石と言えばターコイズですが、ラピスラズリもその一つに数えられています。パワーストーンとしては、直感力や判断力を強める力があるそうです。


 ラピスラズリは真っ青な石で、アフガニスタンやシベリア、アメリカなどから産出されます。青金石せいきんせきと呼ばれる鉱物を主成分にしており、モース硬度は5から5.5の間とされています。


 真っ青なラピスラズリには、しばしば金色の点が散りばめられています。一見すると金粉のようですが、正体はおう鉄鉱てっこうと呼ばれる鉱物です。


 おう鉄鉱てっこうは鉄と硫黄いおうを主成分にする鉱物で、金に瓜二つの姿をしています。事実、よく金に間違われることから、「愚者の黄金」の異名を持ちます。


 金ピカに輝く様子はいかにも¥になりそうなのですが、残念なことにほとんど価値はありません。おう鉄鉱てっこうはどこにでもある鉱物で、工業的にもあまり使われていないそうです。


 色鮮やかなラピスラズリは、文明の黎明れいめいから人間を魅了してきました。けとして長い歴史を持つこともあり、世界最古のパワーストーンと言われています。


 事実、シュメール文明の遺跡からは、ラピスラズリを大量に使った軍旗ぐんきが発見されています。この旗は発見された場所にちなみ、「ウルのスタンダード」と呼ばれています。


 シュメールは現代のイラク周辺に栄えていた文明で、メソポタミア文明のさきがけと言われています。紀元前3000年頃におこったとされており、2017年現在世界最古の文明と考えられているそうです。


「ウル」とはシュメール文明の都市国家で、紀元前2600年頃に成立したと見られています。シュメール文明の中でも大きな都市で、紀元前2100年頃には一帯を支配していました。


 ウルのスタンダードは長方形の箱で、高さは20㌢、幅は50㌢ほどです。

 便宜上「軍旗ぐんき」とされていますが、実のところ、何に使われていたかははっきりしていません。一説には、楽器ではないかとも言われています。1900年代前半に発掘され、現在は大英だいえい博物館はくぶつかんが所蔵しています。


 箱の表面に張られた貝や石灰岩せっかいがんは、当時の情景を描き出しています。長方形の箱には大きな面が二つあり、それぞれ対照的なシーンを描写しています。


「戦争の場面」と呼ばれる面には、その名の通り、兵士や戦車の姿が描かれています。一方、その裏側には王と臣下がくつろぐ場面が描かれており、「平和の場面」、もしくは「饗宴きょうえんの場面」と呼ばれています。


 いずれの面にも、人物の背後にはラピスラズリが敷き詰められています。ウルのスタンダードを端的に表現するなら、「青い箱」と言うのが一番かも知れません。


 ウルの王墓おうぼからは、他にもラピスラズリを使ったヤギの像が発見されています。この像は、多くの部分を金箔で覆われています。黄色い光と青いラピスラズリの組合せは、多くの人に強い印象を与えることでしょう。


 有名なツタンカーメンのマスクにも、ラピスラズリが使用されています。エジプト考古こうこがく博物館はくぶつかんに展示されているこのマスクも、素材は黄金です。


 元来、光の三原色において、黄色と青は補色ほしょくの関係にあります。


 補色ほしょくとは、混ぜ合わせた時に白や灰色、黒になる色の組合せを指す言葉です。光の場合は赤とシアン、緑とマゼンタなどで、二つの色を混ぜると白になります。


 補色ほしょくの関係にある色には、互いの印象を強める性質があると言います。「黄」金の輝きに「青」いラピスラズリを合わせた人々も、この効果を狙ったのかも知れません。


 東洋でもラピスラズリは、特別な石として認知されていました。


 その証拠にラピスラズリを指す「瑠璃るり」は、仏教の七宝しっぽうに数えられています。七宝しっぽうとは七つの宝物のことで、仏教において価値があると認められた品を指します。


 七つの宝物の顔ぶれには、経典きょうてんによって微妙に違いがあります。


 例えば無量むりょう寿経じゅきょうと言う経典きょうてんでは、金、銀、瑠璃るり玻璃はり、シャコ、珊瑚さんご瑪瑙めのう七宝しっぽうと呼んでいます。一方、有名な法華ほけきょうでは、金、銀、瑠璃るり瑪瑙めのう、シャコ、真珠、マイカイを七宝しっぽうに定めています。


 聞き慣れない「玻璃はり」とは、水晶のことです。また「シャコ」とは寿司ネタに使われるシャコではなく、シャコ貝のことを指しています。「マイカイ 」は詳細が判っておらず、中国産の美しい石だと考えられているそうです。


 ラピスラズリはまた、顔料がんりょうの原料としても歴史をいろどってきました。


顔料がんりょう」とは着色に使われる粉末で、特に水や油に溶けないものを指します。我々がよく使うクレヨンや絵の具には、色の大本おおもととして顔料が加えられています。


 ラピスラズリを粉末状にした顔料がんりょうは、「ウルトラマリン」と呼ばれます。


 原料に由来する鮮やかな青色は、高名な芸術家たちを魅了してきました。

 レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロと言ったルネサンスを代表する画家たちも、こぞってウルトラマリンを使用しています。特にラファエロが好んで使用したことから、ウルトラマリンには「ラファエロ・ブルー」と言う異名があります。


 とは言え、多くの絵画において、ウルトラマリンは狭い範囲にしか使われていません。


 そもそも「ウルトラマリン」とは、「海を超えてきた」と言う意味を持ちます。

 当時、ラピスラズリは海路を使い、アフガニスタンからヨーロッパに運び込まれていました。そのため、非常に高価で、多用することが出来なかったそうです。


 貴重なウルトラマリンは、重要な箇所に限定して使われました。

 代表例が、聖母マリアの衣服です。

 アントワープ大聖堂に飾られている「キリストの昇架しょうか」や、「キリストの降架こうか」でも、マリアの服はウルトラマリンで塗られています。


 余談ですが、この二つの絵画は「フランダースの犬」に登場することでも有名です。と言うか、ネロとパトラッシュが天にされる時に見てたヤツです。


 一方、オランダの画家ヨハネス・フェルメールは、一般の人々を描くのにウルトラマリンを使いました。彼の絵に見られる美しい青色は、時に「フェルメール・ブルー」と賞賛されます。


 長くなったので、今回はここまで。

 次回は某荒くれもののパワーストーンを紹介します。


 参考資料:色彩心理のすべてがわかる本

        山脇恵子著 (株)ナツメ社刊

      色の知識 ――名画の色・歴史の色・国の色――

        城一夫著 (株)青幻舎刊

      一番くわしいパワーストーンの教科書

        天晶札乃 須田布由香 著 (株)ナツメ社刊

      パワーストーンBOOK

        マダム・マーシ著 (株)主婦の友社刊

      目的で選ぶ パワーストーン完全ガイド

        二瓶誠子著 (株)グラフ社刊

      幻想地名事典

        山北篤監修 (株)新紀元社刊

      鉱物の不思議がわかる本

        松原聰監修 成美堂出版刊

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