深海紳士録 ③海の底のムール貝
深海のビックリ生物を紹介している今回のシリーズ。
前回はクジラの骨に根付く怪生物、ホネクイハナムシを紹介しました。
実は
前回紹介した通り、クジラの骨には有機物が蓄えられています。特に
エサの乏しい深海において、クジラの死骸は食糧庫に等しい存在です。しかし肝心の有機物は硬い骨に閉じ込められており、普通の生物には取り出すことが出来ません。
ここで救いの手を差し伸べるのが、ホネクイハナムシです。
前回紹介したように、彼等はクジラの骨を溶かす酵素を持ちます。
溶けた骨からは自然と有機物が流れだし、海中に広がっていきます。
この「おこぼれ」を食べて生活している生物は、決して少なくありません。現にホネクイハナムシがいない場合、
やがて有機物は腐敗し、
ハオリムシ
ホネクイハナムシ同様、彼等は口も消化管も肛門も持ちません。
代わりに彼等は、体内に細菌を共生させています。
彼等は水深80㍍から430㍍ほどに棲息し、クジラの骨に付着することも確認されています。ハオリムシ特有のチューブは、最大で1㍍にも達するそうです。
ハオリムシ以上に器用なのが、ヒラノマクラです。
ヒラノマクラはイガイ
殻の大きさは1㌢ほどで、見た目はムール貝によく似ています。クジラの骨にびっしり貼り付き、長々と
彼等の
ヒラノマクラもまた、エラに
そしてまた彼等が飼っているのは、
ヒラノマクラのエラには、
なかなかやり手な彼等ですが、現在のところ、クジラの骨以外からは発見されていません。有機物も
ちなみにムール貝と彼等が似ているのには、ちゃんと理由があります。
実のところ、「ムール貝」と言う貝は存在しません。あくまで俗称として使われている呼び名で、多くの場合、イガイやムラサキイガイを指します。
名前の通り、イガイやムラサキイガイはヒラノマクラと同じイガイ
彼等は水深200㍍付近に棲息する生物で、体長は10㍉ほどです。
見た目は細長いナメクジと言った感じで、半透明の身体を持ちます。
ホネクイハナムシ同様、彼等も人間が沈めたマッコウクジラから発見された生物です。腐った骨の下から大量に見付かり、2004年に新種として認められました。
2017年現在、日本ではゲイコツナメクジウオ、ヒガシナメクジウオ、カタナメクジウオ、オナガナメクジウオと四種類のナメクジウオが確認されています。ゲイコツナメクジウオはオナガナメクジウオ
通常、ナメクジウオの仲間は、水深100㍍より浅い場所で暮らしています。
また水質にも敏感で、海が汚くなると姿を消してしまいます。
ところが、ゲイコツナメクジウオだけは、深海に棲み着いています。
しかも、
死骸の周囲は汚く、
水質にうるさいナメクジウオどころか、普通の魚も寄り付かない場所です。
なぜゲイコツナメクジウオだけが異なる環境に棲むのか、その理由は判っていません。
ただ先に書いたように、ゲイコツナメクジウオはナメクジウオの中でも原始的な種です。このことを踏まえるなら、ナメクジウオの祖先は元々、劣悪な環境で暮らす生物だったのかも知れません。
脊椎動物の進化を考える上で、ナメクジウオは非常に重要な生物です。
わざわざ「ウオ」と名付けられた彼等ですが、魚類ではありません。
彼等は無脊椎動物で、「
我々人間の背中には、頑丈な
同様に
実のところ、我々人間も、母親の胎内では
人間以外の脊椎動物も、ごく初期には
一方、
第1回目に取り上げた
やがて有機物を使い果たすと、
長くなったので、今回はここまで。
次回は海の底から離れ、身近な食卓に目を向けたいと思います。
参考資料:特別展「深海 ―挑戦の歩みと驚異の生きものたち―
公式図録
国立科学博物館 海洋研究開発機構
東京大学執筆
読売新聞社 NHK NHKプロモーション発行
絵でわかる古生物学
北村雄一著 (株)講談社刊
深海生物の謎
彼らはいかにして闇の世界で生きることを決めたのか
北村雄一著 (株)ソフトバンククリエイティブ刊
JAMSTEC 海洋研究開発機構
http://www.jamstec.go.jp/j/
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