Extra chapter Ⅶ Be A Hero (2013)
♪1 特命ソルジャー
防衛省特殊戦闘課。
それは世界征服を目論む悪の秘密組織から日本を――ひいては世界を守るために発足された極秘機関である――――。
そんなナレーションから始まるのは、一応、小学生男児以下をメインターゲットとしている特撮番組『特命ソルジャー』シリーズである。
第1作の『特命ソルジャー』が放映されたのはいまからちょうど40年前のことで、基本的に1年を1クールとし、数年の空白期間を挟んだものの今年で25作となる。視聴者を飽きさせないようにと手を変え品を変え設定を大幅に変え――まではしなかったが、デザインのモチーフやアイテムをその時代時代に合わせながら、子ども向け特撮番組としての確固たる地位を築いてきたのだった。
さて、25作めとなる40周年メモリアルイヤーの『特命ソルジャー』は、というと――
「忍者ですか」
前にもありませんでしたか? と続けて
「あるある。ていうか、忍者が絡むのはぶっちゃけあともう2作くらいある。『特命ソルジャーSHINOBI』ってガチ忍者のが、俺が5歳くらいの時に。それから結構最近『特命ソルジャー
国産ビールを、ぐい、と呷りながら
「詳しいですね、章灯さん」
チョコレートをつまみながら、晶は意外そうな目を向けた。
「一応俺も『オトコノコ』だからな。人並みに『特ソル』は通ってんだ。っつーか、いまでも結構好きだったりするし。いくつになってもヒーローってのは男の憧れなんだよなぁ」
「成る程。でも、過去に2作もあるのにまた忍者っていうのは……。よっぽど人気なんですかね、忍者」
そう言ってテーブルの上の資料に視線を落とす。
「そりゃ人気よ。それに作りやすいんじゃないか? 全く何もないところから産み出すよりは、何かしらの土台があった方が。――でも」
そう言いながらホチキス留めのその資料をぺらりと捲った。
「今回の主人公はさ、忍者の末裔っていってもそんなに上手く忍法が使えないっていう設定らしい。身体能力の方に振り切ってるっつーか」
「へぇ」
「で、その足りない部分を現代科学の力で補う――と」
「補えるものなんですか? 科学で、忍法が」
「知らねぇよ、そこまでは。でも、出来るんだろ。この世界では」
特命ソルジャーHAYABUSA
清掃員として行政庁舎に出入りしていた
「――んだと」
「いまのところ忍者要素はまったく出て来てませんね」
「まぁ、そう急くなよアキ。忍者要素が出て来るのはな、2話かららしい」
特命ソルジャーとしての一歩を踏み出したものの、それまでに戦闘の訓練というものを一切受けてこなかった隼は、その有り余る身体能力を活かしきれず空回りばかり。
そんなある日、シミュレーションルームのモニターを2台ほど破壊したところでDOMの改造信者『スパイダーダーク』がショッピングモールに出現したとの情報が入った。
イチカと共に現場に急行する隼だったが、やはり付け焼き刃の特訓では歯が立たず、絶体絶命のピンチに陥る。その時、変身アイテムであるブレスレットが光り、隼の身体が2つに分かれ――――
「分かれちゃうんですか?」
「……らしい。要は、これが分身の術だったわけだ。――で、その分かれたもう1人の方がサポートに回って一緒に敵を倒す、と」
「じゃ、戦うのは2人なんですね」
「いまのところはな。そりゃあ5人くらいで敵をボコボコにするのはちょっと卑怯な感じするもんなぁ」
「2対1というのも、なかなか卑怯な気がしますけど……」
「うーん、まぁ、そうなんだけどな。ちなみにその分かれた方を便宜上『分身君』って呼ぶらしいんだけど、そいつは『
「私に聞かれても」
「だよなぁ」
まぁ、とにかく――だ、と言って、章灯は晶の膝の上に資料を置いた。
「何せ生誕40周年で25作も続いてる大御所様だ。うんとノリが良くて恰好良いのを頼む!」
顔の前で手を合わせ拝むようにして言うと、その様子に晶は吹き出した。
「どうして章灯さんがそんなに必死なんですか」
「だって俺、夢だったんだもん。特ソルに関わるの。まぁ、小せぇ頃はソルジャーの方になりたかったけど」
「さすがの章灯さんでも無理ですか、アクションは」
「無理無理。俺バック転も出来ねぇし」
「そうなんですね」
「でも、このオファーが来ただけでも相当感無量なわけよ。あぁ、俺、歌ってて良かったぁ」
そのメモリアルイヤーを飾る『特命ソルジャー』の主題歌にORANGE RODが抜擢された、と、そういう訳なのだった。
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