♪8 種明かし
「だって昨日、あんなにまじまじと……」
「あれ、昨日じゃねぇよ。
「あぁ、そうでしたね。でも、それにしたって……」
あんなにじっくりとモニターを見つめていたというのに。それともの収録の日だけどうにか耐えられるような『魔法』でも使ったというのだろうか。
そしてその状態でふごふごと話し出す。
――が、聞き取りにくいことこの上ない。というか、晶はそれがどうにもくすぐったく、彼の声に耳を傾けるどころではないのだった。
「くっ、くすぐったいです、章灯さん……!」
「……ごめん」
「あれは何か仕掛けがあったんですか?」
やっと章灯が顔を離したところで、晶が問い掛ける。
「う――……、うん、まぁ、一応……」
「差し支えなければ、教えていただいても?」
未だにこちらを睨み続けている青白い看護師の視線にビビりつつ、章灯が語った、いや、『白状』したところによると――、
彼は、『あのVTRを見てもいないし、音声も聞いていない』ということだった。
「どういうことですか? 別のモニターを用意してもらった、とか?」
「まさか。俺一人のためにそんなこと出来ねぇって。ていうか、スタッフさんにはバラしてないからさ」
とりあえず、DVDは一度停止させ、当たり障りのないバラエティー番組を垂れ流している。下卑た笑いがいまの彼にはとても心地良かった。
「では、章灯さんだけ別録り……とか」
「いやいや、そっちの方が無理だから」
「じゃあ、どうやって……」
首を傾げる晶になぜか章灯は得意気な顔をした。
「眼鏡だよ」
「眼鏡ですか? あの、いつもの。度が入っていない」
「そうそう。いつものは伊達なんだけどな、あの日のは実は度が入ってたんだ。うんときっついやつ」
「そんなの持ってたんですか?」
「……いや、作った」
「えぇ――――――……」
そう、まず第一の『見ていない』というのは、厳密には、見ていなかったわけではなかった。見ていたが、『見えていなかった』のだ。
章灯はもともと視力は1.5とかなり良い方だ。なのでアナウンサー時の眼鏡は度が一切入っていない伊達である。
つまり、VTRの開始と共に眼鏡を度付きのものに換え、終了と共に再び伊達眼鏡に換えたということなのだった。眉間にシワを寄せ睨み付けるようにしていたのは、単に、ぐにゃぐにゃとした視界が不快だったためである。
その為だけにわざわざ作ったと語る章灯の顔は、恥ずかしさからかみるみる赤くなっていく。
「そうだったんですね。でも、かなり頑張ったじゃないですか」
「ん? ん――――……、うん、まぁ」
ぷいと顔を背け、煮え切らない返事をする。彼にしては珍しい態度である。
「あれ、そういえばさっき『音も聞いてない』って言ってましたよね。あれはどういうことなんですか? もしかして耳栓をしていた、とか?」
晶が思い出したように言うと、章灯は、自分から白状した癖に「まずった」と呟き、顔を背けた。
そう、ドラマの中のBGMやらSEやらもかなり気合が入っていたのだ。映画顔負けのその演出に、晶も何度その身を震わせたか。
「いや、その……、イヤホンから……」
「イヤホン? 生放送でもないのに、必要なんですか?」
「いや、本当は必要ない。中継もないし。ないんだけど……」
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