8/11 山の日・中編
「アキの挑戦してみたかった『山』って……」
「確かに『山』だけど……」
「うるせぇな、アキが山っつったら、山なんだよ。海でも川でも山なんだよ!」
「コガさん……。アキどんな暴君すか、それ……。ていうか、海や川ほどかけ離れてないっすよ。むしろ全然『山』です」
「良いじゃねぇか、章灯。アキだって勇気出したんだよ。――な、アキ?」
「確かにアキがここを選ぶとは意外すぎました」
丸いテーブルにORANGE RODのフルメンバーが集合し、各々のジョッキグラスを傾けている。
山の展望台にあるビアガーデンである。
さほど高い山ではないとはいえ、きちんと整備された登山道を登るか、あるいはケーブルカーを利用しなければ到達することが出来ない場所にそれはある。
本日は『山の日ウィーク』最終日ということもあり、いつにも増して混み合っていた。ここが他のビアガーデンと異なるのは、料金分の元を取ろうと躍起になってジョッキを呷るものがほとんど見られないという点だろう。何せここは山の上なのだ。飲み食いはもちろんではあるものの、それよりも景色を楽しみたい。そう考える人が大半なのだろう。ただひたすら飲みたいのならばそういう店に行けば良いのだし、第一、こんなところで酔いつぶれたりでもすれば帰るのが困難である。
晶はインドア派ではあるものの、風景写真などを見るのは割と好きなようで、そういった写真集も何冊か持っているのだ。だから恐らく、いつか行ってみたいと密かに思っていたのだろう。
「でも、アキが人前で飲むのはなぁ……」
そう呟きながら、自身のビールをごくりと飲む。今日も一日蒸し暑い日だった。そういうのを差し引いても美味いビールである。
「大丈夫ですよ。ゆっくり飲みますから」
仮にも人前であるため、その声は同じテーブルに座る者にもギリギリ聞きとれるというレベルのヴォリュームだった。
「でも……」
難色を示す章灯に、向かいに座る
「アキ、ここはな、フルーツフレーバーのノンアルも豊富なんだぜ?」
そう言いながら、なみなみと注がれたコーラのジョッキを高く上げる。勧めながらも自分がそれを頼もうとしないのは、彼が元々一滴も酒を飲めない体質だからである。ビールというものを産まれてこの方口にしたことがないため、例えフルーツのフレーバーが付いていたとしてもそれ自体の味を受け付けないのだった。
それを聞いて、
「あれは少々女性的すぎるのでは……」
女性達に軽く会釈をしてから向き直り、隣に座る章灯に尋ねる。もちろんプライベートだからといって女の恰好をするわけにもいかず、オンの時と何ら変わりのない男装である。
「え~? 良いじゃねぇか。こういう時でもなけりゃ飲めねぇしよ。――なぁオッさん、それってノンアルしかねぇのか?」
「うんにゃ。フツーのもあるぞ。ほいよ、メニュー」
「おぉ、サンキュ。――おぉ。良いじゃん、うまそー。俺、これいってみるわ。柘榴と甘夏のやつ」
「鮮やかですねぇ。んじゃ、せっかくなんで俺も。この宇治抹茶ビールいきます」
「うはっ、すっげぇ緑! 苔みてぇ! へいへーいっ、ちょっと店員さーんっ!」
キャッキャとはしゃぎ始めた中年達の元へ、色鮮やかなビールが届けられた。それを見て、すかさずスマートフォンを取り出したのは
「おい、章灯も持って笑え」
章灯の肩を抱き、ツーショット。
最終的には長田や晶をも交えて写真を取り、自身の
「コガさんの
湖上の投稿はあっという間に大量の反響がカウントされていく。
「お前らがぜーんぜんこういうファンサービスしねぇからよぉ」
「すいません。俺、こういうのよくわからなくて」
「未だにか? 章灯、お前俺より一回りも若いくせに!」
「いやぁ……ハハ……」
「アキはアキでマイペースだしな。それでも月イチくらいでSpreadしてんぞ?」
「してんの? アキ? 俺知らなかったんだけど!」
驚きのあまり腰を浮かせて晶を見る。彼女はキョトンとした表情でこくりと頷いた。
「何だよお前、何で知らねぇんだよ。――ほれ」
呆れ気味に差し出された長田のスマホ画面には『AKI@ORANGEROD公式』というアカウントのSpreadDERが表示されている。
5月5日に6月4日、7月10日……は俺の誕生日じゃねぇか。
本当に月イチかよ。
「――な?」
「はい。でもこれ……」
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AKI@ORANGEROD公式・5月5日
おはようございます。本日はこどもの日です。
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AKI@ORANGEROD公式・6月4日
おはようございます。本日はむし歯予防デーです。
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AKI@ORANGEROD公式・7月10日
おはようございます。本日はVoのSHOWさんのお誕生日です。
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「SpreadDERってこういうものでしたっけ?」
「言うな、章灯。これはこれでアキらしいっつってウケてんだ」
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