♪21 価値アリ
「いやぁ、上手くいって良かったなぁ、オッさんよ」
「――ん? おぉ。まぁな」
昼間騒ぎ倒した子ども達と咲は早々に就寝してしまい、
「ふはぁ~、かぁーっこつけちゃってぇ~。めちゃくちゃホッとしてた癖にぃ~」
空になっていた長田のグラスに並々とコーラを注ぐ。
「うるせぇな。いつかは通る道なんだよ。反抗期なんてやつはよぉ」
ニヤリと笑ってそれを飲む。若干温くなっていたがあまり気にならない。
「しかしよぉ、よくわかったよな、
「はん、そりゃあアレよ。親父の力ってやつよ」
「ほぉほぉ、そりゃあすげぇこって」
「思ってねぇだろ、この野郎」
「ぐはは、バレたか。しっかしわかるもんなのかねぇ。俺はアキの好みなんて全ッ然わかんねぇのに」
「アキは難しいからな」
長田は遠い目をしてぽつりとそう言い、また一口コーラを飲んだ。
「いや、案外簡単な話よ。言ってたろ、アキのギターソロが良かったってよ」
「おぉ。速くて恰好良かったってやつだろ? アキのソロなんてだいたいが速弾きじゃねぇか」
「あの曲のソロはな、勇人が好きなパッヘルベルの『カノン』がモチーフになってんだよ」
「ぱっへ……へ……?」
「パッヘルベル。お前もうちょっと勉強しろ。俺らの曲でクラシック使ってるのはあれくらいだからなぁ。あれから『応援団!』の曲聞き直したんだけどどうにもピンと来なくてな。で、アニメタイアップの曲全部聞き直してやっとわかった」
「何だよ。何だかんだ言ってクラシック好きなんじゃねぇか」
「赤ん坊の頃から聞かせてきたからなぁ。でも――」
ササミの梅チーズ焼きをひょいとつまみ上げ、ぽいと口の中に放り込む。
「もう解禁なんだろ?」
長田がその続きを語る前に湖上が口を挟む。
「再来月からのライブツアー、チケット売ってくれって頼まれたぞ、勇人から」
「何っ? 何でお前に言うんだよ!」
「知ーらねぇ。照れくさかったんじゃねぇの? でも可愛いじゃねぇか。チケットくらい何枚でも融通利かせてやるっつったのに売ってくれってきかねぇんだ」
「何だ、変なとこ律儀だな。ハハハ」
「金払う価値があるんだとよ。タダで聞くのはズルなんだと」
いっちょ前のこと言いやがってなぁ。そう続けて湖上は目尻を下げた。そんなことを言われて長田も嬉しくないわけがない。
「仕方ねぇ、小遣い上げるかぁ」
「――勇人、起きてる?」
「ん? おう」
小さな豆電球の灯りの下、興奮冷めやらぬ勇人はまだ起きていた。それはどうやら颯太の方でも同じだったらしい。ぐうぐうと高いびきをかいているのは大和のみだ。
「俺、何か興奮しちゃって眠れねぇ」
「俺も」
「恰好良かったよな」
「うん」
「
「歌ってる時は別人なのにな。あの人、すげぇ良い人なんだよ」
「AKIさん、普段も全然しゃべらないのな」
「そうだな」
「勇人の前でも?」
「うーん……、うん。そんなにたくさんはしゃべらないな。でもそこがまたクールで良いんだよ」
「言えてる」
「なぁ、颯太。もし颯太の父さん母さんが良いって言ったらさ、今度はライブに行こうぜ」
「ライブ? 勇人の父さんの? 良いのかよ!」
「うん。でもちゃんと金は払えよ」
「当ったり前だろ! 大丈夫、俺、お年玉使わないで貯めてるし。すっげぇ楽しみ~」
「……おい、俺は仲間外れかよ」
急に割り込んで来た大和の声に2人はびくりと身体を震わせる。
「起きてたのかよ、大和」
「起きたんだよ。俺を挟んでぺちゃくちゃうるせぇんだもん」
「ごめんごめん。大和には明日話そうと思ってたんだ。寝てると思ったからさ」
「で? どうなんだよ、大和も行くだろ?」
「当たり前だろ。お年玉前借りでな! いや、待てよ、母ちゃんも連れてけば良いんじゃね? 颯太、せっかくだからお前も母ちゃん巻き込めよ。皆でハマっちゃおうぜ」
「良いな、それ」
豆電球の下、川の字に並んだ少年達は、その後もしばらくの間熱っぽく語り合っていた。
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