♪11 1つの表現方法
「さて、アニサマも残すところあと2組となりました! ここからは準備のある
それまで待機していた佐伯がステージに上がると、観客席からは何故か笑い声が上がった。
見ようによってはゆるキャラにも見える外見。
そのずんぐりとした体型にそぐわぬハキハキとした美声。
一流大卒に裏付けられた豊富な知識と頭の回転の早さ。
いまや彼の『ホットニュース』は『WAKE!』の見所の1つとなっているのだった。
「さぁ、準備も出来たようです! では、御登場いただきましょう!
その紹介を受けて、激しい打ち込みサウンドと共にまるで海外のロックスターでもあるかのように悠然と2人が歩いてくる。軽く手を上げると、子ども達の声に混じって女性ファンからの黄色い声援が聞こえて来た。
何よ! このド変態パンツ被り野郎共が!
などと思っても決して子ども達の前では言えない。
曲は悪くない。子どもにも歌いやすく、覚えやすいキャッチーなメロディと、どこをどう切り取っても害の無い歌詞。建前上、アニメを子ども向けコンテンツであるとするならば、これ以上使いやすいユニットもいないだろう。
悪くはないと思いつつも好きになれないのは、彼らがいわゆる『打ち込みユニット』だからである。彼らにはベースもドラムも必要無い。恐らく本当はギターもいらないだろう。その証拠に三沢宗太のギターは音量を限界まで絞っており、彼は専らコーラスの方に集中しているのだった。アンチの間では『あのギターはただの飾りなのではないか』『本当は弾けないんじゃないか』という噂がまことしやかに囁かれている。そして、彼らのファンの方でもそう考えるものは一定数いる。いるのだが、そんなことは些末な問題なのだ。moimoizの三沢宗太は類稀なる音楽センスを持ち、ギター、ベース、ドラムなどなくても完璧に完成された楽曲を作り出すことが出来るのだから。
――むしろ、この御時世、いつまでもギターやベース、ましてやドラムなどといった楽器にしがみついている方がダサイ。
熱狂的moimoizファンの弁である。
「僕がギターを持ってステージに立つのは、それもまた1つの表現方法だからです。でもいつかは持たなくなるのかもしれない。ギターという楽器の限界が見え始めている、そんな気もするんです」
そんな台詞と共に気取ったポーズと表情で誌面を飾ったこともある。自分達も載っているその雑誌を見て、
「限界を語るなら、誰もが唸る作品をギター1本で作ってからにしろ。やりつくして、絞り尽くしてから言えよ。お前のギターがカラカラの搾りカスみてぇになったら、その通りだと認めてやるから」
湖上は文字通り笑い転げ、ヒィヒィ言いながらソファに座り直してそう言った。
「たかだか10年かそこらの活動で、お前は一体どれだけのもんを作ったんだっつぅの」
湖上は尚も言って再び笑った。
その言葉に晶はうんうんと頷き、長田は「よっ! たまにゃ良いこと言うじゃねぇか」と囃し立てる。章灯はというと、何故か湖上に握手を求めていた。
自宅のリビングで繰り広げられるそんなやり取りを咲は晶と共に怒ったり、長田に乗って拍手したりしながら見ていたのだった。
ドラムは絶対に必要よ。そりゃORANGE RODだって打ち込みの楽曲はあるけど、それでもドラム不在の曲なんて1つも無いもの!
そう思って、1曲目の『everything,everything』を終えたmoimoizの2人を睨み付けた。
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