12/25 Christmas・後編

「悪いな、面倒くせぇ姉弟きょうだいで」


 冬空の下、せめてもの変装と、多香から借りたニット帽を深く被り、マフラーをぐるぐる巻きにした明花さやかはふるふると首を振った。


「ううん、楽しかった。良いなぁ、木崎君は姉弟たくさんいて」

「あれ、みぎわって一人っ子?」

「そうなんだよね。だからああいう賑やかな感じって超憧れる」

「うるさいだけだぞ? リアル姉弟だと」

「良いじゃん、楽しそう」


 そうでもねぇよ、と続けようとしたが、きっとこの話題は平行線だろう。彼は一人っ子の寂しさを知らないし、彼女は多姉弟の煩わしさを知らないのだ。


 ぽつんぽつんと点在する街灯の下を歩く。雪は降っていなかったが気温はかなり低く、吐く息は白い。

 クリスマスだからか、すれ違うのは幸せそうなカップルばかりで、微妙な距離を取って歩く2人に注目することもない。駅まであと数メートルというところで、康介はぴたりと足を止めた。両側をアパートに挟まれた個人商店の前である。


「なぁ、汀」


 その声で明花は彼が立ち止まっていることに気付き、振り向いた。


「何?」

「お前ってさぁ、俺のことどう思ってる?」

「え? 一番仲の良い同期、だけど」

「だよなぁ、俺も」

「どうしたの、急に」

「いや、おかしいなぁって思ってさ」

「何が?」

「さんざん仕事と恋愛の相談受けてさ、朝まで飲んだりしてさ、俺、お前のゲロの始末だってしたことあるし」

「ちょっと、何」

「そんでもって、平気ですっぴん見せてくるし、雑魚寝した時なんかお前、腹出して寝てたからな。あと、いびきもすごかった」

「何? 何この流れ。何でいきなり貶められてるの、私?」

「いや、普通興ざめだろ、普段きれいに着飾って可愛くしてる同僚がさ、そんな姿晒してたら」

「まぁ――……そうだね。そうでしょうね」

「実際、それで冷めた女もいたからさ。でもさ、汀は全然そんなことねぇんだよなぁ。何でだ?」


 不思議そうな顔で首を傾げる康介に、明花も同じ角度で首を傾げる。


「わかんない。けど……」

「けど?」


「それは木崎君が私のこと好きだから、なんじゃない?」


「……はぁっ?」

「え? あ、いや違うよ? そういう『好き』じゃなくて! LIKE! LIKEの方の『好き』! 親友とか、そういうポジションの!」

「――そうか! そうだよな! あーびっくりした! 俺、お前のこと好きなのかと思って焦った~。そうか、LIKEの方だよな! 納得納得!」

「だよねぇ~。私もびっくりしちゃった! 無いよ、無い無い。私達に限ってLOVEの方は無いよ!」

「だよな」

「だよね」

「……だよな」

「……そうだよ」


「……せっかくだからイルミネーション見て行こうぜ」

「……そうだね」


 明花は康介からごく自然に差し伸べられた手を取り、歩き出した。



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