♪15 あと一週間
「上々、上々」
カナリヤレコードの社長室である。
スマホの画面を見て満足気な京一郎の向かいに立つ
「見るか、お前らも」
そう言ってスマホをこちらに向けてデスクの上に置く。章灯の方は一応義理で覗き込んでみたものの、晶の方は直立不動の姿勢で京一郎を睨みつけたままだ。
「そんなおっかない顔すんなよ」
スマホに表示されているのは日のテレの上層部と思しき人間から送られてきたメール画面で、先日の『MUSIC TOPIC』の視聴率と『
passion作の『振り向きざまに恋して』はやはりアイドル色が強く、AKI作の『make waves』はやや玄人好みというのがネット上で、というか、この業界内でもそう評価されている。
「あと一週間か。まぁ、どっちかだけを大っぴらにプロモーション出来ないからなぁ、後は発売日を待つしかねぇ。しかし――」
そう言うと、京一郎はずずいと身を乗り出し、章灯と晶に向かってわざとらしくため息をついて見せた。
「出ちまうもんは仕方がねぇよなぁ」
その言葉と共に引き出しから出したのは大きめの封筒である。どさり、とそれをデスクの上に投げた。
「開けてみろ」
意外にも先に反応したのは晶の方だった。それを見て京一郎がぽつりと呟く。
「……ショック受けんなよ」
何だか複雑な京一郎の表情とその言葉で章灯は晶を制し、封筒を手に取る。ゆっくりと口を開け、中のものを引っ張り出した。
「『週刊NOW!』……。え? あ? ちょっと! これ……!」
徐々に露わになっていくその雑誌の表紙は、最近売れ始めたグラビアモデルが真っ白なビキニ姿できわどいポーズを決めているというもので、コンビニの雑誌コーナーに並んでいてもまず手に取ることはない代物である。
アキの視線が痛い……ような気がする。
いや、ちょっと待て。俺が買ったわけじゃないし!
何だか恐ろしくて隣を見ることが出来ず、図らずも、彼の視線はそのきわどいグラビアモデルに注がれる結果となってしまう。
しかし、次に彼を驚愕させたのは、そのモデルの下腹部辺りに踊っている見出しの文字である。
『熱愛発覚!? 某人気ロックユニットS! 収録の合間にカフェデート!?』
「はぁぁああああ~~~~~~?」
章灯は無意識に叫んでいた。イニシャルがSのミュージシャン何て腐るほどいるだろう。しかし、『ロックユニット』の上に吹き出しで『兼アナウンサー』と付け加えられてしまっては、2010年現在、該当するのは彼しかいない。
「ちっ、ちがっ……」
そう言いながら慌ててページをめくる。違うと否定しながらも、厳密には違わないことは理解していた。
やや不鮮明ではあったものの、見覚えのあるカフェのテーブルで向かい合わせに座り、手を握っているように見えるのは、章灯とカメラで間違いないだろう。認めたくはないが身に覚えもある。
「――章灯さんですね……」
いつもと変わらぬ、抑揚の無い晶の声である。
しかし、彼にはわかる。これは――、怒っている。
いや、きっと晶自身は自分が怒っているなどとは思っていないはずだ。ただ何だか胸がざわついて落ち着かない状態、それくらいの認識だろうと思う。
「い……言い訳をさせてください……」
背中に嫌な汗をかきつつ、章灯はゆっくりと隣を見た。晶は激昂することもなく、「どうぞ」と返す。そんな二人のやりとりを、京一郎はニヤニヤと笑いながら頬杖をついて傍観している。
湖上が知ったらどんな反応するかな? そんなことを思いながら。
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