♪127 読み通り

 章灯しょうとの予想通り、『ウェルカム!』の番組公式SpreadDERスプレッダーは大変な騒ぎになっていたらしい。さらに、それを見たあきらのファンが松竹の所属事務所へ抗議の電話やメールを大量に送り付けるなど、騒動は一晩明けても収まる気配はなかった。


 章灯がそれを知ったのは翌日の『シャキッと!』終了後のことである。


「先輩、大変でしたね」


 黙々とデスクワークをこなしていると、後ろの席の木崎きざきが椅子を近付けて来た。


「大変って、何が?」

「またまたぁ~、とぼけちゃってぇ。昨日、他局の収録でトラブルあったみたいじゃないっすか」


 そう言いながらスマートフォンの画面を指す。そこには件のSpreadDERが表示されていた。


「えっ、ちょ、ちょっと見せて」



――――――――――――――――――――――

 ガチンコリエ@×××××××

 松竹マジ死ね! っつーか殺す!

 ♯ウェルカム!公式

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 園田あけみ@×××××××

 竹田許さねぇ!

 ♯ウェルカム!公式

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 タコユリイカ@×××××××

 松竹の竹田がAKI様の股間触ったってマジ?

 マジありえないし!

 ♯ウェルカム!公式

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 岬浩太郎@×××××××

 あんなトラブルあったのに、急遽生歌披露とかマジ神過ぎwwwwwww

 CDあと50枚買うわwwwwwwwwwww 

 ♯ウェルカム!公式

――――――――――――――――――――――

 米俵干瓢@×××××××

 つうか、松竹ってそんなに面白いか?

 あいつらで笑ったことないんだけど。

 ♯ウェルカム!公式

――――――――――――――――――――――



 画面をスクロールさせて続きを読む気にはなれなかった。章灯は顔を引き攣らせてスマホを木崎に返す。


「AKIさん、災難だったみたいっすね。ウチの局にもAKIさんのファンいるんで、もう朝からピリピリっすよ」

「そうだったんだ……」

「でも、そこで急遽生歌演奏とかしちゃう辺り、先輩の人の良さが出てますよね。好感度アップじゃないっすか」

「そんなつもりじゃなかったんだけどな。アキがギター持ってたのだってたまたまだったし。それに、とにかく場の空気がおかしかったからさぁ。俺も何かいたたまれなくって」

「いやいや、それにしたって、普通のアーティストだったらぶちギレてスタジオ出るんじゃないすかね?」

「成る程。そういうのもアリだったのか。次からはそうするよ」

「いやいや、先輩はそのままで良いんじゃないっすか? 低姿勢で親しみのあるロックユニットって感じで」

「木崎君、馬鹿にしてる……?」

「滅相もない!」


 そう言って、木崎はポケットから小さなチョコレート菓子を取り出した。


「これ、AKIさんにあげてください。元気出してくださいねって」

「え? おお、ありがと……。って、もしかして、木崎君……?」


 そっちの趣味が……? いや、まぁアキは本当は女だけど。


「へ? いや、そんな趣味はないっすよ。俺、彼女いますし。ただのファンです!」

「ファンだったんだ……。初耳……」


 アキ、とうとうウチのアイドルまで落としたのか……。

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