♪117 MUSIC TOPIC

「本日はよろしくお願い致します!」


 本番前に元気な声で挨拶をしてきたのは若手シンガーソングライターのMINAMIである。


 『MUSICミュージック PLAZAプラザ』で共演した際に『シャキッと!』への出演を打診したところ予想以上の好感触だったため、張り切った番組プロデューサーが彼女のマネージャーと交渉し、無事、出演の運びとなったのだった。

 一応、あきらにはその旨を伝えてはあるものの、またおかしなスイッチが入ったらどうしようと章灯しょうとは気が気ではない。おそらく、今日の放送もしっかりチェックするだろう。


 スタッフから渡された資料を見ると、どうやら彼女は晶と同い年であるようだが、誕生日が9月のため、一足先に23歳になっていた。デビューは今年の4月。路上でギター片手に歌っていたところをスカウトされたのだと言う。『MUSIC PLAZA』でギターの腕を見たが、なかなかのものだと晶は言っていた。もっとも、晶のようにエレキギターを弾くわけではないので、自分と比べるのはお門違いだとも言っていたが。


 何だよ、こういうのなら女がギター弾いたって何も言われないのかよ。


 と、章灯としては正直腑に落ちない。最近はアコギ片手に弾き語りをする女性歌手が増えてきたと思うし。それなのに、何で晶はダメなんだ、と。


「……い、先輩」


 とんとんと肩を叩かれ、章灯は我に返る。


「本番始まりますよ、先輩」


 隣にいるみぎわ明花さやかが心配そうに顔を覗き込んでくる。『先輩』と呼ぶのは局内だけだが、気を抜くとぽろりと出てしまうようだ。


「ああ、ごめんごめん」

「珍しいですね。若い女性に鼻の下伸ばしちゃうとか」


 茶化すように笑うと、目の前にいたMINAMIは照れたように笑ってから軽く会釈をしてカメラの奥へ移動した。コーナーが始まるまでだいぶ時間があるので、控室で待ってもらっても良かったのだが、せっかくだから見学させてください、という彼女たっての希望だった。


「続いては、『MUSICミュージック TOPICトピック』です」


 アシスタントの木崎きざき康介がカメラ目線で笑顔を振りまく。

 MINAMIのプロフィールが書かれたパネルが運ばれ、それと共に本人がカメラの前に歩いてくる。

「本日は、今年4月デビューで人気急上昇中のシンガーソングライターMINAMIさんです!」

 スタジオ内は拍手に包まれ、バックには彼女のデビューシングルが流れた。


「ありがとうございました!」


 コーナーが終わり、CMが終わったところでMINAMIは小走りで章灯のもとへ駆け寄って来た。丁寧に頭を下げる。長い髪がばさりと垂れた。


「もし良かったら、また曲を出す時にでも来てくださいね。このコーナー、常に出演者募集してますから」


 明花が笑顔でそう言うと、MINAMIは元気良く返事をした。やがて、ADの「CM明けまーす」という声が聞こえ、再度頭を下げてから足早に駆けて行く。


「感じの良い子でしたね」

「そうだな」


 さらさらと揺れる長い髪を見送って、章灯は視線をカメラに移した。


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