♪115 MUSIC PLAZA

「最後はORANGE RODのお2人ですね。こちらへどうぞ」


 後列の長いソファから、MCのいる前列のソファへと促され、章灯しょうとあきらは立ち上がった。

 アシスタントの女子アナが満面の笑みで席を指し、ベテランMCと彼女に一礼しながら席に着く。


 本日のトップバッターは若手シンガーソングライターのMINAMI、その次に今年で結成45年という大御所フォオークデュオ・クロッカス、そしてトリがORANGE RODである。


 MUSICミュージック PLAZAプラザの進行スタイルは、充分にトークの時間を取ってから曲、という流れになっており、自分の達の番でなくとも後列のソファに座っていなければならず、稀に話題を振られたりもするので気が抜けない。生放送なのだが、直前までみっちりリハーサルをしているという理由で、本番中に声出し等で抜けることも出来ない。よって、場慣れしていない新人ほど出番が早く、生演奏や不測の事態に強いライブバンドやベテラン、口パク上等のアイドルはトリに持ってこられるのである。


「よろしくお願いします」


 そう言って章灯が頭を下げると、それに合わせて晶も頭を下げる。


「えーっと、この番組は、2回目?」


 すっかり司会業が板に付いた60代のベテランタレント・林田義二よしじは人懐こい笑みを章灯に向ける。さすが、晶についての『情報』はしっかり入っているようだ。


「そうですね……。前回はスペシャルライブで出させていただきました」


 そうだ。この番組の出演で飯田家の目に留まったんだ。あん時は厄介だったよなぁ……。


「そっか、ライブで来てもらったんだったね。――それで? 今日は? 宣伝で?」

「ハヤシさん、はっきり言いますね……。でも、確かに宣伝ですけど」


 苦笑しながらそう言うと、アシスタントの女子アナ、広瀬千晴が新曲のジャケットをカメラに向ける。


「こちらですね。11月12日発売の5枚目のシングル『Up To Me !』。こちらは現在放映中のアニメ『歌う! 応援団!』のオープニング曲となっているんですよね」


 千晴はそう言って、晶の顔を覗き込みながらにこりと微笑む。


 この番組自体はかれこれ20年近く続いているのだが、変わらないのはベテランMCの林田のみで、アシスタントの女子アナは入れ替わりが激しい。千晴もアシスタントになってまだ日が浅く、もしかしたら晶のことを良くわかっていないのかもしれない、と章灯は思った。

 困ったように会釈する晶をかばうように身を乗り出し、「そうなんです!」と声を上げる。


「『歌う! 応援団!』って結構長くやってるアニメでしょ。ウチの孫も見てるんだよ。オープニングはずっと君らじゃなかった?」


 さすが、ベテランだけあって、きちんと調べてきている。長く続くにはそれだけの理由があるのだ。


「そうなんです! ありがたいことに、1期の前期後期と歌わせていただきまして、その流れで2期も、ということにですね……」

「そういうのって、オーディションとか、売り込みとかじゃないの?」


 林田ならそれくらいのことは知ってそうなものだが、いかにも驚いた、という表情で問い掛けて来る。知りたいのは彼ではない、視聴者なのだ。


「そういう場合もあります。新しいアニメとかですと、特に。ただ、中には原作者さんだったり、監督さんだったりの推薦というのもありますね。あとは今回みたいに、1期からの流れで、というのもあります」

「へぇ~、いろいろあるんだねぇ。ちなみに、最初は何? 推薦?」

「いえ、オーディションでした。その頃はまだ僕らデビュー直前で外部には完全シークレットだったので、白塗りで別バンドと偽って……」

 

 もちろんmoimoizとの対決の件は伏せたが、メイクの様子を大袈裟なジェスチャーで表すと、林田はカカカ、と笑った。


「白塗り! ――君も?」


 林田は晶を指す。晶は照れたように笑いながら小さく頷く。相槌だけで済むような質問の仕方も絶妙である。


「サポートメンバーも全員真っ白で。で、全員色違いのカツラ被ったんですよ。歌舞伎役者みたいな。僕が青で、AKIが赤で、後は金髪と黒髪で……」

「えぇ~っ? そんなんで良く選ばれたね!」

「僕も正直意外でした」


 よし、これの話題だけで終われば、何とかなりそうだ。章灯は胸をなで下ろした。


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