♪110 証
「アキ、明日だな」
ベッドの上でごろりと寝転がり、隣にいる
「そうですね」
いまだに至近距離で顔を突き合わせるのに慣れない晶は仰向けの状態でそう答えた。
「何が良いか考えたか?」
横向きに寝そべる自分と仰向けの晶。そんな状態にはもう慣れた。
「それが、ぜんぜん浮かばなくて」
不意に視線が重なり、晶の頬が赤く染まる。
「そうだなぁ……。指輪はあからさまだし、時計は……ギター弾く時邪魔だろ? まぁ、外しても良いんだけどさ。あとは……、ネックレスだとか……。まぁ、身に着けるものにこだわらなくても良いんだろうけど」
それでもいつか式を挙げる日が来た時のために、出来れば交換しやすいものが良いかもしれない。
「……出来れば、身に着けられるものが良いです」
顔を背け、控えめに発せられたその言葉に胸が熱くなる。晶も『婚約』というものをしっかり考えてくれているようだ。
「身に着けられ、でも、周囲に気付かれにくい、となると……。そういや、アキ、金属アレルギーとかは大丈夫だよな?」
「……私の副業ってご存知ですよね?」
「えっ? ああ、そうだった……。馬鹿だな、俺……」
晶は副業でシルバーアクセサリーのデザイナーをしており、もちろん普段から身に着けているのは自分の店のアクセサリーだ。
彼女は自分の身体が華奢であるのを気にして、少しでも男っぽく見えるようにとごついデザインのものをじゃらじゃらと身に着けているのだった。もっとも、首回りに大振りのモチーフを持ってくるのは、喉仏が無いのをカムフラージュするためだったが。
「木の葉を隠すなら森って言うし。いかにもな婚約指輪とかならすぐバレるだろうけど、アキの店のやつなら1個ぐらい増えてもわかんないんじゃねぇ?」
そう言ってから、さすがに自分の店のは嫌だったかもな、と思い直し、「いや、別にアキの店のじゃなくてもだな……」と取り繕ってみたが、晶の方ではさほど気にしていない様子だった。
「成る程……。その手がありましたね。てっきり、それらしい物でなければいけないのだと思っていました」
それらしい物……。おそらく、ダイヤが一粒きらりと輝く華奢な指輪でもイメージしていたのだろう。いや、それは章灯の方でも同じだった。
「せっかくですから、オリジナルで作りましょうか」
「オリジナル……」
「同じモチーフにして、どちらかは指輪、どちらかはペンダントトップにしたりですとか」
「おお」
成る程、オリジナルであればそういうことも出来るのか。
「モチーフをORに関連したものにすれば、ライブで着けても不自然じゃないですしね」
晶はむくりと身体を起こし、拳を顎に当ててぶつぶつと呟きながら何やら考え事をしている。デザインを考えているのだろう。
「……章灯さん、いくつか案が浮かびました。明日までに簡単なデザイン画を描きますから、見てもらえますか」
「え? お、おお……」
晶はおもむろに起き上がるとそれから一言も発さずに部屋を出て行ってしまった。
「え……? アキ……?」
そういえば曲だろうがデザインだろうが、晶は思いついたら即行動なんだった、と章灯が思い出したのは、それから数秒後のことである。
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