♪111 ORANGE GIRL&ROD BOY
『明日までに簡単なデザイン画を描きますから』
その言葉通り、
朝食後、コーヒーを淹れてじっくりと拝見させてもらう。
どれもモチーフとなっているのは、ORANGE RODのロゴにも使われているオレンジと釣竿である。果樹園を経営している母親の実家とは縁を切ってしまったのだから、無理にオレンジを使わなくても、と
「それでもいちばん好きな果物なので」
晶はそう言って笑った。
「アキはこの中だとどれがいちばん気に入ってるんだ?」
そう言ってテーブルの上にデザイン画を広げる。
1枚目はオレンジに釣竿がぐるぐると絡みついているデザイン。
2枚目は釣竿がオレンジを釣り上げているデザイン。
最後の1枚は1枚目と似ていて、オレンジに釣竿が絡みついてはいるが、ぎゅっと絞られ、果汁がしたたり落ちている。
「そうですね……。作りやすいのは1枚目ですが。章灯さんはどうなんですか?」
作りやすさでいうと、確かにそうなのだろう。2枚目のは華奢過ぎて耐久性に欠けそうである。
「んじゃあさ、せーので指してみようか。これで2人の意見が一致したら完璧なんだけどな」
ニヤリと笑ってそう提案してみると、晶は少し困ったように笑った。
「一致しなかったら、どうします?」
「そしたら、デザイナーとモチーフは一緒なわけだし、それぞれお互いが選んだデザインを着けるか、もしくはそのデザインを合体させるとか……」
「成る程……。必ずしも同じものを着ける必要はないわけですね」
晶は感心したように大きく頷いた。
「じゃ、行くぞ。決まったか?」
晶をちらりと見ると、視線を合わせてこくりと頷く。
「よし、せーのっ!」
2人は無意識に目を瞑ってそれぞれが気に入ったデザインを指差した。ほぼ同時に恐る恐る目を開けてみると、2人が指したのは3枚目のデザインである。
「……合ったな」
「……合いましたね」
思わず顔を見合わせる。
「章灯さんは、どうしてこれを……?」
「え? 何となくだけど。アキこそどうしてこれにしたんだ?」
そう言って誤魔化したが、実は、晶を強く抱きしめているようなイメージを抱いたから、というのが真相である。
ORANGE RODのファンの間で女性ファンをORANGE GIRL、男性ファンをROD BOYと呼ぶのがいつのまにか定着しており、とうとう公式でもそう呼ぶようになった。
だから、この場合のオレンジのモチーフは女性、つまり晶を示しているのだった。
「それは……。別に理由なんてないです……」
何やら頬を染めているところを見ると、今回の『別に』も本来の意味ではないらしい。もしかしたら、自分と同じ理由かもしれないと思って、章灯も少し照れくさい。
「まぁ、そんじゃそれは置いといてさ。これって、どれくらいで出来るんだ?」
「そうですね、大量に作るわけではありませんから……。急ぎで依頼すれば、12月の頭には」
「12月の頭。それじゃあさ、せっかくだし、12月12日に間に合うようにお願い出来るか?」
「12月12日……」
「俺らの結成日だろ」
そして、2人が出会った日でもある。
「わかりました。10日に出来上がるように依頼します」
そう言って、すっかり冷めてしまったコーヒーに口を付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます