リリー・ウィルの旅路


「あれ? 母さんリリーは?」

 レオンは階段から降りて来ると料理をしている母に尋ねた。

「あのお客さんなら草原の方に散歩してくるって言ってたわ」

「分かった。ありがとー!」

 レオンは走って玄関に向かい急いで靴を履き替える。

「行くなら気を付けて行きなさい!」

 料理場から母の大きな声が聞こえてくる。

「はーい!」

 レオンは大きな声で返事し「行ってきます」と言って玄関を出ていった。

「あの子、久しぶりのお客だからってはしゃいじゃって」

 母はフライパンを片手で動かしながらもう片方の手では鍋をかき回している。

「帰って来るまでに出来るといいけど」

 母は優しくニコリと笑って料理をしていた。



「リリー! リリー!!」

 レオンは草原を走り名前を呼んで探している。

「どうしたんだ? レオン」

 草原の岩に座っていたリリーが立ち上がり声のする方へ歩く。

「旅のお話聞かせて欲しくて!」

 レオンはリリーの前に来ると目を輝かせている。

「だからそんな楽しい話は無いって言っただろう」

「面白くなくてもいいよ! 外の世界の話を聞きたいんだ」

 リリーが嫌と言っても引き下がらない。昨日からずっと外の世界を聞いてくる。

 レオンの目は好奇心という輝きで満ちていてリリーを離さない。

「分かった。話そう。話せばいいんだろう」

 リリーは参った顔をしてさっきの岩に戻って行く。その後ろをついてくるレオン。

 今走れば逃げれるかもしれない。けどレオンはずっと追いかけてくると思う。それで迷子になればリリーの責任であの母に殺されるかもしれない。リリーは諦めておとなしく岩に座った。

「どこの話を聞きたいんだ?」

「えーとね」

 レオンも岩に座ろうと腕を伸ばしている。だがレオンよりも高い岩に座るのは不可能だった。リリーはレオンの腕を掴み自分の場所におもいきり引っ張った。登れたレオンは横に座りリリーを見る。

「リリーはどうして旅をしてるの?」

「どうして? 償いのため....かな」

「償い?」

「あぁ、私のワガママでたくさんの人々を苦しめてしまった。だから旅をして苦しめてしまった人々に謝るために旅をしているんだ」

「昔のリリーは悪い子だったの?」

 レオンの言葉にリリーは笑った。

「確かに昔の私は悪い子だったよ」

 レオンの頭をくしゃくしゃと笑いながら撫でまわした。

「リリーはいったい何をしたの?」

 リリーの手の下からレオンが見上げて尋ねる。頭から手が離れリリーは沈黙する。

「その話は今度だ。もうすぐご飯ができるから戻ろう」

 リリーは岩から降りてレオンの方に手を伸ばす。レオンは明るく笑ってリリーの胸にとんだ。

「母さんのご飯だー!」

「痛いんだよ。レオン!」

「わー! リリーが怒ったー」

レオンが一直線に家に走り、後ろからリリーが追いかける。二人の笑い声が草原に響き渡った。


 遠くのほうで雷が鳴る音と共に化け物のうねり声が響いたが二人には一切聞こえなかった。

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