消失少女

 もし…鮮やかな色をした世界から色が消えたらこんな景色になるのだろうか。

 

 その日、私は普通に、いつも通り何語もなく、変わらない一日を過ごしていた…はずだった。異変と呼ぶには曖昧なものだけどおかしいことが私に起こった。学校で楽しいことがあった。嬉しいことがあった。はずなのに記憶が無い。気持ちだけが覚えてる感じだ。夢を見たのに夢の内容を忘れたような確かにあったことだけを覚えていて思い出せない。深く、深く考えても結局思い出せなかった。

 家に帰ると曖昧だった異変が確信に変わった。それを考えたことすら消えたのだ。今日、学校であった出来事が一切思い出せない。何を習ったのか、友達と何を話したのかすら思い出せない。私は怖くなった。自分に何が起こったのか分からなく私は部屋に籠り泣いた。ただただ泣いた。

 それから二日ぐらい部屋から出なかった。母さんはどうしたの?と扉越しから聞いてくるが私は何も答えなかった。声が出なかった。糸が切れた人形みたいに身体は動かない。初めは悲しい、辛い、何で?とそんな気持ちで一杯だったのが今はそれすらも思い出せない。ガラスが割れるみたいに心が壊れていくようだった。

 

 気分転換に街を歩こうと思い外に出た。外を歩くとある異変に気がついた。私の目に写る景色が鮮やかな色をした景色がモノクロに見える。いや、灰色に見える。私の目から色が消えた瞬間だった。もう私は何も思えなくなりただただ歩く。

 歩いていると私の何かが消えていく感覚に襲われた。

 感情が消えて、記憶が消えて、色が消えて、次は音が消えた。何も聴こえない。鳥の鳴き声、車の音、私が歩く音、感覚がなくなった。

 それでも歩く私の前には絶望と呼ぶにはあまりにも残酷な未来が待っている気がした。

 最後に目から光が消えた。灰色だった世界は真っ黒な何もない世界に変わった。

 ―私が消えた―


 「どうだい楽しくもなかったろ?」

 男が子どもに向かい言った。

 「その子は死んじゃったの??」

 子どもが無邪気な顔して男に聞いた。 

 男は少し困ったような悩んだような顔をした。

 「どうだろうね。最後はどんな話にしてほしい?」

 男が尋ねると子どもは笑顔で即答する。

 「ハッピーエンド!女の子が助かる話が良い!」

 「じゃあ、ちょっと待ってね」

 男は笑顔で子どもの頭を撫でながら言った。

 子どもは笑顔でうん!と笑った。

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