木洩れ日の喫茶店
彼女が好きだった場所。
喫茶店の横に大きな木がたっている。日の光が木に降り注いで下には小さな木洩れ日が出来る。その場所は日が差し込むだけで何も無い。テーブルもイスも無くただ喫茶店の中から覗くだけ、そのせいなのか周りからは『木洩れ日の喫茶店』と呼ばれている。
店には客は俺一人でカウンターでコーヒーを飲んでいた。
「彼女が行ってもう何年になるんだ?」
唐突に前に居た店主が話してきた。俺は飲んでいたコーヒーを机に起き遠くを見つめた。
「もう三年だよ」
「そうか、そんなにたつんだな」
俺ら二人は昔を思い出してるかのように天井を見上げた。
彼女が行って三年、別に死んだりした訳じゃなく彼女は突然居なくなった。もともとどこかに行ったりするのが好きらしくてよくここで行った国や他県の話を二人でしていた。俺は彼女が笑顔で行った写真やお土産を見せてくれるのを黙って聞いていた。旅行の話をしてる時の彼女は生き生きしていて見ていて俺も嬉しかった。次は二人で行こうと話してたのに彼女は急に居なくなった。また一人で旅に出て帰って来ると信じて俺はこの喫茶店で待っていた。
「しかしあの時が懐かしいな」
店主はカップにコーヒーを注ぎながら俺に言ってくる。
「君らがあの席で楽しくお喋りをしていたり、たまに静かにあの場所を見ながらコーヒーを飲んでくれる。そんな二人を僕は見ているのが好きだったんだけどねぇ」
「やめてくださいよ。マスターも歳よりくさくなってませんか?」
俺は少し照れながら言う
「確かにあの席から見る木洩れ日は俺も彼女も好きでしたからね」
俺は残っているコーヒーを一気に飲み込んだ。
ふいにガチャンとドアが開く音がする。あれから何度その音にビビらされたか、最初は彼女だと思いドアを見ていたのが懐かしい。
俺はもう諦めてドアの方を見ないで店主におかわりを頼む。
「いや~、マスターいつものちょーだーい」
聞き覚えのある声がドアの所から聞こえる。そう、俺がよく知る、待ち望んでいた声が聞こえて俺はドアの方を見る。
「あれ?久しぶりー元気だった?」
ドアの人物は俺に気づいたのか手を降りながら言ってくる。
俺はイスから降りてドアの前まで走って行き彼女に抱きついた。
「おわ!?どうしたの急に」
彼女は少し驚きながら言ってきたがすぐに手で俺の頭を撫でながら言う。
「待たせちゃったね」
「ほんとだよ。黙って行くのはひどい」
「アハハ、ごめんね」
「ただいま」
彼女は優しい声で言ってきた。俺も彼女の耳元で言う。
そして色々文句を言ってお土産話を聞こう。二人のお気に入りのあの木洩れ日が見える席でゆっくりのんびりと……
「おかえり」
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