自己像幻視

 ここはどこだろう?どこかで見たことがある場所に私は立っていた。消えかけの街頭が照らす道路に私は立っていた。

 何でここに居るのか頭の中で考える。思い出そうとすると頭が痛い。昔のことが思い出せない。頭が酷く真っ白でまるで今までの記憶が全部消えて無くなったようだった。でも不思議と驚きや悲しみは沸いてこない。逆に清々しい気分で気持ちが良い。

 ここに立っていても仕方なく歩き出す。空には月が明るく街灯が少ない道照らしてくれる。

 夜なのに目は冴えていて周りがよく見えた。

 ちょっとした冒険気分で近くの家の庭を覗いたり、電気が消えた交番を見てみたりした。

 夜でもちらほら酔っぱらいが歩いてたり、残業帰りの人がいたけど誰も私を注意もしない。

 自分の子どもじゃないから気にしないのか?

 野良猫や家の犬にはやたらと吠えられたり鳴かれたりする。私って動物に嫌われるのかな?

 

 帰る場所も分からないから何となく河川敷を歩いていた。月が水面に反射して月が二つあるように見える。きれいだなぁと思いながらただただ歩く、見たことのある十字路に着くと私は何となく、何の気もなく左に曲がった。なぜ曲がったのか自分でも分からない。体が勝手に反応した。そのまま一本道を歩き続けるとふと家歩前で立ち止まった。

 知ってる家なのか自分でも分からず表札を見る。私は直感したここが私の家だ。これが私の名前だ。私はやっと家に着いた喜びと名前を思い出せた喜びで嬉しくて仕方がなかった。

 扉に手を伸ばし、静かに音をたてずに開く。靴を脱ぎ急ぎ足で階段を上がり自分の部屋の扉を開いた。本来は私が寝るはずのベッドには先に誰かが寝ている。誰?と思いながら寝ている人の顔を見る。

 本当は誰か何て私には最初から分かっていた。だってここで寝る人は一人しかいない。そうベッドで寝ているのは私自身だ。すやすやと寝息をたてながら気持ち良さそうに寝ている。

 何と表現していいのか分からない感情が心の底から沸き上がる。私はこの感情の名前を知らない。ただ涙だけを流している。足が動かず涙を流しながら私は私を見ている。視界が涙で滲むと同時に真っ暗に包まれた。


 目覚ましの音が鳴り響く、うーん、よく寝たと伸びをしながら体を前に起こす、ベッドから降りて部屋の扉を開き、階段を降りて洗面所に向かう。顔を洗い終わると鏡を見た。いつもと変わらない私がただ写っている。

 私はおはようと言いながらリビングに向かった。

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