私と日向ちゃん《加筆版》

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第1話

 私は、決して同性愛者レズでなければ、ロリコンでもない。

 そのはずだった。



 コイツ、なにを急に言っているのだろうと思われるかも知れないが、事実として述べたかった。

 かと言って、好きな異性が居るのか? と問われたら首を横に振らざるを得ない。興味を引く相手が居なかったのだから。

 強いてあげるのならば、可愛いものが大好きだ。こう言うと、友達やクラスメイトからは「意外!」と驚かれる。でも私は声を大にして言いたい、カワイイは正義なのだ!


 そんな私の名前は高木 玲奈れいな。我ながら格好良い名前だと思っているし、周りからは「玲奈ちゃんって名前通りで、少しクールでお姉さんって感じがするよね」と言われたりする。

 周りの女子が、この男子は格好良いとか、子供だよねぇやらと騒いで居るのを静かに相槌を打っていたせいかもしれない。

 正直、周りの男子には興味が無かったので仕方が無い。



 

 中学校に上がるまであと少し、現在は冬休みに入って軽く暇な時間を持て余しながら中学に入学してからの新しくなる環境や人間関係、学校生活を想像して少し憂鬱ゆううつになっていた。

 そんな時、隣にとある家族が引っ越してきた。 

 引越しの挨拶でやって来た夫婦の足元に小さな女の子が張り付いていた。そして、彼らを家に招き入れ、居間で軽く話す事に。

 その小さな女の子の名前は小鳥遊たかなし 日向ひなたちゃん。 私がしゃがまなければ目線を合わせられないぐらい小さく、可愛らしいつぶらな大きな目に、肩で切り揃えられたサラサラの黒髪。まん丸ほっぺは、柔らかそうで突けばプニッとしていそうだ。



 「ひなたといいます。れいなおねえちゃん、よろしくおねがいします」

 


 と小さいながらも、しっかりとした挨拶をする日向ちゃんはとても賢く見え、一挙手一投足が可愛らしく、何もかもが愛らしい。

 初めは、知らない人と会話をしなくてはいけないので少しめんどくさく思っていた私だが、そんな事はどうでもよくなり、日向ちゃんの事が気になって仕方が無かった。

 可愛いもの好きな私のハートは、既に鷲掴みにされてしまったのだ。心がキュンキュンするのを止められない。


 この時はまだ気がついていなかったのだ。

 人はこれを、一目惚れという。 


 それからは、暇な時間しかない私は日向ちゃんと遊ぶようになり、同世代の子と比べたら比較的大人しい日向ちゃんだが、最近では私が遊びに行くと「れいなおねえちゃん!」と言って駆け寄って来ては、小さな手で私の指を握り笑顔を向けてくれる様になった。

 この黒髪の天使は、私をどれ程メロメロにすれば気が済むのだろうか。





 冬休みが終わり、日向ちゃんとの逢瀬の遊ぶ時間が減ることに溜息をつきながら重い足取りで通学の為に外へ出ると、お母さんに手を引かれて出てくる日向ちゃんの姿を発見。

 私服姿ではなく、保育園指定の制服に身を包み黄色い帽子をちょこんと頭に被せた姿はあまりにも愛らしく、湧き上がる日向ちゃんへの赤い想いが鼻から漏れ出しそうだった。

 よくぞ耐えたと、自分を褒めたい。

 こちらに気がつき、天使の笑顔エンジェルスマイルで手を振る日向ちゃんの尊さに膝を折り掛けたダウン仕掛けたが、どうにか根性で耐え切りこちらも笑顔で手を振り返した。




 朝から思わぬ所で日向ちゃん成分を補給し、軽い足取りで学校に到着。

 しかし私の頭の中には今朝の日向ちゃんの姿で埋め尽くされており、フッとした瞬間には直様あの姿がリピート再生されてしまう。



 “はぁ……日向ちゃん可愛かったなぁ”



 そんな事を繰り返してと3時間目の授業が終わっていた。

 また脳裏に日向ちゃんの姿が浮かび上がりかけた、その時、友達が話しかけたきた。



 「ねぇ玲奈ちゃん、大丈夫? さっきから遠い目をしては溜息なんかついちゃって……もしかして、恋煩い?」


 「……え?」




 何故か、友人の言葉で周りが騒がしくなったが、それどころではない。


 恋煩い。


 そう聞いて、何かが私の心にストンッとハマった気がした。

 日々家族に対して、今日の日向ちゃんはどうだった、こうした姿が可愛かったなど、まるで世間話をするかの様に話す私に妹の様な存在が出来て嬉しいのだろうと微笑ましそうに聞き流していた両親の態度。

 若干腑に落ちない気持ちを抱えながらも私自身も、そういう事なのだろうと自分に言い聞かせるように納得してた。

 しかし今の言葉を聞いて、心の中に掛かっていたモヤみたいなモノが晴れるのを感じ、そして大いに戸惑った。



 “私は日向ちゃんに恋している? 保育園に通って小さい子に、それも女の子……”



 その事実に軽く動揺したけど、納得してしまう。

 私は今まで、こんなに好きになった人は居ない。

 そう……これが、私の初恋。



 「そっそんな訳無いじゃん。まったく、やぶから棒に何言ってるんだか。ただ休み明けで学校がダルイだけだよ」



 疑っている友人を何とか誤魔化すが自分の気持ちを自覚した瞬間、日向ちゃんへの思いが急激に加速した様な気がした。

 それを証明するかのように、私の心臓はドキドキと高鳴っている。




 もはや思い過ごしではない程、日向ちゃんへの愛が高まり、ダッシュで学校から帰宅。

 時間的にも日向ちゃんは帰ってきていると思い、来年は中学生になるのだからと買って貰った携帯電話から、登録件数の少ない物寂しい電話帳を開き通話ボタンを押す。

 そう、私は自分の心に正直に生きる女なのだ。



 数秒のコール音の後、日向ちゃんのお母さんが電話に出た。




 「あ、もしもし、玲奈ですけど」


 『あら、玲奈ちゃんどうしたの?』


 「日向ちゃんは帰ってきてますか? もし良かったら遊びたいなって思いまして」


 『日向なら帰ってきてるわよ。ちょっとまってね』



 と言うと、受話器越しに日向ちゃんを呼ぶ声と子供特有の高い声が聞こえてきた。



 『もしもし、れいなおねえちゃんですか?』



 電話ごしに嬉しそうな声が聞こえてくる。

 その声は、鈴を転がすような音色で私の耳をくすぐる。眼福なら耳福だ。



 「っは。えっと日向ちゃん、これから遊びに行っても良いかな?」



 うっとりと聞いて居たが、すぐに我に返り要件を伝える。

 日向ちゃんのエンジェルボイスに危うくトリップ仕掛けた。アブナイアブナイ。



 『ほんと!? やったぁ! それじゃあ、ひなたのお家でまってますね』



 と嬉しそうに返事をもらったので背負っぱなしだったランドセルを置いて、気持ち的には瞬間移動をするぐらいの速さで隣の家へと向かった。

 唸れ、私の瞬足!


 こうして、私は日向ちゃんとの逢瀬を順調に重ねていった。






 小学校の卒業を控えて、周りの女子達は好きな男の子に告白をするしないで盛り上がっていた。

 その中には、男の若くて格好良い先生なども候補に上がっていたが、私には関係のない話だ。


 自分の恋心が、普通ではないのは十分理解している。

 むしろ異常だ。

 私も日向ちゃんに告白を?

 いやいや、告白してどうなる。相手はまだ小学生にも満たないから恋なんて分からないだろうし、何より分かったとしても気持ち悪いと思われるのがオチだろう。



 “あれ?私、詰んでるよね”



 周りがワイワイとやっている中で、今更な事実に1人絶望している私。

 というか、なんでそれに気がつかなかったのだろう……。恋は、人を盲目にすとは言うけど、このことか。

 今のところ、好かれているとは思う。でも、きっとそれは恋愛の好きではないだろう。



 “はぁ……どうしようか”



 心の中で溜息を吐いて、未だにガールズトークに花を咲かせるクラスメイトを横目にしながら考える。

 とりあえずは、今ある幸せを噛み締めておこうと。




 そんなことを思っていた矢先、帰りのショートホームルームが終わり下駄箱に着けば見知らぬ手紙が入っていた。

 横長の白い便せんに入ったソレ。

 汚れの付いてない真っ白なソレを手にして立ち尽くしていると、一緒に昇降口まで来た友達が不審に思い近づいて、私の手元を見下ろした。



 「ねぇ玲奈ちゃん、どうしたの……って、それラブレター!?」



 やはり彼女の目から見ても、ラブレターに見えるようだ。

 黄色い悲鳴を上げている友人に断りを入れて、人目のつかないように近くのトイレの個室へ入り、封筒から手紙を取り出した。



 【高木 玲奈さんへ

 突然のお手紙でおどろかれたと思いますが、僕の気持ちを伝えたくて贈らせていただきます。

 ずっと前から好きでした。良ければ僕と付き合ってください。

 明日の放課後、校舎裏の焼却炉前で待ってます。そこでお返事をください。


 鈴木 勝谷しょうやより】



 やべぇよ、マジモンのラブレターだよ。



 「はぁぁぁぁぁ……」



 あまりの事に溜息しか出てこない。

 鈴木勝谷といえば、クラスメイトの女子達が優しくて運動も得意で格好良いと噂していた男子の1人だ。

 とりあえず、手紙を戻してポケットの中へしまい込み、昇降口で待っているであろう友人の元へ。



 「ねぇねぇ! やっぱりラブレターだった? 流石玲奈ちゃんだよね、こう大人の魅力みたいなのがあるからラブレターの1つや2つ貰っても不思議じゃないよね」


 「いやいや、そんなことないよ」



 と、はしゃぐ友人をいなしながらトボトボと帰宅。

 暗い気分の所為で体が重たく感じる。

 ようやく休める、そう思って自分の部屋に入り机の上にランドセルを置てベットに飛び込もうとした瞬間、家のインターホンが鳴った。

 今は買い物に出かけていると書置きを残して居ない母の代わりに、私が出ないくてはいけない。



 「まったく誰よ……」



 愚痴りながらも、玄関の方へ行き扉を開ける。

 心なしか、扉が何時もよりも重たい。

 


 「はいはい、どちらさまぁ~~~」


 ガチャッ


 「れいなおねえちゃん!」



 と、開けた瞬間小さい何かが足に抱きついてきた。

 いや、この声とか、匂いとか、感触とかで誰かは直ぐに分かったけど!



 “あぁ~~~抱きつかれているだけで、疲れきった心と体が癒されるぅぅぅ!”



 先程までの重たい気分は何処へやら。

 流石マイエンジェル、癒し効果バッチリだ。



 「どうしたの、日向ちゃん?」



 足に抱きついたままのキューティクルな旋毛つむじに話しかける。

 すると、ようやく日向ちゃんは顔をあげてくれた。



 「お家から、れいなおねえちゃんが帰ってくるのが見えので、遊びに来ちゃいました。ダメでした?」



 と少し不安そうに首をかしげる。

 そんな不安に揺れる表情も可愛らしい。



 「そんな事ないよ! 来てくれて嬉しい。ささ、上がって」



 意気揚々と日向ちゃんを連れてリビングへ行くが、遊ぶものが無い、さて困った。

 突然の訪問だったので、何も考えていない。

 とりあえず日向ちゃんを先にソファーに座らせて、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し2人分用意して持っていく。



 「オレンジジュースをどうぞ」


 「ありがとうございます♪」



 うんうん、礼儀正しくてホント良い子だよ。

 こうやって、ちょこんと座りながら両手でコップを持って、ちびちびと飲む姿は見ているだけでご飯3杯行けるね!

 私も学校帰りだったこともあり、喉が渇いていたのでオレンジジュースを口にする。

 やっぱり、果汁100%に限るね。カラダに染みる。



 「れいなおねえちゃん、これなんですか?」



 日向ちゃんから目を離してジュースを味わっていたら、いつの間にか小さい手がラブレターを握っていた。

 え、いつの間に!?



 「ごほっごほっごほっ」



 突然のことに、ジュースが気管に入ったゲッホゲッホ。

 よりにもよって、一番見られたくない人物に見つかってしまった。

 別に見られたからといって何かがある訳ではない、これは気持ちの問題なのだ。



 「だいじょうぶですか!?」



 そう言って、日向ちゃんは隣に座っている私に密着して、手を精一杯伸ばして背中を一生懸命に撫でてくれた。

 あぁこのままナデナデされ続けたい……じゃない!



 「あ、ありがとう日向ちゃん。 えっと、それはどうしたのかな?」


 「これですか? さっき、れいなおねえちゃんが座った時に、スカートのポケットから落ちました」



 くそう、このラブレターめ。

 どこまでも厄介な存在らしい。

 ここで嘘を付くのは簡単だ。しかし惚れた弱みなのか、日向ちゃんには嘘を付きたくないという思いが強く、どうしたものかと悩んでしまう。



 「ん~~~~?」



 と首を傾げて答えを待っている姿は可愛らしく、どんなお願い事でも全てを叶えてあげたくなってしまう程の破壊力!

 だから私は、降参して素直に本当のことを言う。



 「それはねぇ……ラブレターって言うんだけど、分かるかな?」


 「ひなた知ってます! スキな人にきもちをつたえるために書くお手紙なんですよね。……もしかして、れいなおねえちゃんが誰かに渡すために書いたお手紙なんですか?」



 少し不安そうにして聞いてくる日向ちゃん。

 どうしてだろう?



 「違うよ。これはね、私が今日貰った物なの。私このことが好きですって書いてあったんだよ」



 不安そうな顔を見た所為で、ついつい聞かれていもいない事まで答えてしまった。



 「好き? ひなたも、れいなおねえちゃんや、お母さんやお父さんがダイスキです!」


 「ん~~~とねぇ。そう言う好きじゃなくて……」



 なんと言えばいいのだろう、幼女に対してどう説明すればいいのやら。

 私自身も、そこまで経験がある訳ではないでハッキリとは言えないが、とりあえずは自分の経験を元に伝えてみよう。

 


 「こう、その人のことを思うと胸がドキドキして、ふとした時にその人の事を思い浮かべてしまったりして、ずっと一緒に居たいと思えて、一緒に居ると胸の中がポカポカと温かい気持ちになったりする様な、そんな感じの気持ちでね、それを恋っていうの」


 「ドキドキ……ポカポカ……」



 自分でも、どう伝えれば良いのか試行錯誤しながら伝えたが、うまく伝わっただろうか。

 私の話をきいて、自分の胸に手を当てて難しい顔をして考え込む日向ちゃん。

 そんな姿が愛らしくて、頭に手を乗せて優しく撫でてしまう。すると、難しく悩んでいた顔が一瞬で嬉しそうに目を細めて笑顔になる。



 「嫌じゃない?」


 「う~うん、れいなおねえちゃんにナデナデされるの気持ちがいいです。なんだか、胸がポカポカします」


 「そっか」



 そうして、沢山ナデナデして十分に堪能させて貰ってから手を離すと、日向ちゃんがこう切り出してきた。



 「れいなおねえちゃんは、そのお手紙に返事をするのですか?」


 「うん、するよ。しないと相手に失礼だからね」


 「もしかして……その人のことがすきなんですか?」



 と嬉しそうだった顔から、悲しそうな顔になってしまう日向ちゃんに慌てて答える。



 「違う違う違う! お断りするんだよ。全然好きでもなんでもないからね。私は日向ちゃんの方がずーーーと好きだよ」



 そう言って私は、日向ちゃんを膝の上に乗せて抱きしめる。私の思いが、少しでも伝わればいいなと思って。

 私の好きが伝わるとは思えないし、バレてしまったら気持ち悪がられるかもしれないが、今ぐらいはいいよね?


 嫌がられないことをいい事に、愛しの人の髪の良い香りや体温を感じながら抱きしめ続ける。

 そしていつしか、そのまま気持ちよくなってしまい、2人してお母さんが帰ってくるまでソファーで寝てしまうのであった。







 告白の返事や、それに対して女子達の反応など、なんやかんやドタバタしながらも卒業式当日に。


 1人娘である私の卒業式だからと、張り切っている両親を尻目に学校へ向かう。

 ん? 告白の件はどうなったのか?

 もちろん断りましたとも。

 その後、小学校という小さい社会の中では隠し事が難しく、告白の件がバレてしまいクラスメイトの女子達からは勿体無いと騒がれたりした。

 そしたら、なんの嫌がらせなのか、卒業式前日に3通のお手紙が下駄箱に入っていた。

 もっと他に渡す相手が居るだろ、オイ。


 またもやトイレの個室に入り、手紙を開封する。

 どれも似たような内容で、これまた女子に人気の高いメンツが揃っていた。なんで?

 しかも、明日の卒業式終わりに返事が欲しいとのこと。

 そして何故か、そのことが既に知れ渡っており、またもや女子に囲まれて騒がれることに。



 「玲奈ちゃんって私達と変わらないの歳なのに、綺麗でクールな美人なお姉さんって感じがするよねぇ。やっぱり男子はそういう子が好みなのかなぁ?」


 「玲奈ちゃんなら、仕方ないかなぁって思っちゃうよね」


 「「「うんうん」」」



 確かに私の外見は美人さんという評価を貰っている。

 ウチの両親は綺麗だと思っているし、そんな両親からも「玲奈は可愛いというよりも綺麗だから将来が楽しみだね」と言われるが、身内びいきな意見として捉えていたので、特に気にしていなかった。

 なぜって、可愛いものを愛でている方が幸せだから。

 アイ ラブ KA WA I I。アイ ラブ 日向ちゃん。

 私の可愛いオブ ナンバーワンは日向ちゃんなのだ。



 卒業式はつつが無く終わった。

 大体の子は市内にある同じ中学へ行くので、特に感傷は無い。また中学で会えるのに、女子の皆は泣いていたが。

 そして私は、見納めのつもりで校舎を見渡しながら、忌々しい記憶が残る焼却炉の所へ向かっている。

 3人共、同じ場所を指定するとは、ワザと狙っているのかな?

 

 到着すると、そこには気まずそうな男子3人が待っていた。

 ハッハッハッ、ザマァ見ろワロス



 「「「あ、高木さん!」」」



 向かってくる私を見つけると嬉しそうに私の名を呼ぶ。

 しかし3人共、直ぐに「え?」っという顔をしてお互いに顔を見合わせる。

 ちょっと笑いそうになった。ごめん、大爆笑の間違いだった。



 「えっと、3人共……何をコン……」



 おっと危ない、何をコントしているのと言いそうになった。

 実際に漫才としか思えない状況なので許して欲しい。



 「ゴホン。3人共お手紙の返事を待っていたんだよね?」


 「そうだ、ずっと前から好きだった。良かったら俺と付き合って欲しい」



 私の問いかけにイチ早く答えるのは、俺様系でリーダーシップがあり、顔も格好良いと噂される杉崎 まこと君。



 「僕だって前から好きだったんだ。 是非とも、僕と付き合ってください」



 次は学年の中でも頭が良い方で、紳士的な態度で女子に人気のある上野 修也しゅうや君。

 


 「ぼっぼくも……ずっと好きだったんです。だからぼくと!」



 と言うのは、小動物っぽい仕草と男の子にしては可愛い顔で、女子から可愛がられている早川 じゅん君。

 全員、委員会や前に同じクラスメイトだったりしたが、その程度の間柄だったはず。

 もちろん、この間の鈴木 勝谷もそうだ。

 それにしてもこの場面、私もそれなりに漫画など見たりするが、どこの少女漫画ですかと言いたい場面だ。

 私はモブでいいよモブで。



 「3人共、ごめんなさい!」



 頭を下げてキッパリと断る。

 そして直様90度方向回転。

 荷物は既に両親に持って行って貰っているので、身軽だ。よーーーい、ドン!

 私はごめんなさい3人斬りからの華麗なダッシュを決めることに成功。


 呆気にとられている3人は、追ってくる様子はない。もし追いかけてきたとしても、追いつけないだろう。なんてたって、これでも走るのは得意で、学年で1番早かったりする。



 「ふぅ……無事に巻けて良かった。」



 一番初めに告白してきた鈴木 勝谷君の時は、断った後も少ししつこかった事もあり、3人も居る所為で余計にややこしくなると予想していた私は、断った瞬間に逃げようと計画していた。

 上手くいったようで良かった。

 しかし、卒業後の進路を知らないので断言はできないが、告白してきた3人も中学で会う可能性が高いので結構憂鬱だったりする。

 まぁいいか。

 未来の私に全てをぶん投げて帰宅しよう。




 帰宅するとうちの両親と一緒に、何故か日向ちゃん家族が居た。

 どうやら、私の卒業を一緒に祝ってくれるそうだ。

 その中でも一番乗り気だったのはどうやら日向ちゃんみたいで、一輪のスイートピーをプレゼントされた。



 「れいなおねえちゃん、ごそつぎょうおめでとうございます! どうぞ、これを受け取ってください」


 「ありがとう日向ちゃん!」



 どうやら、自分のお小遣いを使って、選んで買ってきてくれたらしい。

 あまりにも嬉しいサプライズプレゼントだったので、抱きしめてしまった。

 これはあとで押し花にして、シオリにしよう。


 その後、6人で外食することになり、日向ちゃんに食事の席で卒業式について話をせがまれて、天狗になった私は色々な事を話した。

 我ながら、チョロイ女だ。



 「大半の子はまた会えるけど、寂しくて泣いちゃう子が多かったね」


 「れいなおねえちゃんは、さみしくないんですか?」


 「仲のいい友達は同じ中学校に行くから、寂しくはないかな」



 そして卒業となれば出てくる話題の1つ。



 「ねぇ玲奈。誰から告白とかされなかったの? なんといっても、卒業式に告白ってロマンチックですもの」



 と話題を降ってきたのは、うちのお母さんだ。

 なんて鋭い話題振りなんだ。



 「そう言えば、荷物だけ持たせて何処かに行っていたな」



 お母さんに追随する様にお父さんまで言ってくる。

 その時、じょぜつになっていた私は、迂闊にもそれに答えてしまう。



 「それがねぇ。前にも1人告白されたのだけれど、今度は3人同時で、しかも同じ場所だったんだよね。他に告白する相手が居ないのかな」


 「そんなの決まってるじゃない。 玲奈ちゃんが美人さんだからよ」


 「そうそう、玲奈ちゃんのお母さんに似て、とても美人さんなんだから。見る目がある男の子達ね」



 と、お母さんに同調する日向ちゃんのお母さん。



 「それなら、日向ちゃんだってとても可愛らしいから、将来モテモテになりそうですよ」



 なんといってもここに1人、既に心を奪われている人物がおりますゆえ



 「そうなのよねぇ。でも、日向はしっかり者だから、きっと大丈夫よ」



 そんな感じで、親バカな親達の娘自慢大会が始まり、私は大人しく聞くことにした。

 それにしても、先程から日向ちゃんが静かで気になる。

 ご機嫌斜め? 一体どうしたのだろうか。

 私の恋の行方も、日向ちゃんのご機嫌は行方知れずだ。






 ☆★☆★☆★☆★☆






 わたしの名前はたかなし ひなたといいます。


 お父さんの仕事で、新しいお家にひっこしてきました。

 それからお家のすぐ隣にあるお家に、ひっこしの挨拶に行きました。

 そこには、とてもきれいで美人なおねえさんがいました。

 おねえさんのなまえは、たかぎ れいな。その日から、れいなおねえちゃんって呼ばせてもらっています。

 

 れいなおねえちゃんは、冬休みというすこし長い休みらしく、よくひなたと遊んでくれます。

 きれいでやさしくて、いろんな事を知っているれいなおねえちゃんを、ひなたはすごく好きになりました。



 「きょうもね、れいなおねえちゃんにいっぱい本を読んでもらったの!」


 「そうかい、それはよかったね。日向は本当に玲奈ちゃんのことが好きなんだね」


 「うん、大好き!」



 と仕事から帰ってきたお父さんに、今日もれいなおねえちゃんと遊んだ事を話します。 

 他にも、おままごとをやったり、ゲームをやったりといろんな事をしますが、本を読んでもらうのが1番スキです。

 たまに、ひなたの知らない難しいことばとかを教えてもらって、ちゃんと分かると頭をナデナデしてもらえるからです。

 やさしい手つきで、ひなたの頭をなでてくれる手はあたたかくて、とてもきもちいいのです。

 それだけじゃなくて、いい匂いもして一緒にいると安心できて、ポカポカするのでダイスキです。






 そして、もう少しでれいなおねえちゃんに、卒業式という日をむかえる、そんなある日。



 「あ、れいなおねえちゃんだ!」



 ちょうど、じぶんの部屋にいたひなたは、2階のまどかられいなおねえちゃんが帰ってくるすがたを見かけました。

 れいなおねえちゃんと一緒にいたくて、たまらなくなってお母さんにれいなおねえちゃんの所に行くことを伝えて走って向かいます。

 まえに、れいなおねえちゃんのお家に行ったときインターホンがならせなくて困っていたことがあって、玄関まえにひなたせんようの棒が置かれるようになりました。

 それを手にとってボタンをおします。



 「うんしょ」


 ピンポーーーーン



 すると直ぐに、れいなおねえちゃんの声がきこえてきました。

 ウズウズ、ウズウズ。

 待ちきれないひなたは、ドアがあいたしゅんかんに足に抱きつきます。 



 “れいなおねえちゃんのイイにいおい”



 さいきんは、このにおいを嗅ぐと安心します。

 お父さんやお母さんのにおいもダイスキだけど、れいなおねえちゃんのにおいが1番スキです。


 家に入れてもらい、ソファーに座りながられいなおねえちゃんが入れてくれたオレンジジュースを飲みました。

 ジュースはおいしいけど、れいなおねえちゃんと一緒に飲むともっとおいしいです。

 先に飲みおわったひなたは、一緒にソファーに座っているれいなおねえちゃんの横に落ちている手紙を見つけました。

 たぶん、れいなおねえちゃんのポケットから落ちたようす。



 “なんでしょう、これは”



 ひなたは気になって、れいなおねえちゃんに聞いたらラブレターというものらしいです。

 ラブレターは好きな人におくる手紙です。

 もしかしたら、れいなおねえちゃんが誰かに? 大好きなれいなおねえちゃんが、他の人にとられちゃう? 

 心配になってきいてみたら違うようでした。

 恋の話をきいて、ひなたもれいなおねえちゃんが好きだと言ったのですが、ちがうといわれてしまいました。あとで、お母さんにきいてみようと思います。

 ひなたがなやんでいるとれいなおねえちゃんがナデナデをしてくれました。

 すると、こころがポカポカするきがしました。れいなおねえちゃんが言う好きというのは、こんな感じなのかもしれません。


 そういえば、このラブレターを書いた人は、れいなおねえちゃんが好きで手紙をかいたんですよね。

 もしかしたら、れいなおねえちゃんもその人の事を好きに好きになったり……。

 きいてみましたが、違ったようです。

 すこし不安になっていたひなたを、



 「私は日向ちゃんの方がずーーーと好きだよ」



 そう言って膝のうえにのせてギューーーとだきしめてくれました。

 いまのことば、ちゃーんとおぼえていてくださいね♪







 ついに、れいなおねえちゃんの卒業式です。

 お祝いようのプレゼントために、お母さんとお父さんにお花屋さんに連れてきてもらいました。

 きれいなお花さんがたくさんあって、どれがいいのか分からなかったので店員さんに色々とおしえてもらいスイートピーというかわいいお花を1輪かいました。

 お金は、ひなたがお手伝いしてためたお小遣いです! れいなおねえちゃん、よろこんでくれますかね?



 先に帰ってきた、れいなおねえちゃんのお母さんたちとお家で帰ってくるのをまっていると、ついにれいなおねえちゃんが帰ってきました!



 「れいなおねえちゃん、ごそつぎょうおめでとうございます! どうぞ、これを受け取ってください」



 なんども練習したお祝いのことばをかまずに言えました!

 手に持っていたスイートピーを渡してあげると、いままでにないくらいの笑顔でお礼をいってくれました。



 「ありがとう日向ちゃん!」



 さらに、ひなたのお小遣いで買ったことを言うと、おもいっきり抱きしめられちゃいました。

 えへへ、喜んでもらえてよかったです。

 



 それから、ひなた達はみんなでお食事に行くことになりました。

 そこで、ひなたは卒業式についていっぱいききました。ひなたが色々ときくと、れいなおねえちゃんは嬉しそうにおしえてくれます。


 

 「ねぇ玲奈。誰からか告白とかされなかったの?」



 と、れいなおねえちゃんのお母さんが聞きます。

 やっぱり、きれいなれいなおねえちゃんはモテモテでいっぱい告白されたみたいです。



 “れいなおねえちゃんが、ほかのひとに取られちゃう?”



 れいなおねえちゃんが居なくなっちゃう、そう思ったら、さっきまでたのしかった気持ちもどこかへ行ってしまいました。

 そんなのはイヤです。れいなおねえちゃんは、誰にもわたしたくありません。

 ……もしかして、このきもちが恋なのでしょうか?






 お食事もおわり、家に帰るとお母さんが話しかけたきました。



 「ねぇ日向。どうした? 元気が無いようだけど」


 「お母さん……恋ってなんですか? 好きな人を誰にもわたしたくないって思うきもちは恋なのでしょうか」

 


 ひなたは、ぎもんに思ったことをききます。



 「恋? 確かに誰にも渡したくない、自分だけのモノにしたいって思うわね。日向はお利口さんだから理解出来ると思うけど、だから今日、3人の男の子が玲奈ちゃんを自分のモノにしたくて告白したのよ」



 やっぱりこのきもちは恋のようです。

 ひなたは確信しました!

 そうなると、モテモテなれいなおねえちゃんのことです。また、たくさんの人に告白されるにちがいありません。

 これはゆゆしきじたい、というやつです!



 「告白すれば、じぶんのものになるんです?」


 「告白をして、いいよってお返事が来たらね」



 なるほど!

 でも、れいなおねえちゃんがお手紙をもらったときのように、ごめんなさいって言われるときもあるのです。

 ごめんなさいされたら、ひなたのモノにならないので、それはいやなのです。




 「お母さん、どうしたら、ちゃんとじぶんのモノにできますか?」


 「そうねぇ……。日向は女の子からだったら、唇にキスをしてあげれば一発よ! なんと言っても、私はそれでお父さんをゲットしたもの」


 「くちびるですか? おでこやほっぺじゃなくて?」


 「そう、唇よ! これで一撃必殺の技よ!!!」


 「なるほど! 分かりました!!!」


 「あとね、ムードも大切で―――――――」



 こうしてひなたは、お母さんからいちげきひっさつのワザを教えてもらいました。

 いちげきひっさつって何なんでしょう? でも、すごいワザなのはわかりました!


 あとは、じっこうあるのみです!

 待っていてくださいね、れいなおねえちゃん♪



 ひなたは、れいなおねえちゃんを手に入れるために、さくせんを練るのであった!






 ☆★☆★☆★☆★☆






 入学まで、いつもの様に日向ちゃんと遊んで、たまに友達と遊びに行ったりと、嫌なことを忘れて楽しんでいた。

 日向ちゃん尊し。


 そして入学式。

 退屈な式が終わり、教室へ行きショートホームルーム。

 同じクラスには、小学校の時に仲が良かった友人がおり一安心。軽い自己紹介をして、これからの予定やらなんやらの話をきいて解散。

 うちで待っているであろう日向ちゃん元へ急がねば! 今日も、卒業式の様に一緒に2家族でお食事をするのだ。



 「それじゃ、お先に」


 「玲奈ちゃん、またね~」



 友人に別れを告げて、急ぎ足で昇降口に向かう。

 うちのクラスが早かったのか、まだ他の生徒の姿が見当たらない。

 さて、日向ちゃんに早く会うために、軽く走って帰りますか。

 そう思い昇降口から出ようとしたら―――――――



 「「「「高木(さん)!」」」」

 


 何やら、聞き覚えのある複数の声に呼び止められた。

 振り返ると、軽く肩で息をしている4人の男子の姿。

 あらやだ、振られた野郎フラれメンズの方々ではないですか。

 残念ながら彼らのあだ名は、今の所これで固定だ。



 「「「「僕(俺)はまだ諦めないから(な)!」」」」



 何でこんなにも、私に執着するのかが分からない。

 しかし、その諦めない心に敬意を評して、



 「ごめんなさい!」



 頭を下げて、すぐさま90度ターンを決めてそのままGO!

 ちなみに、このやりとりを遅れてやって来たクラスメイト達が見ており、初日から学校を賑わせるニュースになっていることを、この時の私は知らない。




 今度は4人同時に粘着宣言をされるという珍事件が起きたが、何事もなく家に着くことができた。

 走ったことで乱れた息を、整えてから玄関の扉を開ける。



 「「「「「おかえりなさい」」」」」



 ちょうど待っていたかの様に、出迎えてくれる両親と日向ちゃん家族。



 「ただいま!」



 出迎えてくれた日向ちゃんも制服姿だった。

 どうやら、先程まで保育園に行ってきていたらしい。

 お店に予約をしているとのことで、時間も無く折角なのだからと制服のまま食べに行くことに。食べに行くのはステーキのお店らしく、新品の制服が汚れないかが心配だ。

 場所は歩いて10分少々の所にあるお店で、何度か行ったことあるが個人経営で美味しくて評判の所。

 私は、日向ちゃんのプニプニすべすべお手々を握って、2人で仲良く向かう。

 こんな日がいつまでも続けばいいなと、そう思わずにはいられない。


 


 お店に到着して、今度は入学式のお話を日向ちゃんからせがまれて話す私。



 「やっぱり、何かと式の校長先生のお話は長くてねぇ。あくびを噛み締めるのが大変だった」


 「こうちょう先生のお話は、こもり歌なんですか?」


 「「「「「っぶ」」」」」



 日向ちゃんの何気ない言葉に、全員で吹き出してしまった。



 「そっそうね、ある意味子守唄かもしれないわね」


 「日向ちゃんは、なかなかセンスがあるな」



 といううちのお母さんとお父さん。

 ひとしきり笑って、落ち着いてきた所に日向ちゃんのお母さんが話しかけてきた。



 「そう言えば、玲奈ちゃんは新しいクラスメイトとは上手くやっていけそう?」


 「んーーー。まだ初日なので分からないですが、小学校の時の友達が同じクラスに居るので、寂しい思いはしないで済みそうです」


 「なら良かったわ。でも、玲奈ちゃんならきっと直ぐに友達が出来るわよ。なんてたって、4人から告白されるぐらいですもの。クラスの男子が黙ってないわよ」


 「……はぁ~~~~~~」



 日向ちゃんのお母さんに言われて、つい、昇降口での珍事件を思い出して、溜息を吐いてしまう。

 明日も顔を合わせるのだと思うと、なんとも言えない気持ちになってくる。



 「どうしたんだい玲奈ちゃん」



 突如ため息を付く私を心配してくれる日向ちゃんのお父さん。



 「実は、その4人から―――――――」



 とまたもや告白紛いな事を4人同時にされたと言ったら、親達に笑われてしまった。

 こちらにしてみたら、笑い事ではないのに。



 「む~~~~~!」



 そして何故だか、日向ちゃんには睨まれる始末……トホホ。

 あの4人、許さないからね!

 やり場のないこの想いを、心の中でフラれメンズにぶつけておく事にした。




 美味しいステーキを食べ終えて、また日向ちゃんと手を繋いで帰る。しかし、こっちを向いてくれないマイエンジェル。

 私、何かしたのだろうか…………。

 いつの日か、こんな風に少しずつ離れていってしまうのだろうか。

 そう思うと、心が締め付けられる様だ。

 分かってる。所詮は、叶わぬはずのない恋。

 手を握っているはずなのに、この小さな手は遠くに行ってしまいそうだ。



 親達の楽しそうな話し声をBGMにして帰宅。

 家の前についたら、ようやく日向ちゃんが私の方を向いてくれた。

 それだけ嬉しくなってしまうのだから、我ながら現金なものだ。



 「れいなおねえちゃん。わたしたいモノがあるので、ひなたのお部屋にきてもらっていいですか?」



 とお願いされてしまった。

 もちろん二つ返事で行かせてもらいますとも!

 ルンルン気分で日向ちゃんに手を引かれ、彼女の部屋に。階段を上り、廊下を少し歩いて扉を開ければ、ひなたと可愛らしい立札が掛かっているお部屋に到着。

 扉の向こうには、可愛らしいくまのぬいぐるみが1個と沢山の本が本棚に並べられている。

 結構、日向ちゃんは読書家なのだ。


 ベットに誘導させられて、端の方へ腰を掛ける。 日向ちゃんはベットの上に登り目線を合わせてきた。



 「ひなたおねえちゃん、ご入学おめでとうございます」



 頭を下げて、綺麗なお辞儀を披露する日向ちゃん。

 本当に、幼いのによくできた子だ。

 自分の事のように鼻が高い。

 こちらも、それに倣ってお辞儀を返す。



 「ありがとうございます」


 「今回はですね。特別なプレゼントを用意したので、目をつぶっていてもらってもいいですか?」



 となんとも可愛らしいお願いをされてしまった。

 あのスイートピー以外にもなプレゼントがあるなんて、日向ちゃんラバーとしては胸を高鳴らせて目を瞑る以外の選択肢はない。



 「はい」



 目を瞑り、合図をする。

 一体何をくれるのだろう。

 少しドキドキしながら待つ。



 「えっとですね。前にれいなおねえちゃんは、ひなたに大好きだよって言ってくれました」



 確かにそんなような事を言ったけど、ちょっといい方が違うような。

 でも、私が日向ちゃんが大好きな事に変わりはない。



 「でも、れいなおねえちゃんはモテモテで、いつかひなたから離れて行ってしまうのではないかと、とても不安になったのです」



 いやいや、居なくならないよ!

 むしろ私が、日向ちゃんが何処かに行ってしまうのではないと心配な日々を送ってるよ!!!

 しかし、日向ちゃんもそう思っていてくれるなんて、嬉しく思う。



 「だから、これはオマジナイです」


 ッチュ


 「ッ!?」



 突如唇に触れた柔らかい感触に、目を開けてしまう。

 すると、目の前には、柔らかいマシュマロの様な感触が離れて行くのと同時に、目をつぶり離れていく愛おしいお顔が。




 「ひっひっひっひな……ひなたちゃ…………」



 え、え? ナニ、コレ? ドックリ?

ドッキリ大成功、という立札を持った人が出てくるとかそいうオチ?!


 私の心臓がドキドキと破裂しそうなほど鼓動している。

 だ、だってキッキッキスをぉぉぉ!

 今起こったことに、パニックを起こしている私に、照れながら日向ちゃんは言う。


 

 「プレゼントは、ひなたの初めてキスです。どうでしたか?」



 え、どうでしたか?

 そんなのは決まっている。

 もちろん、



 「最高デス!!!!!!!!」



 日向ちゃんからキスされた、という事実に顔が、いや体が一瞬で熱くなるのが分かる。

 あまりの興奮に……あれぇ目の前がグルグルと――――――――











 気が付けば、頭を撫でられている感触がする。

 愛おしく、それでいて優しい手つきで撫でられており、とても気持ちがいい。

 このまま寝てしまいたい。

 って、むしろ今まで寝ていたじゃん、と自分にツッコミを入れて目を開ける。



 「んん……」


 「あ、れいなおねえちゃん、おきましたか」



 目を開けると目の前には、天使の微笑みを浮かべた日向ちゃんの顔があった。

 どうやら私は、日向ちゃんに膝枕をされているようだ。

 日向ちゃん天使過ぎませんか?



 「えっと、あっと……ごめんね? 重たかったでしょ、今退くからね」


 「だいじょうぶです。これぐらい、なんともないのです」




 慌てて起き上がろうとすると、日向ちゃんに肩を抑えて止められてしまった。

 そうすると採れたての果実の様にプリプリな唇が目の前に。

 間近で動く可愛らしい唇に目線が、行ってしまう。

 あの柔らかいモノが……私の……唇に……。



 「日向ちゃん、さっきのは…………」



 さっきのはどういう事? なんでキスをしたの? と色々と聞きたいことがあったが、何から言えばいいのか分からない。

 今は、先ほどのキスの感触ががフラッシュバックして、頭が茹で上がりそうだ。

 心臓も五月蝿いくらいで、飛びさしそう。



 「れいなおねえちゃん」


 「ひゃい!」



 突然呼ばれて、声が裏返ってしまった。


 

 「ひなた、気がついたんです」


 「気がついた?」



 何に気がついたのだろう。

 もしかして遊んでいる時に、スキンシップとして体を触りまくっていることだろうか。

 アレは日向ちゃんも喜んでいたしセーフのはず。



 「れいなおねえちゃんが告白されるたびに、他の誰かに取られたくないってきもちが強くなるんです」


 「……え」



 まさか日向ちゃんがそんな事を思っているとは、露ほどにも考えていなかった。 

 だって、この気持ちは、一生叶わないモノだと思っていのたのだから。

 ドクンッドクンッドクンッと私の心臓は期待に高鳴っている。



 「れいなおねえちゃんと一緒にいると、いつも楽しくてこころがポカポカして、ずっと一緒にいたいっておもうんです」


 「……うん」 


 「でも、綺麗で優しくていい匂いがするれいなおねえちゃんを、いろんな人がひなたから奪おうとするんです。だから、ひなたのモノにしたくてオマジナイをしました」


 「私も、日向ちゃんがいつか私の元を離れて行ってしまうんじゃないかって、そんな事を考えては、その度に胸が苦しくなってた。私も、ずっと、ずぅーーーと日向ちゃんと一緒に居たい」


 「それならなら、ひなたにも、

  オマジナイを……くれませんか?」



 そう言って目を瞑る日向ちゃん。

 私は体を起こして、その頬に手を添える。



 まるで吸い寄せられるかの様に、今度は私から、そっとオマジナイをした。

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私と日向ちゃん《加筆版》 totto @totto104

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