甘珈琲

奈名瀬

あたしのばか、こどもじた

「にがい……」


 ためしに一口と思って口にしたけど……やっぱり苦い。


「どうだった?」

「ヤニを舐めた気分」

「それはご愁傷様」


 そう言う彼――明人は薄い笑いを浮かべていた。


「ぜんぜん思ってないでしょ。かわいそうとか、悪いことしたなとか」

「だって、君が飲みたいって言ったから」


 悪びれる様子のない明人から、あたしは目を逸らす。

 そりゃ、実際彼は悪くないのだけど……。


「知らない……」


 元はと言えば、コーヒーなんてにっがい液体を好きな彼がいけないんだ。

 そっぽを向くあたしの顔を明人は覗き込む。


「でも、なんでまた飲みたいなんて言い出したんだい? というか、たびたび飲みたがるよね? コーヒー。あざみちゃん、苦いのダメなのに」

「別に、今日は飲めるかなって。たまに思う日があるの」


 あたしは明人の顔をぐいぐいと押し退けて、明後日の方向を向いた。

 別にいいじゃない、たまに飲みたくなったって……。


「もうこれ以上きかないで。話はおしまいよ」


 あたしだって、自分の好きな人の好きなものをおいしく飲みたいと思う時だってあるんだ。

 なのに……。


 あたしの舌ときたら、いつまでたってもこどもの味覚のままなんだから……。

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