15センチの恋
ペーンネームはまだ無い
第01話:僕とキミの21グラム
アメリカの医師ダンカン・マクドゥーガルの説によると、人間の魂の重さは4分の3オンス……つまり約21グラムらしい。
魂の重さが21グラムだとしたら、魂の大きさはどのくらいなのだろう?
ダンカン・マクドゥーガルは人間以外には魂がないと考えていたみたいだけれど、日本には『一寸の虫にも五分の魂』という
色々と考えを巡らせた結果、人間の魂のサイズは「虫の魂の10倍くらいかな」という結論に至った。つまり15センチだ。
☆ ☆ ☆
僕の部屋に目覚まし時計がけたたましく鳴る。もう朝か……。昨晩は深夜まで意味もなく魂の大きさなんかについて考察してしまった所為で寝不足だ。あと15分だけ……。いや、今日は休日だからこのまま寝てしまっても……。
目覚まし時計を止めもせずに僕が掛け布団を頭までかぶる。しばらくすると急に目覚まし時計が止まった。
「やれやれ。起きれんなら目覚ましなどかけねば
……女の子の声? なんで僕の部屋で女の子の声がするんだ?
僕が布団から頭を出して枕もとを見ると、そこには小さな少女が立っていた。近くに立てかけてある文庫本と同じくらいの高さだから……身長15センチくらいか?
「……キミ、誰?」
僕が質問を投げかけると、少女が片方の眉を上げてこちらを見た。
「ほぅ。これは驚いた。ワシが見えるようになったか、
少女が大して驚いた素振りも見せずに答えた。
「うん、見える」
「ならば話は早い。ほれ、さっさと子孫繁栄するが良い」
「……」
おかしいな。寝ぼけている所為か彼女の言うことが理解できなかった。
僕は上半身を起こすと背筋を伸ばしてから大きく欠伸した。ボリボリと頭をかきながら彼女を見下ろす。どうやら寝ぼけたせいで見た幻覚って訳じゃなさそうだ。
コイツは何者だろう? それとなく探りを入れてみようか。
「とりあえず名を名乗れ」
「相変わらずコミュニケーションが下手な奴じゃのう」
文句を言いつつも彼女は身を正すと自己紹介を始める。
「ワシの名は
……魂? 言われてみれば確かに彼女の身長は、僕が思い描いていた魂と同じくらいだ。でも……。
ヒョイと彼女を摘み上げてみる。見た目通り21グラムよりも遥かに重い。
「重いな。偽物か」
「レディに向かって重いとは失礼な奴じゃの! お主は!」
眉間に
「どうじゃ、ワシは宙に浮くほど軽いぞ! これで文句あるまい!」
「でも21グラムじゃないし」
「お主は重さでしか物事を判断できんのか……」
呆れ顔で千智がため息をつく。まるで僕が面倒臭い
僕が千智を魂だと思えない理由はいくつもある。重さが21グラムじゃないし、姿形だって一般的な魂のイメージと異なる。それに魂って普通は僕の意識が宿っている物なんじゃないのか? 僕とは別の人格が宿っていて性別すら異なる魂なんて聞いたことがない。あと21グラムじゃないのは納得がいかない。
思いつく限りの質問を千智に問いかけてみると、彼女は簡単に簡潔に答える。
「別にお主の抱いている魂のイメージとワシがかけ離れていたとしても、何ら不思議なことではあるまい。お主ら人間がもつ魂の知識なぞ、ほぼ全てが想像の産物に過ぎんのじゃからな」
なるほど。確かに千智の言うとおりかもしれない。どんなに長い時間をかけて想像を重ねようと想像は想像だ。事実じゃない。だというのに、事実を受けいれずに想像と違うと文句を言うのはおかしいと思う。
僕は頭を切り替えると、千智を正面から見る。……うん、千智が魂だと受けいれよう。
「理解した。
「気にせずともよい」
「お詫びにたこ焼きをご馳走するよ。マヨネーズはかけても良いか?」
「減塩マヨネーズで頼む。あと青のりを忘れるでないぞ」
僕はキッチンへ行くと、昨晩のうちに下ごしらえを済ませておいた材料でたこ焼きを作り始めた。
首を長くして待ってろ、千智。外カリカリで中ふわっふわの什悟特製のたこ焼きをご馳走してやる。……と思ったけれど、カリカリに焼きあげると千智の小さい口では食べづらいかもしれないな。……うーん、どうしようか?
結局、外カリカリで中ふわっふわの什悟特製のたこ焼きと、外ふわっふわで中とろ~りな什悟特製たこ焼きバージョン鬼の2種類を焼いた。もちろん、どちらにも減塩マヨネーズと青のりをたっぷりとかけてある。
「待たせた」
僕がたこ焼きをもって部屋へ戻ると、千智はクンクンと鼻を鳴らして顔をほころばせた。
千智にたこ焼きを差し出すと、彼女は2つのたこ焼きを見比べてから少しだけ不安そうな顔で僕を見上げた。
「食べたければ両方とも食べればいい」
パァッと表情を輝かせた千智につられて僕も口角を上げた。
☆ ☆ ☆
「ご
たこ焼きを食べ終えた千智が目の前で手を合わせて満足そうな顔をする。
体中を減塩マヨネーズと青のりだらけにしたまま満面の笑みを浮かべる
「さて、そろそろ本題に移ろうかの」
マヨネーズ臭をまき散らしたままの千智が、コホンと咳ばらいをする。
「什悟よ、子孫繁栄するのじゃ」
……おかしい。すでに眠気はなく頭もハッキリとしているのだが、それでも千智の言葉の意味が解らなかった。
「詳細を求む。情報が足りな過ぎる」
「やれやれ、物分かりの悪い奴じゃのう」
千智は胸を張ると、腰に手をあてながら何故か身の上話を始めた。
彼女には家族がひとりもいないらしい。僕の魂なのだから、僕と同じ境遇なのも当たり前なのかもしれない。でも、同じ境遇に置かれても千智は僕と決定的に違った。千智は
「しかし、それは叶わん望みじゃ。ワシら魂には繁殖能力がないからのう」
魂は、あくまでも魂。宿主となる生物、つまりは人間が繁殖しなければ魂も繁殖できないのだという。
それって、つまり――。
「ワシの望みを叶えるためには、お主に頑張って貰わんといかぬという訳じゃな」
「なるほど。だから子孫繁栄しろ、と」
千智が大きく
「
「そんなことは知っておるわい。生まれて
千智は小さな手を差しだすと、白い歯をみせて笑った。
「じゃから、今からその彼女をつくりに行くのじゃ。什悟にも
「うん、いる」
「では、告白しに行くぞ。善は急げじゃ。ほれ、
千智は僕の手をつかむと、僕を引っ張って玄関まで飛んでいく。……やれやれ、何だか面倒な事になってきた。
ゲンナリとした僕の顔を見て、千智が不適に笑う。
「
僕は不安感と好奇心が入り混じったまま、玄関の戸を開けた。
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