終末の手伝い

@amsang

第1話 イシマルソポス

 「お前に頼まれて欲しいことがある」


 神頼みという言葉を聞いたことがあっても、神が頼みごとをするという言葉を聞いたことがない。


 「頼み事?」

 「なに、ちょっとした手伝いだ」


 大したことではないと、神は言った。


 「なにを手伝うんです?」

 「終末」

 ・

 ・

 ・

 世界で一番高い建物の前では、その高さを見上げることはもはや通過儀礼のようになってしまっていて、今まさにそこを訪れた二人姉弟も例外ではなかった。


 「高いな…」

 「無駄にね」


 弟は文字通り脱帽して見上げるほど純粋に感心して、姉はブルジョアジーを狩り回していた、かつてのプロレタリアのようなしかめっ面で皮肉りながら、それぞれの感想をつぶやく。

 なかなかビルから目を離せないその姿は今しがた上京した田舎者のような印象であったが、彼女らも一応この都市の市民であった。もちろん同じ都市だとしても世界最高層のビルが存在するこのメトロポリスはただならぬ大きさなので、世界的に有名なビジネス街から、近づくことも危険な貧民街まで幅広く含んでいる。そして当の姉弟は、かなり都心から離れている郊外の出身だった。


 「イシマル、いつまで見上げてんのよ。さっさと行くわよ」


 ビルを見上げているのが自分たちだけと気づいた姉が弟を急き立てる。周りの視線を意識したのだろうが、しかしそれは杞憂というものだった。都心部の、それももっとも栄えた場所に建てられたその巨塔の周りには当然のように数千人が行き交っていて、彼ら都心に暮らす人々は他のことに興味を持つのはなんだか罪にでもなると言うように自分の道だけをいく。たとえば『最後の審判』と書かれたプラカードを手に持った男が広場の真ん中で、


 「戦慄せよ!昔いまし、今いまし、全能の主たる神の使いは最も高い神殿から降臨するであろう!」


 などと力強く叫んでいても、誰ひとりとして視線をやる者はない。


 「姉貴、ちょっと待ってよ」


 急かされた弟ことイシマルは、他の人達を見習って先を急ぐ姉を呼び止めた。

 姉は浮かばない顔をする弟をみて、まさか大の男がこれぐらいのことで機嫌を悪くしたのかと心の中で舌打ちをしたが、どうやらそれ以前の問題ということに気づいて弟のもとに戻った。


 「なにしてんの?ここまで来てまたグズるつもり?」


 イシマルは高圧的に迫ってくる姉に気圧されて言葉に詰まった。

 生まれてこの方、姉にたった一度もいさかいで勝ったことがない彼は、姉が強気で出るとまず目を逸してしまう。女姉弟なのに身長差がほぼないのも気後れする一因だったが、なにより彼を弱気にさせるのは、弟に対して常に上からの姉の権威を裏付ける、彼らの人生におく姉の様々な偉業のおかげだった。些細な被害や弟の意思は一向にかえりみないごり押しではあったが、何度も姉に助けられた前歴があるイシマルには口答えすることすらままならないのであった。だからと言って彼が姉の従順な羊になったわけではなく、現在も度々姉に反旗を翻してはいたが、ただ一度も成功したことがないという話だ。

 イシマルが姉の偉業の記憶を辿ると一番最初に思い出すのは当時小学生だった姉の活躍で借家から追い出されることをまぬがれたことだが、あまり愉快な記憶ではないので彼はすぐに浮かび上がろうとする回想を記憶の片隅におし込んで、他のことを思い出した。

 それは彼がここまで来ることになったその原因に対する記憶。

 ことの始まりは姉の―彼にとって全ての波乱は常に姉が関わっていた―突発的な宣言だった。

 郊外のアパートで夕飯の準備をしていたイシマルは、通常より早く帰宅した姉に少々驚きながらその日のバイトはもう終わったのかと聞いた。

 すると姉は、


 「やめた。これからは配信でやっていくのよ!」


 と、弟の理解に及ばない発言で彼を困惑させた。

 姉がバイトをやめたことは生活費が半分以下に減る一大事の上、番組をやるという意味不明な言葉はイシマルの不安を果てしなく煽った。


 「はあ???やめたって、もうすぐ支払い日だろ?!」

 「先月は結構無茶したから大丈夫よ」


 姉はそれだけ言って話を終わらせようとしたが、それで納得するはずもないイシマルはいったいどういうことなのかと何度も姉に問い詰めた。だがまったく相手にされず、その日はそのまま聞けずじまいだった。

 数日後、姉はなにやらと忙しく動き回っていたが、特に大きな問題は起きず、イシマルは一応自分もバイトはしているし、解せない発言も過去何度かの突発的な姉の言動を鑑みるとわからないものでもなかったので、そう懸念することはないのかも知れないと自分に言い聞かせた。

 そしてその夜、彼は姉にこう言われた。


 「世界最高層のビルから飛び降りてみない?」

 「はあ?生理でも来たの?」


 つい先週に姉の生理ストレスに八つ当たりされたイシマルはそんなわけないことを重々承知していたが、あまりにも真剣に問いかけてくる姉の様子に願掛けのような気持ちでそう答えたのだ。しかし彼の儚い願いは粉々に砕け散り、姉は至極真面目な顔で言葉を続けた。


 「女作りたいんなら口に気をつけなさいよ。わたしは大真面目に聞いてんの」

 「俺も本気で生理であって欲しかったよ」


 その後に続いた姉の説明によると、姉はライブ配信というものを始めたらしく、それでお金を稼いでいくつもりだということを明かした。


 「ライブ配信…?よくわかんねけど、それで金が儲かるわけ?」


 あまり縁がないものを語られたので、当たり前の疑問を口にしたイシマル。


 「今の時代、一発逆転するにはこれしかないのよ」


 その言葉の真意はともかく、強い確信を持って語る姉に無知のイシマルがそれ以上聞き出せるものはなかったので、とりあえずは納得した形を取る。

 しかし彼が本当に知りたいのはもっと他にあった。


 「で、なんで俺がビルが落ちなきゃいけねえんだよ」

 「観客がそれを望むからよ」


 姉の言葉によると、ライブ配信をして儲かるにはたくさんの視聴者が必要ということ。しかしこの数日の成果はあまり芳しくないもので、彼女は視聴者を集めるための刺激が必要だと判断、リクエストを寄せ集め、その中から彼女のレーダーに引っ掛かったのがこの都市にいる世界最高層ビル『メントゥラマグナ』の屋上でバンジージャンプをしながらアイロンをかける姿をを実況するというものだった。


 「???」


 名状しがたい表情でなにからなにまで理解が及ばないことを示すと、姉は肩をすくめて答えた。


 「エクストリームなんとかって言って、流行ってるらしいのよ」

 「いや、物理的に無理だろ」

 「あんたが台を持って、わたしがアイロンをかけるの」

 「できるか!」


 しかしその後、姉がとなりの友人からスマホを借りてきて似たようなことをする映像を見せたのでイシマルは言葉を失った。


 「これを機にふたりでやっていこう。あんたもね、ちんたらバイトしたって大して役に立たないわよ」

 「なっ――?!」


 あまりも無頓着な姉の言葉に、イシマルは頭に血が上るのを感じた。これでも彼は常に家のことを考えて、浪費もせず、バイトで稼いだ金もほぼ全額を家計に足していた。それなのに役立たずと言われては、怒りを覚えてもおかしくない。ただ、彼の家計への寄与が姉の半分にも足りてないことも事実で、高校卒業後、大学にも行かず就職もせずにバイトをしてるのに深い考えがあるわけでもなかったので、とっさに反論できずにいた。


 「今まで私に甘えてきてないって言える?」


 核心を突く姉に、言葉を持たないイシマルは話題を変えた。


 「っぐ、それでも、そのエクストリームなんとかは危険すぎて出来ねえよ。事故ったらどうするんだ」

 「エクストリーム昼飯というのもあるんだけど」

 「とにかくやらん!」


 頑なに拒否の意思を示すイシマル。

 だが姉は怒ることも、がっかりすることもなく、むしろその言葉を待っていたかのようにイシマルに言った。


 「あんたが先月ノミ野郎を助けるために借りて行ったのいくらだったけ」


 その言葉を聞いたイシマルの顔からは、抵抗の意思を固めた仮面が分かりやすく崩れ落ちていた。どんなことを言われようとも断然として断る、そんな山のごとき不動の姿勢を固持しようとしていた当初の覚悟は見る影もなく、視線も定まらずに空を泳いでいた。

 つい先月、イシマルは友人が抱えた問題を解決するために姉を頼った。普段なら金に関する問題に首を突っ込むイシマルではなかったが、とある事情のせいで助けざるを得なくなり、仕方なく姉の手を借りてしまった。これが全くもってイシマルの弱点となって、彼を追い込んでしまったのである。

 お金の問題を取り出したのならもはや勝ち目はないのと同じであったが、それでもまだ一握りのプライドが残っていたのか、イシマルは敗北を認めようとしない。


 「ひ、人に貸しを作っておくことは悪いものじゃないって姉貴も――」

 「あの腐ったドブネズミが博打狂いじゃなけりゃね」


 しかし悲惨な事実の前では無為な足掻きになるだけだった。

 もう言葉もない弟にとどめを刺すように、姉は言った。


 「大体さ、あんた、あのゲスダニを助けるって言ったけど、実は――」

 「わかったよ!」


 意地でも頷こうとしなかったイシマルが、姉の言葉を遮って承諾する。

 それはまるでその次に来る言葉を恐れるかのような勢いだったのだが、弟の降伏宣言を聞いて満足した姉は、それ以上弟を咎めようとはしなかった。

 結局、いつも通りになってしまったことに渋い顔をするイシマルに、彼女はやれやれと頭を振って弟に言った。


 「あんたはわたしの言うことを聞いてればいいのよ。いつまでこんなグダグダに生きたくないでしょ?」


 口論の余地など最初からないという姉の態度。

 イシマルにしてみれば言いたいことはいくらでもあったし、何とか反論を広げたがったが、しかしそれを聞く耳を持つ姉ではないことを知っている上、彼女の言うことがあながち間違っていないという経験を持っている彼だったので、結局は姉の指示に従うことになった。

 そして現在、姉弟はビル『メントゥラマグナ』の前に立っている。


 「ぼーっとしてないで行くわよ!」


 姉が動こうとしない弟に声を上げた。

 弟のイシマルは気乗りしない顔でどうにか抜け出そうと思いを巡らす。


 「なあ、やっぱり無理だよ、だいたい屋上に本当に入れるの?」


 『メントゥラマグナ』の屋上は現在出入り禁止となっていた。以前は世界最高の高さを売りとするバンジージャンプや便宜施設を設置して開放されていたのだが、世界最高というタイトルに惹かれたのは一般人だけではなく、自分の最後を意味あるものにしようとする人たちが相次いだので結局閉鎖となった。

 だから今はビルの関係者ではないと入れないことになっているが、ビルと一点の関わりもなさそうな姉はためらうことなく答えた。


 「大丈夫だって言ったでしょうが。ジャンプ台もそのままにしてあるし、そこでバイトしたこともあるから問題ないよ」


 だらだらと難癖をつけて動こうとしない弟に少々腹が立ってきた姉は、眉間にしわを寄せて弟を睨めた。

 目を逸らすイシマルは、エクストリーム昼飯のために持ってきた食料が入った袋を後ろに隠しながらなんとか突破口を探そうと口を開く。


 「いや、でも――」

 「あんまりグズるとアイロンと昼飯、両方やらせるよ!まだ文句があるのかこのアイロン野郎!」


 姉は弟の胸ぐらを掴んで自分に向けさせてそう言った。

 もはや目を逸らすことも許されずに姉の怒りの視線を正面から受けることになったイシマルはもぞもぞと言い訳を始めた。


 「…だってその、道化みたいで嫌なんだよ」


 ネットやパソコンにあまり縁がないイシマルがライブ配信について知ったのは姉にライブ配信に誘われたその日で、姉の説明と様々なライブ配信の映像を見て彼が思った素直な感想がこれである。

 姉の勝手とか、バンジージャンプなどの危険性などの理由より、まさにこの理由が彼が行くことをためらうもっとも大きな理由だったのだ。

 当然、そんな理由が姉に通じるはずもなく、


 「はあ?!道化のなにが悪いってんのよ。あんたそんなに上から目線できるほど偉いわけ?いい?人のお金を貰おってんのに気楽で簡単なわけないでしょ?むしろ炎天下で汗涙流さない分何倍もましだっての。ってか、借金も返せねえ奴がなに仕事選んでんだ?」


 有無を言わせない姉の勢いに、ぐうの音も出せないイシマル。

 そんな弟に拍車をかけるように、姉は低い声で言った。


 「おめえ、借金に利息つけたろーか?」


 選択の余地は完全に絶たされ、イシマルは嫌そうなため息をついて降伏する。

 それを見た姉は満足そうな顔で頷いて、弟の肩を一回叩いたのち、楽しそうな歩きでビルに入って行った。

 その後ろ姿をなんとも言えない顔で見つめていたイシマルは、頭を垂れて歩き出した。


 「それは終末の兆しなり!やがて眠りし四つの災厄が天使のラッパに目を覚ますだろう!」


 未だプラカードを持って誰の耳にも届かない言葉を叫ぶ男を後ろに、イシマルも姉を追って世界最高のビルに入った。

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 ビルの中はまた違う広場に出てきたかのような大きなホールになっていた。天井を貫きそうな勢いの巨大な銅像が中央に陣取っていて、その周りには外と変わらず数え切れない人々がそのこのビルのあるゆる場所を目指して動いていた。

 目まぐるしい光景に見慣れないイシマルが困惑している中、姉は迷いなくフロントに向かって行った。


 「ビル運営チームのマオ・シェンゲトリクスさんを会いに来たんですけど」


 フロントの受付に用事を伝える姉。

 受付を担当している女性は、一瞬ではあるけどハルカの身なりに目を通して僅かな間を作った。

 伝えられた用事とはまったく似合わない―厳密に言えば相応しくない―格好と思ったのだろう。そのことに気づいたイシマルはカッとなって文句を言おうとしたが、口を開く前に姉に足を踏まれたので、その機会を失った。


 「予約はされてるんでしょうか?」


 僅かな間を作るのが失礼だったという自覚があるのか、受付係は態度を変えてプロらしく笑顔で応対を始めた。

 それでイシマルの腹の虫は収まったわけではなかったが、当のハルカが笑顔でやっているので仕方なくムスッとした顔で黙り込んだ。


 「マサコビアノムスメ・ハルカディアとマサコビアノムスコ・イシマルソポスです」

 「ハルカディアさんとイシマルソポスさんですね、少々お待ちください」


 受付係が受話器を取ってどこかへと連絡する姿を見ていたイシマルはふと姉に聞いた。


 「誰だよ?マオなんとかさんって」

 「屋上への鍵だよ」


 イシマルが知りたかったものはそういうことではなかったのだが、ハルカは気にすることないと言って彼をあしらった。そんなに勿体ぶることでもないだろうとイシマルが愚痴ってる間に受付係の連絡は終わったようで、姉弟はエレベーターへと案内された。

 世界最高層のビルのエレベーターは最高だけあって一般のエレベーターとは違ってボタンではなく入力式になっていた。内蔵も近未来式を狙ったのかなにやら光ったり暗かったり忙しいもので、エレベーターではなく遊園地の乗り物で乗ったかのようだとイシマルは思った。

 だが珍しいものは珍しいものなので、姉に行き先の入力権を譲ってもらう弟だった。


 「あれ?ここの屋上って300層じゃなかった?200までしか入力できないんだけど」

 「乗り換えよ乗り換え。本当にダサいったら…」


 ため息をつくハルカに腹が立つイシマル。しかしダサいのは事実だったので反撃の余地もない。

 200層で乗り換えたエレベーターは一階のエレベーターよりは遅いもので、昇る階層は減っても掛かる時間は増えた。そんな長いエレベーターを登り詰めて、エレベーターで行ける最上階についた姉弟は、また幾つかの階段も登ってついにメントゥラ・マグナの屋上に到着した。

 屋上に出る扉の前に立ったイシマルは不信感に満ちた声で話した。


 「しまってるんじゃないの?」

 「開いてるって」


 そういったハルカがドアノブに手を伸ばそうとした時、姉のポケットから携帯のベルが鳴り始めた。携帯を確認した姉は登ってきた階段をすこし引き返して電話に出る。

 普段の姉が電話に出る時は席をはずすようなことはしないと知っているイシマルは、姉の行動が気に入らなかった。ただでさえ姉の無茶ぶりでほぼ強制的に連れてこられたのに、その当事者が目の前で自分に隠れてコソコソとしていると、愉快な気分になれるはずもなかった。

 やがて電話を終えて戻った姉が言った。


 「ちょっとここで待って。わたしはちょっと人と会ってくるから」

 「男とコソコソ電話とか、感じ悪いな」


 明らかな喧嘩腰にハルカが驚いて目を開く。

 弟の言葉がひどかったのか、喧嘩を売られたこと事態が許せなかったのか、どちらにせよ彼女の逆鱗には触れたようで、ハルカは蛇も殺すような視線でイシマルを睨みつける。いつもならその視線に怖気づくイシマルも、今回は意地が発動したのか、姉の視線から逃げることなく睨み返す。

 僅かな間の静寂が空気に重りを掛けて、手が出てもおかしくないような雰囲気。

 まさに一触即発の状態になったのだが、


 「あんまりバカ言っているとぶっ飛ばすわよ」


 憤ってるように見えたハルカはそれだけ言って階段を降りて行った。

 姉ということだけあって、大人の姿勢を見せたということだろう。

 イシマルは降りて行く姉を呼び止めることもなくその後ろ姿を見つめるだけで、やがてその姿が見えなくなると、


 「はあ……」


 自己嫌悪にも似た感情でため息を付いた。

 煮え切らない気持ちだけが残って、もうこのまま帰ってしまってもいいのではないかとイシマルは思ったが、いまさら帰る気も起きないことに気づいてまたため息をついた。しかしそのままじっとしているのも性に合わないもので、彼は屋上に出ることにした。

 ドアノブを回してもなかなか開かない扉を全身の力に任せてようやく開けて出ると、


 「うわっ」


 すごい勢いの突風がイシマルを迎えた。

 季節が夏に入ったものだから屋上というのは下よりも暑いのではないかとイシマルは思ったのだが、地上999メートルの風と、なかなか太陽を拝めない雲の天気のおかげで春先のような涼しさを感じていた。

 風が落ち着くと、イシマルは帽子を掴んでいた手を離して屋上を見回した。

 遠くに見える都市の景観は壮観と呼ぶにふさわしいもの。そしてその次に目に入ったものは、今日の主題である閉鎖されたバンジージャンプ台だった。当然興味が湧いたイシマルはジャンプ台に近づいて、真下を見下ろした。


 「いったいこんなに高く建てて何になるん――おふぅ…」


 高所恐怖症がない人でも心臓が縮むような感覚を味わうことが出来る高さ。

 下に見えるものがいかにゴミのように感じれるのかを知りたかったイシマルは、こうも高さを生身で感じるとむしろ自分がゴミのようだと思い知った。それはあまり心臓にいいものでもなかったので、大人しくその場を離れ、屋上に視線を戻した。

 そこてイシマルは、自分が出てきた屋上扉の小屋の後ろに見慣れたオブジェが設置されていることに気づいた。

 尻尾を巻いた下向き矢印、それは世界最大の宗教が神と教会の象徴として用いる形。天から下る神の恩恵を意味すると言うその聖矢印は、2000年に渡って人に確実な印象を与えていた。


 「なんでこんなものが…避雷針かな?」


 その聖矢印は、信心深い信徒だったビルの持ち主が聖書に出てくる最も高い神殿というものを自分のビルに再現しようとしたのを周りから引き止められ、結局は教会の象徴だけを建てることに落ち着いたもので、このビルが落成した頃にマスコミでも扱われていた話だったのだが、それは十年前の話でイシマルが知る由もない。

 イシマルが聖矢印に興味を持って近づくと、その元蝋燭やら装飾やらで祭壇のようになっていることに気づいた。だが祭壇があることよりも彼の目を引いたものがあった。


 「これって…」


 献納箱と書かれている箱。

 神の名のもとに紙の供物を集めるその箱の意味は無信仰のイシマルでも常識として知っていた。


 「こほん」


 風邪でもないのに咳をしたり、誰もいないことを知ってる屋上に人気がないこと確認したイシマル。そっとその手を献納箱に伸ばした。


 (いや、もう入ってないだろ。ちょっと確認してみるだけだから)


 倫理観がないわけではないが、聖人君子になるつもりはさらさらないイシマルにとって、屋上に放置された献納箱は確認して当然のもの。箱を取って揺らすと中身がぶつかる音が聞こえてきた。

 イシマルの顔がぱっと明るくなり、期待感に満ちる。

 箱には特に施錠はされておらず、ただ蓋の方に『主の物は主に』という聖書の一節が書かれていたが、信仰のないイシマルは少しも憚ることなく蓋を開けた。


 「っ!」


 期待感いっぱいで箱を開けたイシマルはその中身を見た途端、顔をしかめて箱を放り投げた。

 献納箱の中には血まみれの鳩が入っていた。


 「くそ、イタズラかよ…」


 期待していたものとはまったく違う、気味が悪い中身にイシマルは悪態をつく。運よくばその箱に入っていたはずのもので姉に握られている弱点も精算できるのではないかという甘すぎる一時の夢も、鳩の死体というイタズラによって砕け散り、忘れかけていた鬱憤を蘇らせてしまった。いや、蘇らせたばかりか、むしろ悪化させていた。イラつき始めると世界の全てが自分に敵意を持つように思えてしまうのが人の性質というもので、勝手な期待が裏切られた失望感は、イシマルにも思い当たる全てに怒りを覚えさせた。先程の姉との諍いや、この事態を強いた姉の強情さ、仕方なく従う情けない自分、その昔、勝てると思ったやつと喧嘩してボコボコにされた記憶、弱みになってしまった腐れ縁の友達、いつも心細い思いをさせるお金の問題、決して豊かとは言えない今の環境、そんな悩みなど我知らずの顔でのうのうとしている都心部の人々、その昔、セックスの経験があると見栄を張ってバレて恥をかいた記憶、常に頭のどこかで悩みの種になっている入院中の母、その昔に勝手に出ていた無頼漢の父、30分も過ぎてるのに来る気配のない姉、その昔、気があると思ってた女の子をクラスメートの見る前で遊びに誘ってこっ酷く振られた記憶などが混ざり合っては、腹の底から燃え上がる憤怒となり、献納箱を蹴り飛ばそうとした時、


 「…くま――」


 人の声のようなものがイシマルの耳に入って、彼は誰か屋上に上がってきたのかと思い、ぱっと頭を上げて周りを確認した。


 「うん?」


 ところが、誰も屋上に現れた形跡はなかった。

 だが気のせいで済ますには、まだ耳に声が鮮明に残っていて、どうしたものかと首をひねると、


 「…かみ、の――」


 今度こそ聞き間違えることない、たしかな声がイシマルの耳に届いた。

 声が出された方向は屋上の出口とは真逆の方。

 しかしその方向にも人の姿は見えず、あるのは巨大な聖矢印と祭壇、そして放り投げられた献納箱のみ。

 イシマルはまさかと思いながら献納箱に近づいた。

 恐る恐ると、声の出所と思われる献納箱の中を覗き込むと、


 「はとごろし…――がくっ」


 死んだと思われた鳩がぶるぶると震えながら、恨めしい瞳でイシマルを見つめ、そんな遺言を残して息を引き取った。


 「うせやろ」


 鳩が喋ったことも、まだ死んでいなかったことも、自分を恨みながら死んだことも、イシマルの受け入れることが出来る現実容量をわずかに超えていて、彼は使いもしない方言で目の前の現実を否定した。

 しかし非現実的な事態はそこで終わろうともせず、それどころか、ますます信じられないことに、鳩が目を閉じた同時に空から一柱の光が鳩の死体に注ぎ込まれては、まるで聖書に描写された昇天のようにその骸を空へと浮かべさせた。

 神話を描かせたような奇跡。

 宗教の有無は関係なく、並の人間なら誰しも頭を垂れそうな圧倒的な神々しさにイシマルも度肝を抜かれ、ただ呆然とその姿を眺めた。だがひとつ彼が気づいていないことがあったのだが、それは光に浮かばされていたのは鳩だけではなく、彼もまた光によって昇天されている最中だったということだ。

 そしてそのことにイシマルが気づいた時にはもう世界は光に満ちていて、叫ぼうとするイシマルの声も、その体も光に染まり、やがては意識も消えて全てが終わった。

 と、彼は思ったのだが。


 「…おえ?」


 光はいつの間にか消えていて、イシマルも意識を失うことなく、間抜けな顔で間抜けな声を出していた。

 周りを確認すると、イシマルは自分が見覚えがない場所に立っていることに気づいた。そこには天井も地面もなく、とてつもなく広々とした空間で、それなのに冬朝のベットよりも安楽で、足元も背面もしっかりして、全身が包まれている安全感を与えるような場所だった。つまり見覚えがないところか、現世では想像も説明も出来なさそうな場所。


 「…夢?」


 だからイシマルは自分が夢でも見ているのではないかと自分の頬を叩いてみたが、特に変わる様子はなかった。


 「いらっしゃい」


 まだ呆然としているイシマルに誰かが声を掛けた。

 夢とは思えないほどはっきりと認識できるその声に振り返ると、そこには一人の男が虚空に座って―寝ていたとも言えるが、立っていないことは確かだった―いた。


 (パジャマ?なんで下はブリーフなんだ。てか、はみ出てる…)


 イシマルに声を掛けたパジャマの男は先程の献納箱をその手に持って、その中を覗き込んでいた。


 「酷いことをしてくれたものだ」

 「ええと、とちらさま?」


 状況を飲み込めないイシマルが警戒しながら男に聞く。すると男は微かな笑みを浮かべて答えた。


 「この星の管理者」


 その答えを聞いたイシマルの表情は、数日前に姉にエクストリームアイロンに関して聞かされた時とまったく同じ顔をしていた。

 しかし今回は姉の場合とは違って、男からそれ以上の説明は何もなく、イシマルが解せない顔をしていてもただそれを眺めているだけだった。


 「あ――航空宇宙局?の人?」

 「俺について知りだければ、その本を読んでみるといい」


 男はそう言ってイシマルに向けて指を指した。イシマルは自分の後ろ指していると思って後ろを向いたが、そこには何もなかった。


 「本って、どこにも――」


 と、手振りで疑問を表そうとしたイシマルは自分の手に自分も知らない本が握られていることに気づいた。


 「うおっ?!」


 狐につままれたようなでき事に、イシマルはびっくりして本と男を交互に見つめるが、本も男も消えることはなかった。

 その本は黒く厚いハードカバーの本で、タイトルに聖書と書かれていた。男は自分のことについてその本に書かれていると言った。それが何を意味するかわからないほどイシマルはバカではなかったのだが、それはあまりにも突拍子もない、馬鹿げてる話。だからイシマルは半信半疑、いや、自分でも戯言だと思いながらその言葉を口にした。


 「神――さまってことですか?」

 「いかにも、神です」


 男はあっさりと肯定した。


 (神もハゲるのかよ)


 神と自称する男の言葉をそのまま真に受けいれるほど純真な性格をしているわけでもないイシマルだったが、彼は心のそこで小さな疑問を浮かべるだけで、それを口にしようとはしなかった。信じる気になったわけではなかったけど、今までの流れ―喋る鳩や天からの光、そしてこのわけのわからない空間やいつの間にか消えている聖書など―からして、イシマルは現実的な論理を押し付けても意味がないことを受け入れ、もう気楽に夢だと思うことにした。


 (神というならそういうことにしておこう、どうせ夢だ)

 「混乱してるところ悪いが、実はお前に頼まれて欲しいことがある」


 そんなイシマルの心情は物ともせず、神は話を進めた。


 「頼み事?」

 「なに、ちょっとした手伝いだ」


 大したことではないと、気軽に言う神。

 イシマルはどうせ夢だからと、神の話に合わせた。


 「なにを手伝うんです?」

 「末日が近づいたものだから、そろそろ準備をしないといけないんだが、役者達から連絡がないのだ」

 「末日って、なんの?」

 「世界のだが」


 しばらく沈黙が続いた。

 そして少し夢見心地から覚めたイシマルが聞き返す。


 「え、世界終わるんですか?」

 「そういう約束だからな」


 イシマルは再び沈黙に落ちた。

 彼の頭の中では世界が終わるという神の言葉と、自分の現在の状況、約束という単語の辞書的意味、自分が期待していた答え、マオという男の正体、晩御飯の当番は誰だったのか、などの思いが混ざり合って、熱を出すほどの情報処理を行っていた。

 やがてイシマルはひとつの結論を出した。


 「約束なら仕方がない」


 受け入れられる現実容量を遥かに超えていたため、そういうことにして納得することにしたのだ。

 神は聞き分けがいいイシマルを見てニコリと笑い、話を続けた。


 「だからその役者、四名なのだが、誰ひとりとして連絡がつかない。だから連絡がつかない役者を探し出して、この呼び子を吹いてもらえたい」

 「役者って?」

 「終末の騎手だ。聖書にも書かれている」


 イシマルの手にまた聖書が何もない虚空から現れた。 


 「あ、いや、別に詳しく知りたいわけじゃないです」


 本を読むことをあまり好まないイシマルは手を振って遠慮した。


 「そうか?他に気になることは?」


 神に質問の機会を与えられると、イシマルは悩むようなフリを見せては、頭に浮かんだ質問をそのまま口にした。


 「うーむ、なんでこのことを俺に頼むんですか?」 

 「元々はこの子の役目だったんだがね。残念ながら死んでしまったし」


 その中にいる鳩の骸がイシマルにも見えるように献納箱を手に持って答える神。

 相変わらず血まみれになっているその酷い姿に、イシマルは戸惑いながら否定した。


 「いやそれ、俺がやったわけじゃ…」


 実際、その鳩はイシマルが発見した時にはすでに血まみれで、死んでいると勘違いしてもおかしくない状態だった。しかし彼がそれを強く主張できないのは、


 「とどめを刺したのはお前となっているんだがな。俺の使いが入ってるこの箱を揺らしたんだろ?」

 「そっ、――れは、まあ、偶然というか…」


 彼自身も鳩の最後の恨めしい瞳を覚えていたためである。


 「献納箱は揺らすためのものではないはず。なぜ揺らす必要があったのかな。サイコロにするには物足りないと思うが」


 ますます罪悪感を煽る神。いったい誰が神の前で献納箱のお金が欲しかったと言えよう。


 「仮にも神の使いだ。危害を成してなんの咎めもないというのはな…」

 「えっ」


 背筋が凍るような感覚を味合うことに、イシマルは夢から覚める感じがした。

 睨みつけられたわけでも、直接責任を問い詰められたわけでもないのに、姉を相手する時とは全く違う、言いようがない圧迫感を感じるイシマル。

 神は罪を自覚し、冷や汗をかく哀れな仔羊を見て、罪悪感をつつくことをやめ、慈悲を示すかのような温和な態度で彼に近づき、肩を抱き寄せてなだめた。


 「なに、脅かそうというわけじゃない。お前の働きには相応の報酬も与える」

 「報酬?」


 追い込まれた袋小路のネズミに飴を与える神。イシマルは地獄で蜘蛛の糸を見つけたように、見事に食いつく。彼の目には神に後光がさしているように見えた。


 「そう。悪い話ではない」


 それを見た神は微笑んで、自分の言葉を証明してやると指を鳴らした。すると、何もない空間から金の延べ棒が四つ、イシマルの目の前に現れた。

 人類の歴史を共に歩んだ、俗物の意味さえ内包しているわかりやすい財宝。だがそれだけに人間にはたしかな価値を持つ富の象徴が、神が示す彼への報酬だった。


 「お――…」


 しかしイシマルの反応はそれほど芳しくなかった。

 それが以外だったのか、神が聞いた。


 「気に入らないのか?」

 「いや、なんか、神さまの報酬にしては質素というか、素朴というか…」


 端的に言うとがっかり。その言い分に一理がないわけではなかったが、先程まで自分の罪を責めていた神に、期待以下という感想は挑発に他ならない。

 神は物珍しい顔で答えた。


 「価値とは欲望と満足の間に存在するもの。これはお前の働きとそれへの激励を含めた相応の価値だ。だいたいお前に世界一の富を与えたとしても扱いきれないだろうに。身の丈に合わないことを望む人間の驕りは昔から戒めの対象になって来たと思うが、身をもって知りたいと?」

 「いいえ違います、すみません」


 顔こそは穏やかだったが、その言葉には有無を言わせない確かな威圧感がこもっていた。イシマルは全身を畏怖で縮むような感覚にとらわれ、自分の言動を後悔しながら素直に目の前の報酬を受け取ることにした。

 改めて金塊を見直したイシマルは、自分の苦情がいかに傲慢だったのかを知った。黄金色に輝くその塊は、ただ見ているだけでも欲望の壺の底が黄金の溶銑で満たされるような満足感を与えるものだった。特に豊かな生活を送ったことのない彼には効果が抜群で、こんなものを手にしたらどれだけ気持ちがいいだろうかと、イシマルは胸を躍らせながら気持ちよく金塊へと手を伸ばしたのだが、ところがどっこい、延べ棒をつかむ寸前のところでその手は止まった。


 「あの…この延べ棒、石になったんですけど」


 彼が手に取ろうとした途端、黄金色の輝きは消え去り、金の延べ棒はくすんだ石の塊となってしまったのだ。

 神はせっかちで貪欲な仔羊を優しく諭すように答えた。


 「成果主義と思えばいい。それぞれ騎手に触れせると封印は解ける」

 「えー」


 お菓子を取り上げられた子供みたいな声を出すイシマルを無視して、神は問うた。 

 「俺はいい返事を聞けるのだろう?」

 「…たぶん?」


 どっちつかずでも頭を頷いたイシマルをみて、神は満足そうな顔で手を上げ、イシマルのデコをそっと押した。


 「よし。それじゃあ、気をつけた方がいい」

 「え?」


 何を気をつけるのかた聞こうとした瞬間、イシマルは意識を失った。ただ意識を失う寸前に、彼は神のブリーフの正面に描かれている模様が下向き矢印ということを発見した。

 ・

 ・

 ・

 「下向き矢印ってそういうことか!?」

 「イシマル!」


 ベットから飛び起きたイシマルの目に入ったのは見知らぬ天井と姉のハルカディアの姿だった。


 「あれ?」


 自分の置かれた状況が理解できないイシマルは、起きて数秒間はぼんやりと周りを見渡していた。

 その姿をみていたハルカが安心したような、あきれたような、深いため息を付いた。


 「はあ、まったく信じられない」


 周りに見える一列のベットとその上に寝転ぶ患者服の人たち、周りを忙しく駆け回る看護師や自分の手に繋がているリンゲルを見て、イシマルはハルカに説明を求めた。


 「あんた、屋上で倒れていたのよ。医者は貧血だって。なっっっさけないわね本当に!おかげで今日の企画は台っなしよ」


 その辺の記憶がないイシマルは、貧血だという姉の言葉に首をひねた。

 しかし思い出そうと頭をひねても浮かび上がるのはパジャマとブリーフの男の姿で、イシマルはまさかと思いながら頭を振り、貧血で倒れたと納得することにした。

 ハルカはひとり怪訝そうにしている弟に言った。


 「どうするの?ここで休むつもり?」


 休むというなら止めはしないが、ここはただで泊めてもらえる場所ではないから動けるならさっさと起きろという複合的な視線が伴った言葉。

 長年の姉弟生活で育った洞察力でその真意を汲み取ったイシマルは、嫌気がさすのを我慢して姉に言った。


 「いや、帰るよ。どこも問題ないし」

 「そう。わたしは母さん会いに行くけど、あんたは?」


 彼ら姉弟の母親は数年前から療養病院に入院していた。命を脅かす程のものではなかったといえ、日常生活に支障を来す難治病ということで、もう何年も病院の世話になっている母親は資金的にも精神的にも、姉弟にとって悩みの種になっていた。それでも姉は頻繁にお見舞いを行くなどで家族思いの一面を見せてくれるが、お見舞いに誘われた弟は難色を示した。


 「いや、それはあとで…」

 「あんたの母さん苦手も変わらないよね。いいかげん大人に成りなさいよ」

 「ほっとけよ」


 このようなやり取りはもう何度も行われていたのか、ハルカはそれ以上なにか言うことなく退院の手続きのために受付へと向かった。

 イシマルは体調確認に来た医者に大丈夫ということを示して、帰り支度をしたが、その途中で妙な違和感を感じた。その原因が妙に重いポケットであることに気づいて、手を突っ込んで中にあるものを取り出して見ると、そこには彼が入れた記憶がない呼び子と、延べ棒の形をした石造物が入っていた。


 「おいおい…」


 夢であったはずの神とのやり取りを思い出すイシマル。

 最初はハルカのイタズラではないかと訝しんでみたイシマルだったが、彼女はなんで石なんかもっているのかと逆に聞いてくる。反応からみて姉ではないことは確認できても、依然として石と呼び子の出所は不明のまま。夢の出来事を認めてしまえば悩む必要もなかったのだが、姉と別れ家についた時までも、イシマルは夢の出来事を認めようとせずに石を睨みながら悩んでいた。

 しかし石を睨みつけることで納得のいく答えが出るはずもなく、その内自分のしていることがバカバカしくなってきたイシマルは石と呼び子を捨てようとした。そして彼がゴミ箱の前で石は燃えないゴミでいいのかと悩んでいた時、


 「イシマルソポス」


 誰もいないはずの家の中で、知らない声が彼を呼んだ。

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