ゆるやかに滅びへと向かう世界より
比名瀬
懺悔の音声
じじ……ざざさ………
動画を再生すると、スマートフォンの画面は真っ暗のままだが、ノイズ混じりの音を暫く吐き出した後に、ゆっくりと人の声が聞こえてくる。
『これはちゃんと撮影、出来ているのか…?出来ている、よな…?よし。この動画…もしくは音声だけでもいい。これを聞いている人よ。最後まで聞いて欲しい。そして、私の今から話す事を、愚かにも犯した罪を赦して欲しい』
ノイズ混じりだが、それは男の声だとはっきりとわかる声だ。
『恐らく、そう長くない未来に人類は滅びるだろう。そして、その終末の原因を生み出したのは私だ』
彼は、はっきりとそう言った。
近い未来に人類は滅び去るのだ、と。
そして、彼自身こそが元凶なのだ、と。
『こうなるなんて予想していなかった。ただ人々の幸せな未来のために生み出したんだ。誰もが皆、笑顔で生きていけるために作り出したんだ。滅びへと向かうためにやった理由ではなかったんだ。それだけは信じてくれ…』
彼の言葉は続く。
語る途中、その声は震えて涙声となり時折、鼻を啜る音も聞こえる。
『私が彼らを信じて…騙されたりしなければ…っ、こんな事にもならなかったんだ…!本当に、本っ当に…、すまない……!』
ダンッと、何かを叩く音が聞こえ、彼は叫んで懺悔した。
音声だけだが、震える声と雰囲気からは彼が、唇を噛み締めて涙ながらに後悔を吐露している姿が、想像できる。
『本当にすまない…本当に申し訳ない……本当にごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいいいい!!!────────』
謝罪の言葉は途中で途切れ、奇声を上げて暴れるような物音を残して、ぶっつりと、途切れてしまう。
その後に彼が、どのような末路を辿ったのかはわからない。わかりたくもない。
だが、これだけは言いたい。
「大丈夫よ、兄さん。兄さんが何をしたのかはわからないけれど、まだ人類は滅びてなんかいないわ。まだまだわたし達は、しぶとく生き足掻いてやるんだからね」
固く薄っぺらなスマートフォンを握りしめて、少女は顔を上げる。
その視線の先には、割れたアスファルトから草木が生い茂り、窓は割れ放題、高層ビルは半壊して横倒しになっていたり、沈下したり隆起したりして分断された道路。
最早、人の住める環境でもなく人の気配のないゴーストタウンと化した街。
握りしめていたスマートフォンを尻ポケットに押し込んでから、肩に担いだライフル銃を担ぎ直して、ゴーストタウンの街へと歩き出した。
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