第172話「我が心に、猛き炎あり(4)」
ザーリダーリ火山の狩場『火種の洞窟』にて、俺は1人で精霊王の試練に挑むが、“暑さ”という想定外の難敵に阻まれてしまう。
そこで俺はもともと習得していた【暑さ耐性】――暑さを軽減できるスキル――のLVを上げて軽減効果を増幅するなど、着々と再挑戦への準備を整えていったのだった。
スキル【暑さ耐性】のLVが3まで上がったところで、俺は再度試練に挑んでみることに決めた。
なぜなら一般的なスキルのLVというものは、3ぐらいまでは割と簡単に上がる。だが4以上となると必要熟練値が一気に増え、LVアップが難しくなるからだ。
確かにLVは上げれば上げるほど安全性は高まるけど、これ以上の時間を食うのはよくないだろう……ここらが潮時だと判断したのである。
LVアップ当日は準備をしてから早めに就寝。
しっかりコンディションを整えたところで、翌日の午前中から俺は再び『火の試練の間』の洞窟を奥へと進み始めた。
なお服装はサウナ実験中に続き、超軽装――戦士の服、革のサンダル、綿の布、勇者の
「――うん、割と余裕だな」
流石はスキルLV3。
洞窟中盤まで進んでも、まだLV1だった初日とは快適度が雲泥の差。
もちろん(おそらく)割合軽減なので、全く暑さを感じないわけじゃない。だがせいぜいちょっと汗ばむ程度のぽかぽか感。この程度ならむしろ気持ちがいいぐらいだった。
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1時間も経たないうちに、洞窟の終わりが見えてくる。
俺の到着に合わせるかのように、設置された12個の照明魔導具がパッと一斉点灯し、突き当たりの壁を浮かび上がらせた。
瞬間、俺は目を奪われる。
その光景はあまりにも美しすぎたのだ。
道中よりも天井高めな突き当たりは、壁一面全てがレリーフになっていた。
躍動感たっぷりに彫り上げられているのは、巨大な火の精霊王の姿。
素人の俺でも見た瞬間に「匠の作だ」と直感できるほどの絶対的な存在感。
加えて周りをグルッと囲む照明魔導具が、赤く燃える光で彫り筋を浮かび上がらせることで、より神々しさを際立たせている。
ほぼ自然のままな造形の洞窟には不釣り合いな芸術品。
これこそが試練のゴールなのである。
ゲームと同じ状況ならば、この“隠されし美”を目にすることはもう2度とできないだろう……しばし心ゆくまで眺めてから、少々の名残惜しさを胸に仕舞い、俺は頭を切り替えることにした。
「それじゃ、試練をクリアするか……」
息を大きく吸い込み、静かに吐き出す。それから精霊王のレリーフへと近づいて、中央の魔石へ手をかざし、思いっきり魔力を籠める――
――キラキラ……スゥッ……
照明魔道具の光が点滅。
レリーフから飛び出す形で“火の精霊王”本体が出現し、宙へと浮かびあがると、高い天井いっぱいを覆いつくした。1週間前と変わらず赤く燃えるライオンのように凛々しい姿……またもや圧倒された俺は、ただただ息を呑むしかできなかった。
『神に愛されし光の子よ……
頭の中へと重々しい声が響き渡る。
と同時に火の精霊王の心臓から
轟々と音を出して燃える炎球は、そのまま俺の前へと飛来。
ゲームにおけるこのイベントの
――ブワッ!
炎球が力強く燃え上がる。
両手のひらを通して俺の体の芯へと干渉してくるのは、強烈に熱い魔力の波動。
次の瞬間、炎球が収束。
俺の手の中に残されていたのは、灼熱の炎のように輝く真紅の
『我、
その力強い言葉を最後に、俺の視界がぐにゃっと歪み――。
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――
飛ばされたのは、黒い岩壁で囲まれた20畳ほどの閉め切られた小部屋。
ゲームと同じくまずは『火の待機所』に戻されたようだ。
「あっタクト! 終わったんだなっ」
陽気に
「わりぃ。もっと早くクリアするつもりが、1週間も待たせちまって……」
「これぐらいよゆーよゆー! なんか創作意欲がガンガンわいてきちゃってさ~、待ってる間に新曲1つできたんだっ♪」
リュートの弦をポロロンと得意げに弾いてはしゃぐテオ。
その音色の断片は、とても軽やかで楽しげだった。
「今度はどんな歌なんだ?」
「ほら、タクトが案内してくれたおかげで、洞窟の
「おう! 楽しみにしてるぜ!」
満面の笑みを浮かべた俺達は、どちらからともなく拳をカツンとぶつけ合った。
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