第171話「我が心に、猛き炎あり(3)」
ザーリダーリ火山にて、俺は『火の精霊王の試練』への挑戦を開始。しかし舞台となる『火の試練の間』は非常に暑く、このままでは奥に進むことすら難しかった。よってひとまず俺は「【暑さ耐性】の熟練値を溜めてのスキルLV上げ」を目指すことにしたのである。
そもそも【暑さ耐性】は「一定以上の気温で自動発動し、暑さを軽減する」との効果を持つスキルだ。
俺が注目したのは、【暑さ耐性】を習得後から1ヶ月ほど常時使いっ放しなのに、スキルLVが全く上がってない点。他スキルだったらこんな長期間使ってればそろそろ上がってもいい頃なのに。
そこで立てた仮説が「熟練値を溜めるには【暑さ耐性】を使いっ放しじゃ駄目で、スキルのON&OFFを繰り返さなきゃならない」というものだ。
耐性系スキルの熟練値が溜まるのは“スキル発動の瞬間”のみで、おそらく【暑さ耐性】も例外じゃないだろう。よって【暑さ耐性】が発動する、つまり「気温を下げてから再び上げ、一定以上の気温に到達する瞬間」を繰り返せば、熟練値を溜められるのでは……というのが俺の結論だった。
ただし【暑さ耐性】は
「……んで、スキルON&OFFを強制的に効率よく実現できそうな装置こそが、現在絶賛実験中の“サウナ”ってわけだな。いや~先人プレイヤーの皆さんの研究成果を参考にさせていただいたおかげで、突貫で作ったとは思えない完成度だぜ!」
小部屋内を見回し、改めてしみじみニヤついてしまう。
俺は日本にいた頃に機会があって、何度かサウナに行ったことがある程度。あまり詳しくないものの、入った時の熱い蒸気にむわっと包まれる感覚は割と遜色ない気がする。まぁ自分で作ったからテンション上がってる、ってのもあるだろうけど。
ゲーム『
当然ながら“風呂”というのも例外ではなく、「家庭用のこじんまりした浴槽」から「スーパー銭湯のような巨大風呂」まで様々なタイプが、電気・水道・ガス等のかわりに魔導具を組み込む形で再現され、その完成画像や
もともと俺はその辺りのプロジェクトの掲示板も時々チェックしてたんで、中にはサウナのレシピも多数存在するってことを知っててさ。
てなわけで今回はその中から「比較的手軽&手持ち素材で作れそうなレシピ」を探してアレンジしたんだ。料理と一緒で、0からレシピを考えるより、そのほうが断然簡単で質が良いものを作りやすいんだよね。
材料は、入手したドロップ品を売らずに溜めておいたり、たまたま見かけた術式入りの安い魔石をまとめ買いしたりしておいたストック品を活用した。特に魔導具部分は難しくて何度も失敗。だいぶ材料を無駄にはしたけど何とか形にできてよかった!
「さて、入り始めてそろそろ5分か……もうちょい入ってられる余力はあるけど、いったんこれぐらいだろ」
いい感じに体が温まったところでステータスウィンドウを呼び出した。
確認するのは現在の俺の状態だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
状態 【暑さ耐性】発動中
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ちゃんと【暑さ耐性】発動中だな。問題は、この後どう変わるかだけど……」
ステータスウィンドウを消し、木製椅子から立ち上がる。
桶型魔導具の水で汗を軽く流してから小部屋を出た。
今度は足からゆっくり水風呂の湯舟へ。
「あ、
温度差で体がびっくりしてるのが分かる。
だけど芯まで温まり済みだから全然いける。
ここで状態を再チェック。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
状態 健康
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おっしゃ!! 予想通り【暑さ耐性】が消えたぞ!」
まずは仮説の第1段階立証だ。
自動発動スキルな【暑さ耐性】の発動条件は「一定以上の気温になる」こと。水風呂に入り、
数十秒ほど浸かると火照りがとれ、じんわりした冷たさが皮膚の奥を塗り替えようと染みこみはじめた。
「――今だッ」
すかさず水風呂から出る。
隣の長椅子へと寝転がって“外気浴”。
「ふぅ~、たまんねぇやァ~……」
冷えた全身が再び温かな外気にさらされた途端。
体と脳とが、とろんと溶けた。
いわゆる“
しばらくは異次元の心地よさを堪能し、少し落ち着いたところでステータスを確認すると、ちゃんと再び【暑さ耐性】が発動していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
状態 【暑さ耐性】発動中
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「よし、仮説第2段階立証! あとは今のを繰り返して『本当に熟練値が溜まってるかどうか』、つまり『スキルLVが上がるかどうか』を実験すれば完了だけど……――ん?」
「ええっと……俺、何も念じてないんだけど……」
首をひねりつつも一応ウィンドウを眺めてみると――
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・
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・
■神の一言メモ■
何じゃ何じゃ! その“さうな”とやらは!!
先ほどのお主は天にも昇る心地のごとき表情じゃったが……ただ温めて、冷やして、また温めるだけじゃのに、そんなに気持ちよくなれるもんなんかのう?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――うっわ!!!
――アイツ覗いてやがったッ!
瞬間、スッと消え去る極楽気分。
神様が暇つぶしに俺の行動を眺めてることは知ってるけど、流石に人の風呂をどうこういうのはマナー違反だろ……風呂は命の洗濯だぞ! 見て見ぬフリしろよッ!
むかついた俺は無言で完全無視を決め込み、ウィンドウを消去した。
「……まぁでもせっかくのサウナだし、楽しまなきゃもったいないよな……何よりスキルLVに関する検証は済ませておきたいし…………よし!
自分に暗示をかける勢いで、強く強く言い聞かせる。気持ちが切り替わったところで改めて、お一人様サウナを堪能することにしたのだった。
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サウナ実験を繰り返すうち、その日のうちに俺の【暑さ耐性】はLV2に上がった。その瞬間、暑さの体感がグッと軽減。仮説は立証されたわけだ。
それから俺は1週間かけて無理ないペースで天然サウナを満喫し、【暑さ耐性】のスキルLVを3まで上げることができた。
LV3ともなれば、暑さの軽減度はさらにアップし、洞窟内を余裕で歩けるまでになったのだが……そのかわり、サウナに入っても全く汗をかけなくなってしまった。当然である。暑さが(おそらく)80%もカットされてしまうのだから。
「せっかくいい感じに組み上がってたのになぁ……」
汗をかくほど温まれなければ、あの
そんな喪失感も覚えつつも、俺は一応「暑さを何とかする」という第一段階の目的をクリアすることができたのだった。
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