第169話「我が心に、猛き炎あり(1)」
ザーリダーリ火山の狩場『火種の洞窟』を訪れた俺は、いったんテオと別れてから、1人で『火の精霊王の試練』に挑んだ。しかし最初の挑戦は失敗に終わり、再び試練のスタート地点に戻ることとなってしまう。
このまま無策で再挑戦しても、先の二の舞になるだけだ。そう感じた俺は、軽く情報を整理した後に、ひとまず昼食休憩を挟むことにした。
「さて何を食うか…………おっ、これとか旨そうじゃん」
俺が【
――ランチボックス(ル・カラジャ
先日寄ったル・カラジャ共和国の商店街でまとめ買い&保管していたドリンク付きランチボックスのうちの1つである。あのお店むちゃくちゃ混んでたから「絶対旨い店だ!」と直感。色んな種類のランチボックスを20食分買っておいた。
「やっぱり元気を出したい時は揚げ物に限るぜ! “
取り出した瞬間、辺りを包んだのは揚げ物特有の香ばしいニオイ。
確か『ディープフライフレーバー』とかいうんだっけ?
こりゃ期待できそうだ!!
食欲を押さえきれなくなった俺は、早速「いただきます!」と包みを開けた。
メイン料理は、BIGサイズの食事系クレープサンド。いかにも南国チックな特大の葉っぱで包んであって、郷土料理らしさも全開だ。
少し厚めに焼いた甘くないクレープに、近海で獲れたという白身魚の分厚いサクサクカツと、荒く砕いた木の実、新鮮なシャキシャキ葉物野菜が挟まれている。魚カツだけだと淡泊なのだが、濃い味のドレッシングで野菜を和えてあるから問題なし。
野菜とカツを一緒に食らう感じで思い切りガブリとかぶりつけば、シャキ&サク食感と食べ応えとをこれでもかと存分に味わえる。砕いた木の実の香りと食感もいいアクセントになっていて、満足度も半端ない!
そしてドリンクは、キンキンに冷えた氷入りのレモン水。ル・カラジャ共和国あたりの名産果物『ル・カラジャレモン』の絞り汁を贅沢に使ってあるらしい。
爽やかにレモンが香り、甘味は控えめ。食事にもよく合うさっぱり系の後味がさらに食欲をかきたてる一品である。
ボリュームたっぷりなおいしい食事で、俺はしっかりと英気を養うことができたのだった。
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「じゃ腹も膨れたことだし、改めて『火の精霊王の試練』クリアのための作戦を立て直すか!」
俺は再び、筆記用具――紙を挟んだボードとペン――を手に取った。
今回の試練の舞台『火の試練の間』は、ゲームと同じ仕様なら「1本道の洞窟」で、外部から出入りする通路やドアなど存在しない“独立空間”だ。現在“仮の拠点”として俺が陣取るのは「試練の間のスタート地点」つまり洞窟の突き当たりである。
そんな試練の間から出る手段としては、2つが確認されている。
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①正規の手順で試練をクリア
試練をクリアすると、設置された魔導具での『
②試練に失敗(=
死亡するとセーブ地点に戻されるため、このシステムを利用する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
当然ながら理想の正攻法は①だが、試練が難し過ぎる場合は②を選ぶというのも1つの手だ。ゲームだとセーブ&ロードは別に普通の手段である。
「だけど今回、②の手は使えないだろうな……俺の推測が正しければ、今って自動でオートセーブされまくってるみたいな状況だし」
ゲームでは、試練の間に入ってからセーブすると試練クリアまで永遠に出られなくなるので注意が必要だ。下手すると最初からゲームをやり直す羽目になるからな!
そして現実では、さっき俺が死にかけた際、謎の少女リィルによると「魔王が少しだけ時を戻して
目が覚めた瞬間、俺は試練の間の洞窟を結構進んだところにいた。
まさにセーブ&ロードみたいな状況だが……問題は最後のセーブ箇所が「試練の間の内部であるらしい」という点だ。仮に俺が再び試練に挑んで死にかけたとしても、
つまり『試練をクリアするまでここから出られない』って状況っぽいのだ。
まぁ痛いの嫌だし、死にかけてそのまま死ぬリスクもあるから、そもそも『②試練中に死亡』を試すつもりはなかった。やっぱ安全第一だよな!
というわけで俺は挑戦前から、選択肢としては『①正規の手順で試練をクリア』一択だった。
ゲームにおける精霊王の試練というのは総じて非常に難しく、ノーデスクリアが厳しい傾向だが、“火”だけは例外。「1本道の通路をまっすぐ進むだけ」と異様に単純で、失敗するほうが難しいほど簡単だったし。
「予定だと現実でも割と楽にクリアできるはずだったんだけどな。多少の想定外は覚悟してたけど、まさか
通路をちょっと進んだだけなのに、俺は暑さで茹で上がってしまった。あんな暑さで普通の人間が歩き続けられるわけがない。
逆に言えばゲームと同じく魔物とかは出なさそうだったし、暑ささえ対策できればどうにかクリアできそうなんだが、その壁が高いんだって……。
うんうん唸って考え込んでいたところで、ふと思い出したのは
「あ。俺が試練をクリアしない限り、テオも待機所から出られないのか……」
ゲームでは
だけど本人が「絶対ついてく!」って聞かなくてな……まぁ俺も道中2人のほうが安心だしってことで、万全の準備をする事を条件にテオに同行してもらうことになった。それに元はうまくいけばすぐクリアできるだろう、なんて内心ちょっと高を
今となっては、本当に準備をしっかりしておいてもらって正解だった。
テオは「2ヶ月でもこもれる」的なことを言ってたし、俺も食料をはじめ同じぐらいの準備はしてる。だからさっきも節約することなく普通に昼飯にがっつけたし……一応ピンチではあるけど、心の余裕だけは割とあるんだよね。
「まぁでもあんまり1人で待たせるのも悪いし、
テオは良いヤツだ。色々やらかすけど。
出会った当初から魔術を暴発して
というかリィルの話が事実なら、俺、テオに殺されかかってることになるんだが?
俺は『
「――ん? 待てよ……?」
瞬間、俺の頭に舞い降りたのは
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