第163話「火種の洞窟、火の試練(3)」


 ザーリダーリ火山まで戻ってきた俺とテオは、火山内の狩場の1つである『火種の洞窟』を訪れた。

 洞窟内部の仕掛けを解除し、さらに奥へと進んでいくと、『火の精霊王のほこら』に到着。俺が祭壇の魔石に魔力を注いだところ、“ほこらの主”が姿を現したのだった。





 空中に浮かぶは、赤く燃えるライオンのように凛々しい姿な『火の精霊王』。

 そのあまりの存在感オーラに、俺とテオとがただただ圧倒されていると。



『我、生命いのちをもたらす焔炎ほむらなり……

 我、くらきを照らす灯火ともしびなり……

 我、しきを滅す業火ごうかなり……』



 頭の中に“”が響いた。

 ゲームのそれとは違い、耳を通ることなく、脳に直接語りかけられてくるというか、いわゆるテレパシー的なやつだろう。


 だけど言葉はゲームのものと一言一句同じ気がする。

 なら次は、“あの質問”が来るはずだが――




『神に愛されし光の子よ……

 ……なんじ、燃ゆる炎の加護を願うか?』



「はいッ!」


 待ち構えていた通りの問いに、迷わず俺はゲーム通りの答えを返す。




『なればひとつの試練を与える……

 証明せよ……

 なんじの心に、たけき炎がることを……』



 ひときわ強く脳内へと響く声。

 と同時に地面が光り、目の前がと歪んで――。





*************************************





――次の瞬間、が変わった。


 先とは違う洞窟内の小部屋。

 どこもかしこも黒色の岩の壁で囲まれた20帖ほどの空間。

 天井こそ高いが、出入口は見当たらず、閉め切られているから外の光は入らない。


 だが魔術で周囲を照らす必要はない。

 地面に埋め込まれる形で、明かりの魔導具がいくつも設置されているからだ。




「なッ?! ななななんででででッ?!」


 背後からテオの声。

 くるっと振り返ると4コママンガみたいに分かりやすいパニック真っ最中だった。




「落ち着けテオ――」

「だだだだだってッ!! ピカッ、グニャアッ、ブワァッ――て知らないとこにいるんだぞッ! ていうかッタクトこそむしろ慌てろよォッッ?!」


 俺は一瞬考えてから、ようやく彼の状態を理解する。


「あ~もしかしてお前、『空間転移テレポート』は初めてか?」

「へ?? て……てれぽぉ……と?」


 きょとんと首を横に傾けるテオ。

 うん、こりゃ全く心当たりがないって感じ。


「『空間転移テレポート』ってのは、あれだ。『離れた場所に人や物体とかを一瞬で移動させる』的なやつだな」

「そっ、そんなスキルあったのか?!」

……まぁスキルっちゃスキルだよ、うん」



 俺が言葉を濁した理由。

 それは『空間転移テレポート』が“魔術術式”に分類されることにある。



 厳密に言えば魔術もスキルの一種であるのは事実。

 しかしこの世界の人たちが“魔術術式”を総称した際、普通は『魔術』呼びするのが慣例で、『スキル』呼びは聞いたことがない。


 背景には『魔術』と『それ以外のスキル』の仕組みの違いがある。

 魔術は精霊の力を借りて魔力を自由に扱う技で、他のスキルは精霊に頼らずそのまま魔力を扱う技だ。この世界リバースの人にとって『精霊』という存在は特別であり、その有無というのはとても大きいんだとか。

 感覚的には、横浜生まれの人が「横浜出身」とは言うけど「神奈川出身」とは言わないのとだいたい一緒だな。



 仮に俺が“魔術”と説明していたら。

 テオは素直に聞いただろう、“”と。


 その質問に俺は答えられない。

 なぜなら『空間転移テレポート』は、一般には知られていない、つまり“幻の7つめの属性魔術”の術式だから。俺が密かに作りたいと思っている魔導具『自由転移扉テレポーテーションドア』も術式『空間転移テレポート』を最大限に活用するものでもある。


 テオはじめこの世界の人にはオーバースペックすぎるから、あまり詳細に説明したくないんだよな……ま、このまま誤魔化し続ける方向でいくってことで。






「じゃあテオも落ち着いたことだし、この後の流れを改めて確認するぞ。まずここは、火の精霊王の試練において『火の待機所』と呼ばれる場所だ」

「あ、作戦会議でタクトに聞いたとこ! でもまさか移動方法が『空間転移』ああいう感じってのは予想してなかったなぁ……てっきり“フツーに歩いて移動”とかだと思ってたからさー」

わりぃ。俺の説明が足りなかったぜ」



 ゲームでの試練承諾時もパーティ全員で待機所に飛ばされるわけだけど、移動後には特に会話イベントが起きないから、テオがあんなに慌てるとは考えてもなかった。


 まぁ『空間転移テレポート』初めてなら、現実のリアクション的には慌てたほうが自然か。

 架空世界ゲームはたぶん神様の調整か何か入ってたんだろ。



「……だが待機所に来るまでの流れ自体は想定通りだったし、この後もたぶんそこまでずれることはないとは思うぞ」

「えっとー、試練を受けられるのは勇者タクト1人だけで……俺はこの部屋で試練が終わるまで待機だね!」

「ああ。ちゃんと準備してきたよな?」


 ニカッと笑うテオ。


「もっちろん! 水にごはんにオヤツにお酒、本も紙もインクもいっぱい持ってきたし、楽器だって弾きまくれるさ♪ 寝る時はテント広げるし、お風呂やトイレも問題なし。1ヶ月でも2ヶ月でもこもりまくれるぜっ!!」



 流石に2ヶ月はかからないって。


 とはいえ俺が試練を突破クリアするまで、テオは基本ここから出られないっぽいから、それぐらいの気持ちでいてくれたほうが安心ではあるが。

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