第162話「火種の洞窟、火の試練(2)」
俺とテオの2人は、ザーリダーリ火山内の『火種の洞窟』を訪れた。
順調に魔物を倒しつつ洞窟の突き当たりまで来たところで、俺が
「え? え?? なにこれ、すっご~~!!」
さっきまでの渋い顔から一転、テオのテンションが一気に上がった。
起動スイッチとなった天井の突起を眺めまわしたり、現れた新通路あたりの壁をペタペタ触ったりと、まるで子供みたいにはしゃいでいる。
「言ったろ。まだ道はあるって」
「だけどまさかこんなすごいのが隠されてるとか思わないじゃん! 火山について詳しいはずのニルルク村のみんなもギミックのことは知らなかったみたいだったし……やっぱ
「まぁ、そうだな……」
テオの言う「お告げ」は、例のごとく「俺が知識の出所を誤魔化すための嘘」だ。
今回の仕掛けも本当は攻略サイトで知ったし、俺自身も実際にゲーム内で何度も発動した経験があったが、さすがにこの世界の人間なテオには説明しづらくてな。
あまりに便利で多用しすぎ感すらある言い訳だが、今のところ神様からクレームは来る様子もないので問題ないんだと思う。俺たちの行動をずっと見て楽しんでるっぽいし……あの神様のことだ。文句があったら自分から何か言ってくるだろ、たぶん。
「ってことはこの先に、その『火の精霊王の
「そのはずだ。ただ俺も
「OK!」
うなずき合う俺たち。
少なくともここまでは、ゲームで知っていた通りの状況だった。
ニルルク村を出てから洞窟に入り、この突き当たりに到達するまでの道中も。
魔術をぶつけることで発動できた壁の仕掛けも。
だけど目の前に広がる新たな通路の先もまたゲーム通りの状況とは限らない。
この先からは、地元の獣人たちですら足を踏み入れていないエリアなのだ。
用心に用心を重ねるぐらいでちょうどいい。
俺は片手剣を、テオは鞭をそれぞれ構え直す。
それから周囲に気を配りつつ、先の見えない真っ暗な通路へと進んで行った。
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ゲーム『
属性魔術には他に火属性・水属性・風属性・土属性のものが確認されており、それぞれの術者を個別に仲間に入れることができた。しかし
ゲーム発売直後から、多くのプレイヤーたちの試行錯誤により、様々なスキルの習得条件が判明していった。それにも関わらず、属性魔術習得の手掛かりは全くと言っていいほど見当たらなくて。
そういった背景から「属性魔術は習得不可能なスキルなのでは?」というのがプレイヤー間の通説と化したのである。
だが属性魔術を使う、つまり自分の手で火や水などを操ることを夢見る者は少なくなかった。その中には「絶対に光以外の属性魔術を習得する条件も、ゲーム内のどこかに隠されているはずだ!」と信じ、執念を燃やすプレイヤーもごくごく少数派ながら存在したのだ。
彼らの粘り強い調査によって、発売から約1年後、まずは【土魔術】の習得条件が判明。普通にプレイしていれば絶対に分かるはずもない“隠し要素”を見つけ出すという快挙は、まさに執念の勝利といえるだろう。
属性魔術を習得するカギ。
それは『精霊王』にあったのだ。
最初に習得条件が発見された【土魔術】は、『土の精霊王』の試練を突破することで使用が可能となった。その土の精霊王が居た場所こそが『土の精霊王の
ちなみに初めて攻略サイトに「【土魔術】の習得条件」が発表された日を、俺はよく覚えている。あまりの衝撃で、そりゃもう盛大なお祭りだったからな……!
後から考えると、この発見が多くのプレイヤーたちの遊び方を大きく変えまくった出来事の1つだったのも間違いないと思う。
まず何より単純に【土魔術】が解禁された。
この新たな属性魔術を習得することで、仲間キャラに頼らずともプレイヤー自身が土や石などを具現化し操れるようになった。
戦闘中だけでなく、戦闘外における行動の選択肢が広がったことで、多数の新イベントや新アイテムの発見にもつながったと言える。
プレイヤー同士の交流の流れも大きく変わった。
属性魔術スキルというシステム考察のヒントとなった『精霊王』は、あくまで世界観を広げるための設定、いわゆるフレーバーテキスト的な扱いをされていた存在で、それまで世界観考察勢にしか注目されてなかった、知る人ぞ知るニッチ要素だった。
ゲームが好きな人って割と「各種システムが好きな人」「世界観・ストーリーが好きな人」「特定のキャラが好きな人」とかに分かれてて、交流しても範囲が限られることが多いと思う。
だけど『精霊王』へ注目が集まったことで、スキル習得条件はじめシステム面の新要素開拓に命を燃やすプレイヤーたちが、世界観考察勢へと一気に加わった。これにより情報交換が進んだり、様々な要素の議論が再燃したりするようになった。
色んなところで交流の垣根が低くなって、各種プロジェクトの新規参加者がどっと増えたのが目に見えて分かったのもおもしろかったな。発売から1年も経つと何かにつけてマンネリ化気味だったんだけど、それが一気に活性化したって感じでさ!
その流れで、新スキル習得条件を探し出そうとするプレイヤーも増えた。
習得不可が通説なスキルの代表格だった属性魔術スキルの習得条件が見つかったことで、「実は他にも習得可能なスキルが隠されているんじゃないか?」との見方が広まったのだ。
しらみつぶしに色んな条件を試すプレイヤーも増えたことが、魔術に限らず多くのスキルの習得条件の発見につながったと言える。
さて、スキル【土魔術】習得条件という偉大な発見を皮切りとして、他の属性魔術の習得条件も続々と明かされていった。
最大のヒントは各地に残る精霊王の伝説だ。これを掘り下げることで『精霊王の
最後まで発見が遅れたのが、他でもない【火魔術】だった。
火の精霊王の伝承自体はどれもザーリダーリ火山を匂わせているのに、どんなに調べまくっても肝心の
そんな中、『火種の洞窟』で戦っていたプレイヤーが魔術術式の発動を失敗した瞬間、壁の仕掛けが偶然発動。現れた新通路の先で、なんと『火の精霊王の
この報告をきっかけに、一部プレイヤーが総力を挙げて仕掛けの発動条件を検証し、習得方法を明らかにしたのである。
そんな火魔術にまつわるエピソードも思い出しつつ、俺は先頭を歩いていく。
仕掛けの先に踏み込んでから、出現する魔物の種類はガラッと変わった。
それまでは
不思議な確信を胸に最後の角を曲がり、ただただ通路を直進する。突き当たりはそのまま小さな部屋状のスペースになっており、中央に小さな祭壇が設置されていた。
「ここが火の精霊王の
「すげぇ……!」
「……じゃ、いくぞ」
ひと通り観察が終わったところで、俺は祭壇前へと進む。
中央には、美しく磨かれた巨大な魔石がひとつ設置されていた。
つまり「この祭壇自体が“一種の魔導具”」なのである。
魔導具とくれば、やることは1つ。
そっと魔石に手を触れ、静かに魔力を注ぎ込んだ。
――ポゥ…………フワッ……
大量のろうそくでライトアップしたみたいに、部屋全体が赤く光る。
続けて中央祭壇が輝いたかと思うと、空中に出現したのは1体の巨大な精霊。
この赤く燃えるライオンのように凛々しい姿の精霊こそ、火の精霊の頂点に立ちまとめあげる存在『火の精霊王』なのである。
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