第123話「昼行獣人族自治区画と、分裂したニルルク村(2)」


 この大陸最大の都市『ル・カラジャ共和国』にある種族別自治区画の1つで、昼行性の獣人達が多く暮らす「昼行獣人族自治区画」を訪れている俺とテオ。

 区画内に入りしばらく歩いたところで、ようやくお目当ての場所を発見した。





 『ニルルク村』と書かれた歯車型のおしゃれな金属製看板がかけられた、10階建てぐらいの大きな日干しレンガの建物。

 入口扉を開けると、廊下が奥まで延び、その左右に表札がついた扉が6つと、まるで集合住宅アパートのような構造になっていた。



 以前テオに聞いた話やゲームでの知識を思い出しつつ、俺がたずねる。


「確か1階がニルルク村の職人工房で、2階より上が村人達の住まいなんだよな?」

「うん、手紙にはそう書いてあった。そんでムトトは昼間だいたい工房にいるから、会いたい場合は工房の受付に聞いてくれってことだったけど……お、ここかっ!」



 辺りを見渡したテオが、手前の扉に貼り付けられた看板を見つける。

 看板は建物入口の物と同じく歯車の形で、火・水・風・土4属性の魔石を思わせる4色の石を配置した凝ったデザインだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ニルルク魔導具工房/ル・カラジャ支部

受付 Open 10:00 Close 17:00

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 細かい内容までは聞き取れないものの、扉の向こう側からは複数の話し声がうっすら聞こえてくる。



「こんにちはー!」

「お邪魔します」


 早速テオが笑顔で受付の扉を開け、俺も後に続く。






 扉を開けた俺達の目に飛び込んできたのは、古めかしいメタリックな内装。


 天井にも壁にも様々な太さのパイプがひしめき、そのところどころに埋め込まれた魔導具らしき物体の隙間からは、回り続ける歯車・上下に動くシリンダー・うっすら輝く魔石などが見える。


 床は12畳ほどで、滑り止め目的とデザインを兼ねた細かい模様入りの金属パネルが敷き詰められている。



 部屋端のカウンターには、少し間隔を空けてシンプルな革張りの椅子と簡単な仕切りが並び、それぞれが窓口になっている。


 現在は5つの窓口のうち1つだけが商談中、残りの4つは無人状態。


 そして部屋中央付近にドンと置かれた横長ガラスケースには、サンプルの魔導具が多数展示されていて、客らしき獣人がのぞきこんでは店員の説明を聞きつつ購入を検討しているようだ。



 店員達が額に着けているレトロっぽい大きなゴーグル、左右非対称アシンメトリーな生成りのシャツ、ごてごてとチェーンスタッズで飾り付けたベストっぽい形の革製コルセットと編み上げブーツ、歯車型のピンバッジは、ニルルク魔導具工房のユニフォームだ。


 女性はショートパンツか何重にも重ねたフレアスカートを、男性はゆったりしたズボンをブーツの中に入れて履いているほか、よくよく見るとユニフォームは個人個人でだいぶ形が違うのだが、全体的なデザインや素材に統一感があるためか何となく揃って見える。




 建物の外観も共有部分の廊下も、周りに立ち並ぶ建築物――黄土色の日干しレンガ製――とほぼ変わりない造りだった。

 しかし扉の先に広がっていたのは廊下までとは全く違う光景で、一瞬にして国を飛び越えてしまったんじゃないかと錯覚してしまうほど。


 ゲームであらかじめ内装を知っていた俺も、思わずテオと共に部屋の中をキョロキョロ見回していたところ。ユニフォームを着こなした若い兎型獣人の女性店員が、可愛らしい声で話しかけてきた。



「いらしゃイ! 用件は注文品の引き取り? それとも新規の製作依頼かナ?」



 語尾に舌足らずっぽさが混じったり、『ー』の伸ばしや『っ』の止めが短かめだったりと独特な発音の喋り。また基本『です』『ます』などの丁寧語が存在しない。

 これらはほとんどの獣人族の話し方に共通な特徴となっている。


 ゲームにおいてはプレイヤー達による研究が進んでおり、この特徴的な話し方は、『獣人がかつて使っていた独自言語』の喋り癖の名残だという見方が一般的だ。



「今日はどっちでも無くて、ムトト・メギラクに会いたいんだ! 俺達が訪ねるって一応事前に手紙で知らせてあるはずだよー」

「ムトト……?」


 テオが笑顔で答える。

 女性店員は怪訝けげんそうに首をかしげてから、ハッと目を見開いた。


「ッてか、あんたテオじゃン!」

「そーだよ!」

「ひさびさ過ぎて、すぐには分からなかたヨ……テオがニルルク村に最後に来たの、いつだたケ?」

「4年ぐらい前かな? ほら、究極天蓋アルティマテントを引き取りに言った時!」

「それダ! 究極天蓋アルティマテント作るの楽しかたナぁ……テオが『金に糸目つけないから良いもの欲しい』て言うからサ、私も皆も張り切て、いつもは使えない高級素材使いまくたり、普段は妥協するとこをトコトンこだわりまくたり……あんなに趣味と実益かねた楽しい依頼、最近はなかなか無いのよナ」



 懐かしそうに喋るテオと女性店員。 

 その様子を眺めながら俺が大人しく待っていると、ふと店員と目が合った。



「ん……? その人間、テオの連れかナ?」

「うん。ムトトに会わせたいんだ!」


 テオの言葉に続き、俺は丁寧にお辞儀をした。


「いけなイ、いけなイ、忘れてたヨ! そいえばテオは、ムトトに会いたくて来たんだたネ! 今は店もヒマだし……たぶんムトトもその辺いるから呼んでくるナッ!」



 兎型獣人の女性店員はぴょこぴょこ跳ねるような走りでフレアスカートを揺らしつつ、扉の外へと駆けていった。

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