第122話「昼行獣人族自治区画と、分裂したニルルク村(1)」


 この大陸最大の都市『ル・カラジャ共和国』を訪れている俺とテオは、国の正門付近に広がる中立区画内をしばらく散策したあと、「昼行獣人族自治区画」入口門の前に到着した。


 ル・カラジャの国を囲む防壁と同じような、日干しレンガ製の高く分厚い壁。

 その一角をくり抜いて作られた大きな門の前の高い台座の上には、獅子ライオン型獣人の男を模した等身大の銅像が建てられている。




「この銅像のモデルになってる男の人は、昼行獣人族自治区画の初代区長なんだぜっ! 他の自治区画の初代区長や、当時の住民と協力して区画のいしずえを築きあげた、すっごい獣人なんだってさー」

「へぇ……」



 テオの得意気な解説に相槌を打ちながら、俺は銅像を見上げる。


 綺麗に磨き上げられた獅子型獣人の銅像は、背筋をピンと伸ばし、猛々しい立派なたてがみを蓄えた迷いのない表情で前を見つめ続けていた。




 ゲームでもこの銅像は同じ場所に存在し、近隣住民に話を聞いたり、文献を調べたりすると『遠い昔に初代区長を務めた彼』の様々な伝承を知ることができる。

 皆が口を揃えて言うには、彼は誰からも尊敬される素晴らしい人物であり、ル・カラジャの獣人が最も誇る祖先なのだと。



 共和制になったばかりで混乱していた獣人達をまとめ、自治区画内のルール作りや街の基盤作りをゼロから主導。

 住民の支持を集めた結果、なんと彼は連続20年もの長期間、昼行獣人族自治区画の区長を務めたのだ。


 通常区長の任期は2年(1期)、長くても6年(3期)であり、ル・カラジャの他の自治区画を含めても10年以上区長を務めたのは彼ただ1人だけ。

 当時の彼の人望がどれだけ厚かったかをお分かりいただけるであろう。





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 主に昼間中心に活動する獣人達が暮らす「昼行獣人族自治区画」の街並みは、「中立区画」と非常にそっくりだった。


 日干しレンガ製の個性的な形の建物が立ち並び、そのどれもに朱色と白の2色の塗料で大胆な模様――幾何学模様や植物模様を組み合わせたような独特の模様――が描かれている。



 大きく違うのは、中立区画では多様な種族を見かけたのに対し、昼行獣人族自治区画では行き交う人々の9割以上が獣人だという点だ。

 今まで訪れた国や街では人間族以外は総じて少数派だったため、ここまで多くの獣人を現実で見かけるのは初めてな俺は、失礼にならない程度に気をつけつつ、周囲を眺めてみた。




 俺達が現在歩いているのは、区画入口近くの商店街。他の国ではあまり見かけない種類の果物ばかりな青果店から、鮮やかな色の染物で作った衣服が置かれた服飾店まで、様々な店がずらっと道の両脇に並ぶ。


 店にいる店員も買い物中の客も大半が獣人だが、人間や魚人を中心に獣人以外の種族の姿もちらほら見かける。


 そのほとんどが笑顔なあたりから推測すると、種族を越えての取引でもトラブルなくスムーズにやり取りできているようだ。これは精霊王の加護を受ける4種族の中では『最も穏やかで、和を重んじる火の民』と言われる獣人の居住区ならではの光景。


 だからこそ自分達が安心して街中を歩けてるんだろう、魚人族はともかく、エルフ族やドワーフ族の種族の自治区画じゃこうはいかないよな……と人間族の俺は思う。

 



 一般的には多種族が共存するル・カラジャ共和国を建国できたのも、温和な獣人達が『種族によって異なる様々な考え方』を上手く汲み取りまとめ上げたからであり、もし彼らが中心にいなければ、そもそもこの国が作られることは無かったとされているのだ。

 

 ちなみに他の種族の性格に関しては、魚人は『最もマイペースで、必要以上に他人に干渉しない水の民』、エルフは『最もプライドが高く、気高く生きることを望む風の民』、ドワーフは『最も頑固に自分を貫く、保守的な土の民』と言われる。


 ただしあくまでこれは種族全体としての傾向であり、どの種族にもは少なくないのだが。





「あ、あったあった!」


 手元の紙地図と辺りの様子を交互に見ながら進んでいたテオが、嬉しそうな声で立ち止まった。



 テオの目線の先にあるのは、周りに立ち並ぶ建築物と一見変わりなく見える、10階建てぐらいの大きな建物。

 建物の入口扉横の壁には、『ニルルク村』と書かれた歯車型のおしゃれな金属製看板がかかっている。



「ここって普通に中に入っていいのか?」

「そうみたい。じゃ早速、様子見がてら行ってみようぜっ!」

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