第109話「コべリの港と、大陸を結ぶ小船(5)」


 小さな港町・コベリを訪れた俺とテオは、水産加工所オーナーのマルガへ掛け合った結果、小型漁船に乗せてもらうことができたのだった。




 俺達が乗る船は、明るいうちに対岸の街の港へ到着。


 港周辺にはコベリの街と同じように石造りの建物がそこそこ並んではいるのだが、船から見える範囲に人の気配はほとんどなく、コベリ以上にさびれてしまっているようだ。


 マルガによれば、ここもコベリ同様いわゆる『港町――港を中心として発達した町――』で、かつては大陸を渡る旅人相手の商売で栄えていたものの、魔物の動きが活発になったせいで急速に街の過疎化が進んでいるらしい。






 俺とテオを陸へ降ろしてすぐ、1人船に残ったマルガが口を開く。


「……じゃアタイ、このままコベリに帰るよ」

「マルガ、ありがとねー」


 笑顔で礼を言うテオ。

 明るめの声で「ああ」と軽く受けるマルガ。



 続けて俺も感謝の言葉を述べる。


「ありがとうございました。帆船航行用魔導具の操作させてもらえたの、すごく良い経験になりました!」

「そうかい。初めて航行用魔導具を触ってみた感想は?」

「難しかったです……とにかくマルガさんに教えてもらった通り調整しようと頑張ってたら、何が何だか分からないうちに、あっという間に海峡を渡り終えてたような感じでして――」


 ぷっと吹き出すマルガ。


「そりゃそうだろ! 生まれた頃から船に乗ってたアタイだって、自信もって操れるようになるまでにゃ、修行に5年はかかってんだ。たった1時間ぽっちで分かってたまるかっての!」

「で、ですよねー。ははは……」


 俺が愛想笑いでごまかそうとしたところ、マルガの顔が少し真剣になった。


「……まぁでも……タクトの魔導具操作、初めてにしちゃなかなか悪くなかったよ」

「本当ですか」

「お世辞は嫌いな性分でね。だいたいよぉ、見込みねぇと思う奴に、アタイの大事な船の設備を1時間も触らせっぱなしにするわきゃねぇだろ?」

「ありがとうございます!」

「だからよぉ……もし、本気で一人前の船乗りになりたいってなら、タクトにだったら修行つけてやってもいいぜ?」

「えっ……?」


 いきなりの提案にポカンとする俺。



 マルガは照れくさそうに「って言ってんだろ!」と笑ってから、船を桟橋に止めている縄をほどき始めた。


「……じゃあ、アタイはそろそろ行くよ。またコベリで船に乗りたくなったら相談しな、アンタらなら喜んで乗せてってやるからさ」

「ぜひ!」

「またよろしくねー」


「まぁとにかく元気でやんな。この大陸の魔物が凶暴だってのはほんとだからよぉ……うっかりやられるなんて間抜けな真似、すんじゃねぇぞ!」



 そう言うやいなや、帆船航行用魔導具に「よっ!」と魔力をめるマルガ。

 魔石がほんのり緑に光ったかと思うと、風が起こって帆がふくらみ、ゆっくりと小型帆船が動き出す。


 マルガは「じゃあな!」と言い残し、再び海峡へと船を走らせていった。

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