第104話「スキル習得と、道中の雑談と」


 基本徒歩でニルルク村を目指す俺とテオは、メイン街道沿いの宿場町の宿屋に泊まったり、休憩や戦闘訓練などを挟んだりしながら、地道に毎日移動距離を稼ぐ。



 また訓練の一環として、俺は意欲的に新たなスキルを習得していった。


 俺が持つスキル【技能スキル習得心得】に、なんと『習得したいと思うスキルの習得成功確率が劇的にアップする』という凄い効果があると分かったことから、せっかくなら早めにその恩恵を受け、戦力アップや安全性向上を図りたいと考えたのだ。




 テオと相談し、出来る限り即戦力になりそうな――習得条件が易しい、習得後の練習が短時間で済む、汎用性が高い、など――スキルから優先して覚えていくことに。




 早めに習得したのは、1分間だけ速度2倍で移動できるスキル【加速LV1】。

 スキルLVが上がると持続時間が延びていく。


 移動時間を短縮したり、戦闘時に敵の攻撃を避けたり隙をついて攻撃したりなど、様々な場面で使い勝手がよいため、テオもしょっちゅう使用しているスキルだ。

 習得条件が『1分以上走り続けると、3%の確率で習得に成功』と手軽に実現しやすいことから習得を決めた。

 


 【加速】と同様、身体能力を瞬間的に上げられる『強化系スキル』も幾つか習得。

 発動するとそれぞれ、腕力を1分間強化できる【剛腕ごうわんLV1】、HP・MPを除く全ステータスを1分間強化できる【瞬発しゅんぱつLV1】、ジャンプ力を1分間強化できる【跳躍ちょうやくLV1】、視力を1分間アップできる【遠目とおめLV1】など。


 強化系は消費MPが多めなので乱用はできないが、いざという時には非常に便利なので、MPに余裕があればどんどん使ってスキルLVを上げておきたいところだ。




 他にも様々なスキルを習得した。


 逃走時、自動的に逃げ足が速くなるスキル【逃走LV1】。

 習得条件は『自分を追いかけてくる魔物・生き物などからの逃走に成功すると、3%の確率で習得に成功』と、【加速】を覚えていれば、かなり習得しやすいスキルとなっている。

 

 特定の種族の魔物に攻撃する際、習得していると自動的に攻撃力がアップする【ゴブリン殺しキラーLV1】【リザード殺しキラーLV1】【魔獣殺しキラーLV1】【魔鳥殺しキラーLV1】など、殺しキラー系スキル。

 『対象となる種族の魔物にとどめを刺すと、3%の確率で習得に成功』とこれまた対象の魔物に出会えさえすれば習得条件は簡単な上、覚えておいて損はないスキルということで、該当する魔物が襲ってきた際についでに習得しておいた。


 アイテム採集に便利なスキル【収集LV1】。

 手持ちの素材アイテムを指定して発動すると、10m以内に同じ名前のアイテムがあるかを判別できる。

 スキルLVが上がればもっと細かい判定ができ、素材収集がはかどるようになるので、これからアイテム製作を始めたい俺にとっては、必要になってくるスキルだと言えよう。





 なお、剣以外の武器に関するスキル――【槍術】【弓術】など――も多数、習得候補に入れてはいた。

 武器攻撃系のスキルは、『対象の武器を持ち、素振りなどでもよいので攻撃アクションを行うと、5%の確率で習得に成功』と比較的習得条件が易しく、また今後剣だけでは対応できない場面に遭遇した場合に役立つだろうという理由からだ。


 だがテオに武器を借りて習得しようとしたところ、なんと『勇者のつるぎ』が「捨てないで!」とでも言わんばかりに必死にぴょんぴょん跳ね妨害してきたのだ。

 俺は「あくまで非常用だから、メイン武器を剣以外に変えるつもりはないぞ!」等と言ったのだが、勇者のつるぎは首を縦に振ろうとせず……俺は結局、武器系スキルの習得を断念した。




 ただこのままでは遠距離系の物理攻撃手段が全く無いままになってしまうため、剣を必死に説得し、どうにか【投擲とうてき術LV1】の習得だけは認めてもらった。


 【投擲とうてき術】を習得していれば、物を投げるという事全般に魔力補正がかかり、命中しやすくなったり、敵に与えるダメージがアップしたりする。


 投げた物は回収しない限りもう一度使う事はできないが、道に落ちている石・失敗作の刃物など手で持てるアイテムなら何でも投げられるため、もしもの時に役立つ可能性が高いと思ったのだ。





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 出発から5日経った頃から、周りの景色が変わった。


 これまでは街道を囲むように背の高い木々が鬱蒼うっそうと茂っていることが多かったのだが、現在俺達が歩く街道両脇のほとんどは開拓済みの土地である。

 

 また蛇行しまくっていた街道も、直線的な道へと変わった。

 テオによれば、この辺りは魔力が多いエリア――魔物が生まれやすいエリア――や山のように、街道を作る際に避けたほうがよい土地がほとんど無いため、街道が真っすぐに作られている他、人々による開拓も盛んに行われているらしい。




「……このあたりは魔力が少ないから魔物には襲われにくいけど、人がいっぱい集まるから、そのぶん悪い奴も増えてきて、違う意味で危険な事に変わりないんだよね。たまに街道でも盗賊とか出てくるしさー」


 歩きながら説明するテオ。

 出発前の彼の言葉を思い出し、俺がたずねる。


「そういや野宿を避けてわざわざ宿に泊まるのは、主に盗賊対策って言ってたな?」

「うん。野営地は魔物が現れにくい土地に作られてるからそっちは心配しなくていいけど、他の旅人相手はどうしようもないからさー。いくら【隠密おんみつ】とかで対策しても、開けた野営地でテント見られちゃったら意味ないし」

「そうだよな……」




 ゲームでも、この辺りには盗賊が出現することが多かった。

 昼間はそうでもないのだが、夜になると人通りも減り、見晴らしも悪くなるためか、一定の確率で盗賊に襲われてしまう。

 盗賊の強さ自体は大したことがなく、また倒してしまっても問題がない。




 だが現実では、人を殺す事は基本的にタブーとされている。


 しかも防犯カメラなども無いため、相手から襲ってきたという証拠を残すのが難しいことから、に過ぎない自分達が盗賊を倒してしまうと、相手の盗賊の罪を立証するのも難しく、逆に自分達が『人殺し』というレッテルを貼られ罰せられる可能性もあるのだとか。


 そのため、よっぽどの権力者でもない限り、盗賊にはなるべく関わらないよう対策を取るのが最善。テオいわく「街道で万が一盗賊に出会ってしまったら、逃げ出すに限る!」というのが冒険者としての常識らしい。


 俺が真っ先にスキル【加速】【逃走】を習得したのは、もし盗賊に出会っても逃げ出せるように、という考えもあったからだ。




 それに盗賊は『人』である。


 確かに俺は、この世界リバースに来てから着々と腕を磨き、魔物を倒し続けてきた。

 だが対人戦と言えば、訓練としてテオと剣を交えたことがある程度。

 ゲームと同じように盗賊も斬れるかというと……はっきり言って自信は無い。



 いつかは対人戦にも備えなければならないだろう。

 でもできる事なら、そんな日が来ないでほしい。




 考えているうちに憂鬱な気分になってきた俺は、大きく溜息をつく。


「はぁ……」

「タクト、どうしたんだ?」

「考え事してたら、なんか頭痛くなってきてさ……思えばエイバスってとても平和な街だったんだな」


 テオは「だねー」と笑顔で答え、言葉を続ける。


「まぁエイバスはエイバスで色々あるけど、他の街に比べたら『純粋ないい人』ってのは、すご~く多い気がするかも」

「そういえばウォードさんも、赤の石窯亭でそんな事言ってたな……冒険者引退後にエイバスに住むことに決めたのは、エイバスの街の人があったかいからだって」

「わかるよなー、ほんとエイバスっていいとこだもんなー。俺も引退後、エイバスいいかもって思ってるし!」

「え、テオも?」

「うん。人によっちゃエイバスじゃ刺激が足りないみたいだけど、俺はああいう感じ好きだぜっ。食べ物もうまいし!」

「それもウォードさんが言ってた。確か……輸出入が盛んで各国の美味しい食べ物を手に入れやすいし、土壌が豊かだから近郊で色んな作物が作られてるんだっけか?」

「そう! エイバスの街やレーボリッヒ村の周辺の土地は、土の魔力が豊富で栄養いっぱいだから、特別な事を何もしなくても、水やるだけで野菜なんかがおいしく育つらしいぜっ!」

「へぇ凄いな。逆に土の魔力が薄い場所で作物を育てる時は、やっぱり肥料とかが結構必要になってくるのか?」

「肥料も場所によっては使ってるけど……それより【土魔術】で土壌を豊かにする術式を使うほうが一般的かなー」

「ああ……」



 そういえばそんな術式もゲームにあったな、と言われて初めて思い出す。


 ゲームでは使っても使わなくても、収穫できる作物は全て同じ名前・同じ品質だったため、使う意味が全く無い術式とされていた。

 俺自身も攻略サイトで読んで知っていただけで、実際に使ったことが無い術式だったのだ。




 だけど俺は、この世界にきてから、戦闘力を上げるのももちろん大事とはいえ、それと同じぐらい『衣食住』の重要性をひしひしと感じている。

 特に衣食住関連はゲームと現実との違いが大きく表れている分野で、ゲームの知識や経験が当てにならない場合が少なくない。


 ゲームでは「死にスキル!」「なんでこんなスキルがあるんだ?」と笑われていたスキルが、現実では非常に有用だったパターンもかなりある。


 このあたりも、余裕ができたら色々と検証していきたいところだな。

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