第87話「ダガルガからの、ギルド便」


 トヴェッテ冒険者ギルド応接室を出た俺とテオは、急いでホール窓口の職員に声をかけた。

 テオ宛のギルド便があるかどうか確認したところ、ネレディの情報通り、エイバス冒険者ギルドのギルドマスター・ダガルガからの手紙が1通届いていたのだった。




 手紙の差出日は8日前。


 一刻でも早く内容を確認したかった俺達は、ホールの片隅に設置された椅子席に陣取り、そこで開封することに。

 昼過ぎのためホール全体も椅子席もがらんとしており、他の冒険者達に中身を見られる心配は無いだろうと考えたのだ。


 テオがペーパーナイフで封筒を開け、広げた茶色い便箋を2人無言でのぞきこむと、そこにはダガルガらしい豪快な文字がびっしりと並んでいた。



 

 書いてあった内容をざっくりまとめると。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

●『小鬼こおに洞穴ほらあな』確認作業および魔物の残党殲滅は完了。ダンジョンボスが復活したり、新たに魔物が湧き出したり等はこの1ヶ月には全く起きておらず、ほぼダンジョン出現前の状態へと戻ったこと。


●エイバス冒険者ギルドから、人々へ『小鬼の洞穴の安全宣言』を発表し、街は歓喜に沸いていること。


●同時に世界中の冒険者ギルドへ向け、安全宣言を出したと報告。ギルド便が届くまでの必要時間が各ギルド毎に違うため、地域によってタイミング差はあるものの、報告が届いたギルドから順に情報を公表していくだろうということ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 ゲームでは、ダンジョンが浄化され元の安全な場所へと戻ると、そこを管轄している冒険者ギルド――小鬼の洞穴の場合は、エイバス冒険者ギルドが管轄――から人々へ『安全宣言』が発表される。

 さらに安全宣言後に少し時間をおいてから訪れると、ダンジョンだった場所が、徐々にかつての活気を取り戻していく様子も見ることができるようになるのだ。


 俺はかつてゲームで、エイバスの街に『小鬼の洞穴 安全宣言』が発表された瞬間に立ち会ったことがある。あの時は街中、特に職人街を中心にお祭りのような騒ぎになっていて、あちこちで皆が喜び合う姿が見られた。


 きっと現実のエイバスもあんな風に歓喜に沸いていたことだろう。




「……よかったな」


 便箋をじっと見つめながら、テオがつぶやいた。

 俺も「ああ」と答え、そしてエイバスへと思いを馳せる。





「私も座っていいかしら?」


 ふいに声をかけられ、俺とテオが顔を上げた。

 そこにいたのは、先程まで一緒だったネレディ。



「はい、大丈夫です」

「ありがと。じゃ、お邪魔するわね!」


 俺が答えると、ネレディは空いた椅子へと腰かけた。

 すぐにテオがたずねる。


「ネレディ、どうしたんだよ?」

「たまたまホールをのぞいたら、あなた達の姿が見えたの。それより今読んでた手紙、ダガルガからだったんでしょ?」

「はい」

「どうだった?」



 顔を見合わせニヤッとする俺とテオ。



「……たぶん、ネレディさんの想像通りの内容かと!」

「俺もそうだと思うぜ!」


 ネレディも「でしょうね!」と笑顔になり、言葉を続ける。


「小鬼の洞穴の件については、トヴェッテでも公表する準備を進めているわ。今の感じだと明日の朝刊にも載りそうだから、大半の人はそれで知るんじゃないかしら。おそらく他の地域のギルドでも報告が届き次第、同じように公表していくはずよ」

「3年前に各地の魔物が狂暴化し始めてから安全宣言が出されるのって、世界でも今回が初めてだからさー、特に西の……魔王の力が強いエリアの人々にとっちゃ、すっごい希望になるよな!」

「ええ、そうでしょうね。数日後にはフルーユ湖の安全宣言も予定してるし、間違いなく世界中が騒ぎになるわよ!」


 嬉々として語り合う2人。



 テオもネレディもお互いに、色々と思うところはあるのだろう。

 だけど目の前の彼らの明るい笑顔には、嘘があるように見えなくて……本当に心から喜んでいるような気がしたのだ。


 改めて思う。

 色々大変だったけど、頑張って本当に良かったと。





 話のきりがよいところで、ネレディが立ち上がる。


「さて、そろそろ私は仕事に戻らなきゃ。2人はこれからどうするの?」

「トヴェッテでの用事も済みましたし、明日の朝には出発する予定です」

「あらそう。明日は色々バタバタしそうで見送りにはいけないけれど、タクトもテオも気をつけていってらっしゃいね。ちなみに次の目的地は?」

「少し寄り道してから、ニルルク村方面に行こうかと思ってます」


 嬉しそうに「まぁ!」と声を上げるネレディ。


「ニルルク村ならムトトが住んでるはずよね……テオ、もしムトトに会ったら、よろしく伝えておいて!」

「OK!」


 ネレディは自分の仕事へと戻っていった。

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