第48話「トヴェッテ王国、名所巡り(2)」
昼前にトヴェッテ王国の王都に到着し、そのまま観光を楽しむことにした俺とテオ。見晴らしの良い屋上から街中を一望した後は、大通り沿いをぶらぶら歩く。
途中で泊まる宿を決めて予約したり、ワゴンで名物っぽいサンドウィッチ――硬めのパンに薄手ハムやチーズや特産野菜を彩りよく綺麗に挟んであって、もちろん味もおいしかった――を買って食べ歩いたりしつつ、次に向かったのは王都の中心にあるトヴェッテ城。
トヴェッテ城は、空へと向かって立ち並ぶ様々な高さの尖塔や、華美な装飾が施された白壁が目を引く、とても広々とした城である。
城の周りを囲むのは幅にして数十mはありそうな水堀。
その水面には、トヴェッテ城の優雅な
トヴェッテの王やその家族が住まい、政治の主要機関が全て詰まっているトヴェッテ城へは、一般人の立ち入りが許可されていない。
だが中へ入ることが出来ずとも、少し離れたところから城の外観を眺めるだけで十分楽しめるため、城周辺は人気の観光スポットなのだ。
基本的に非対称な構造をしているトヴェッテ城は、角度を変えると全く違う表情を見せる。
俺とテオも他の観光客達に交じり、水堀の周りをゆっくりぐるっと1周しながら美しい城を眺めるのだった。
続いての目的地へと向かう道中、国で1番の商業区を通った。
この区域には武器や防具や生活雑貨などを買えるショップから、不動産屋や飲食店まで、ありとあらゆる様々な店が軒を連ねている。
目についた店を片っ端からのぞいた中で、特に俺が気になったのは雨具の専門店。
小さな店ながら、防水加工が施された防具から、雨を避けるためのバリアを展開するための高価な魔導具まで、雨が多いトヴェッテならではの品揃えはさすがだった。
店内を隅から隅まで見た俺は、レイクリザード――水辺によく出現する、青っぽいトカゲ型の魔物――のドロップ品『レイクリザードの皮』を表面に薄く使用した黒い防水ブーツ『レイクリザードのレザーブーツ』を購入し、その場で履き替えた。
ずっと手入れをしつつ履き続けている『革のブーツ』がかなり傷んできたため、近い内に新しい靴を買わないとな……と思っていたところだったのだ。
また店内では、持ち込み防具に防水加工を施してくれるサービスも。
料金を確認したところ、手持ちで十分払える金額だったため、愛用のマントに【防水加工LV3】をかけてもらう。
マントとブーツに防水加工がついたってことは、多少の雨なら安心して歩けるな!
本当は武器屋等もじっくり見たかったけど、また改めて時間をかけて見たほうが良いだろうと今日のところはスルー。
テオに勧められ、商業区の名物である『美術館』へと入ってみる。
ここのオーナーは1代で財を築いた大金持ちであり、隠居後に「好きで収集した美術品を、世間の皆に見てほしいから」という理由で、趣味で美術館を開いたという。
かつてはオーナー自身の自宅だったという美術館は、建物自体も芸術作品と言っても過言ではないぐらい、見応えのある造りであった。
館内には多数の彫刻や絵画が余裕を持って飾り付けられ、そして高い天井にも芸術的な絵が描かれていて、思わず俺もテオもじっくり見入っていた。
ちなみにこの美術館では、随時美術品の買取も行っている。
その場には必ずオーナー自身が立ち合い、買い取るかどうか最終決定するのだ。
ほとんどは買取を断られてしまうのだが、もしオーナーの御眼鏡に適った場合は高額で買い取り、かつ美術館内で作家の名前を出して展示してくれるため、若き美術家達の登竜門となっている。
これはゲームでも同様で、生産系スキルで作った
最も、プレイヤーの中ではかなり少数派ではあるようだが。
美術館から出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
腰に付けた銀時計をチラッと見、時間を確認してからテオが言う。
「タクト、もう1つだけ行きたいとこがあるんだけどいいかな?」
「ああ。どこに行きたいんだ?」
俺がたずねると、テオは「着いてからのお楽しみだよ!」と笑って答えた。
**************************************
「なぁここって――」
「そう! 塀の屋上への入口だぜっ!」
テオが俺を連れてきたのは、国を囲む塀沿いにある小さな建物。
「ここ、さっきも来たばっかだよな?」
「いいからいいから♪」
渋る俺だったが、先にテオが係員に入場料を払って階段のほうへと行ってしまったため、仕方なく自分も料金を払い後に続く。「まったく、1日2回も上ってどうすんだよ……」と愚痴りつつも、先程と同じ長い長い階段を上って塀の屋上に到着。
屋上の一般解放終了時刻直前ということもあり、昼間と違って観光客は俺とテオの2人だけだった。
先に屋上に着いていたテオは、既に柵の前に立って街並みを眺めていた。
俺が声をかけると、テオは嬉しそうに「こっちこっち!」と手招き。
溜息をついてテオの元へと向かう俺だったが……。
「……!」
柵越しに見えるのは、息をのむほど美しい夜景。
真っすぐ伸びる道路沿いに灯された街灯。
整然と立ち並ぶ建物の窓から漏れる明かり。
そして、控えめにライトアップされた城。
火の魔導具の暖かい明かりと、街並みとが作り出すその光景には、確かにもう1度上って眺めるだけの価値があったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます