第40話「ダガルガの話は、基本長いようだ」


「そんで挑戦者の男共をバッタバッタなぎ倒してくウォードの前に、とうとう最後の挑戦者が現れてぇッ! ……えぇと……おいテオ、最後は何人目だったか?」

「挑戦者は全部で31人だったって、さっき聞いたよー」

「そうだった! あの最後の戦いはホントに凄かったんだぜ!!」



 冒険者ギルドのギルドマスター執務室にて依頼クエスト達成報酬の受け渡しの最中、ひょんな事からウォードとステファニーが夫婦であることが判明。

 とはいえダガルガはもちろん、テオも夫婦であることだけは元々知っていたため、この場で初めて知ったのは俺だけであったのだが。




 それから何故かダガルガによる2人の馴れ初め話が始まった。


 時々補足を入れるテオ。

 照れながら聞いているウォードとステファニー。


 そして貼り付けたような笑顔でひたすら相槌を打ち続ける、何とも言えない複雑な気持ちの俺。





 ダガルガによると。



 元々冒険者として活動していたウォードは、一方的にエイバス冒険者ギルドの窓口担当職員であるステファニーを知っていたものの、ステファニーにとって彼は『ギルドを訪れる多数の冒険者の中の、目立たない1人』でしかなかった。



 5年前、冒険者を引退したウォードがエイバスへ定住。

 その後ギルドマスターに就任したダガルガの紹介で、ウォードとステファニーは初めて窓口の外で会話することとなる。

 色々とあって「結婚しよう!」という流れになったのだが……誰に対しても分け隔てなく物腰柔らかく接する上に美人なステファニーには、実は隠れファンがたくさんいたのだ。



 結婚の約束を聞きつけたファンの1人が、ウォードへ決闘を申し込んだのを皮切りに、我も我もと決闘挑戦者が名乗りを上げ、気づけば相手は31名。

 それこそ屈強そうな冒険者から、普段は武器とは縁がなさそうな近所の住民まで様々な男達が押し寄せてきた。


 ウォードは少し渋っていたものの断り切れず、やむなく決闘を承諾。

 あまりにも騒ぎが大きくなってしまったため、決闘は街を治める領主が仕切ることとなった。





 そして後日。

 エイバスで最も開けた場所であるエイバス中央広場に即席で会場が作られた。


 開始前から大勢の観客で賑わった中央広場。

 まずは領主の挨拶に始まり、前座として有志によるパフォーマンスが行われる。




 そして何といっても観客が楽しみにしていたのは、メインイベントである決闘だ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

●31名の挑戦者が1人ずつ、申し込み順にウォードと決闘

●1戦ごとに休憩を設ける

●主催が用意した『刃を潰した武器』を使用

●試合中に武器の交換は不可

●試合中の魔術禁止

●試合中は第三者の介入禁止

●どちらかが降伏するか、戦闘不能になった段階で決闘終了

●相手を死亡させてはいけない

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ……などと細かくルールを決め、かつ回復魔術の専門家らを待機させた状態で行われたこの決闘。

 元凄腕冒険者な槍使い・ウォードの前に、ほとんどの挑戦者があっけなく敗れ去っていく中、紛れ込んでいた4名の強者との戦いは接戦となった。




 とりわけ観客が盛り上がったのは、最後の挑戦者である斧使いとの一戦だろう。



 相手と一定の距離を取りつつ素早く槍であしらったり突いたり薙ぎ払ったりといった、そこそこのパワーとスピードある手数で攻めるのが得意なウォード。


 対して、大きめの斧での重い攻撃を放つ相手の斧使い。

 動き自体は決して早くないが、斧でのガードも上手い彼は、ウォードの攻撃を一切受け付けず。


 ダメージを受けないのはウォードも一緒だったため、お互い激しい攻撃を繰り出し続けているのにも関わらず、なかなか勝負がつかずにいた。




 熾烈しれつを極めた戦いを制したのはウォード。



 使い手に気付かれぬよう、隙を見ては斧の木製のの一部分にダメージを与え続け、相手の斧を壊したのだ。


 さすがに武器を壊され、ルール上代わりの武器も認められていない状況では打つ手も無かった斧使いは、潔く負けを認めた。





 敗れた男達はそれ以上2人の結婚に反対もできず、見事に勝利を掴んだウォードは一躍“時の人”になったのだという。




 なお決闘会場近くに立ち並ぶ屋台や店を始め、主催者側で行った勝利者予想の賭けなども大盛況だったため、「毎年この時期に決闘大会を含めた祭りを開催しよう!」という案も出ていたらしい。

 ただ水面下で準備を進めている間に魔王が襲来してしまったため、世界が平和を取り戻すまでは……と開催を保留しているのだそうだ。





 その後、ステファニーがなかなか戻ってこないのにしびれを切らした別の職員が、ギルドマスター執務室へ状況を確認しに来るまで、ダガルガの話は延々と続いたのだった。

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