第39話「ステファニーと、依頼達成報酬」


 小鬼こおに洞穴ほらあなの10階層での休息中、テオやウォードやダガルガへ、俺は色々と質問をした。

 先のボス戦での3人の息の合った連携に、感じることが多かったのだ。

 

 そのためエイバスへと戻る道中は、主に俺の剣術訓練がメインとなった。

 魔物に出くわした場合は、俺が1人で剣を使って戦う。戦闘の前後では、ダガルガやウォードがメインとなり立ち回りについて教えてくれた。


 来た時と同じく最短ルートを通ったこともあり、戦いの回数自体はそこまで多くなかったものの、長年戦い続けてきた冒険者達からアドバイスを受けての戦闘は、俺にとって貴重な経験となった。






 途中テントで1泊し、エイバスへと戻ってきたのは翌日の昼過ぎ。



 道すがら休憩を何度か挟んでおり、疲れはそれほどでもなかった俺達。

 真っすぐ冒険者ギルドへ向かい、魔物からのドロップ品の換金や、依頼クエスト達成の手続きを行う。


 ドロップ品の換金こそ窓口で行ったが、依頼クエスト――小鬼の洞穴ボスであるゴブリンリーダーを討伐し、かつダンジョンを浄化――に関しては一般冒険者へ知られたくない内容も含まれていたため、ギルドマスター執務室で手続きを行うことにした。





**************************************





 執務室内の応接スペースにある大きなソファに揃ったのは、ダンジョン踏破メンバーである俺・テオ・ウォード・ダガルガと、ギルド職員のステファニー。

 ステファニーからの質問に答えつつ、4人でボス討伐の様子などを説明していく。


 あらかた説明が終わったところで、ステファニーは納得したように書類へ書き込む手を止めた。


「……ありがとうございます。おかげさまで状況は大体つかめました。皆様のおっしゃる通り、本当にダンジョンが浄化されたのかを確かめる必要がありそうですね……浄化に成功していたとしても、どのみち魔物の残党を全滅させない限りは安全宣言は出せませんし、そちらも兼ね、信用できそうな冒険者を募集することにいたしましょう。確認作業に関する諸々の手配は、エイバス冒険者ギルドが責任をもって行います。そして今回の依頼クエスト達成報酬ですが…………こちらにお約束通り2000リドカ入っておりますので、お確かめください」


 ステファニーは腰に付けた魔法鞄マジカルバッグから小さな革袋を取り出し、俺へと手渡した。



「……はい。2000リドカ、確かに」



 革袋に入っていたのは100リドカ金貨が20枚。


 市場に流通している硬貨は基本的には世界共通で、『1リドカ銅貨』『10リドカ銀貨』『100リドカ金貨』の3通りのみ。また紙幣という物が知られていないため、100リドカ金貨が最高額の貨幣となる。





 ここで俺には、念の為に確認しておきたいことがいくつかあった。


「あのステファニーさん、浄化できたかどうかはこれから確認するのに、先に報酬を受け取ってしまって大丈夫なんですか?」

「ご心配なく。ギルドの1職員としては確認作業が必要としか言えませんが……私個人としては、間違いなく浄化できたと信じています」


「え?」


「だって……タクトさんは、本物の勇者様なんですから!」

「!!」



 突然の不意打ち笑顔に、思わず俺は息を呑む。


 他の誰でもない、俺だけに真っすぐ向けられたステファニーの笑顔は、それほどまでにまぶしかった。

 





 ずっと横で聞いていたテオが、冗談めかして言った。


「万が一浄化に失敗しちゃってたら、また改めて俺達が浄化しに行くよっ。そん時は追加報酬なんかいらないからさ! な、タクト?」

「……もちろんだ!」

「うふふ、ぜひよろしくお願いしますね!」


 可愛らしく笑うステファニー。


「まっ俺も絶対大丈夫だと思ってるけどよォ……立場上、表立っちゃ言えねぇんだな、これが! ガハハハハ!」



 ダガルガの豪快な笑い声で、俺はもうひとつの確認事項を思い出す。



「……ウォードさん。この依頼クエスト報酬、本当に俺達2人が全額もらっていいんですか?」

「ああ、いらねぇって言ったろ?」


 即答するウォード。



 出発前に依頼クエスト達成報酬の取り分について話した際、ウォードとダガルガは報酬の受け取りを辞退していたのだ。


 しかし今回の討伐は2人の力があってこそ実現したと俺は強く思っている。


 ダガルガの「ダンジョンの被害を押さえるのも冒険者ギルドの仕事だからな。依頼報酬とは別に、討伐期間中もちゃんと給料貰ってっから気にすんなよ!」という理由はともかく。

 普通に守衛の仕事を休んで討伐に参加してくれたウォードの申し出を、俺はすんなり受け入れることができなかった。




「でも、ウォードさん達のおかげで討伐できたようなもんですし――」

「くどいぞ」


 苦笑いしつつウォードが言うが、まだ納得できていない俺は言葉を荒げる。


「それにウォードさんは、今回のためにわざわざお仕事休んでるじゃないですか! なのに俺達だけで受け取るなんてできませんよ!」



 ウォードは大きく溜息をついてから喋り出す。



「……あのな、俺だって冒険者時代はそこそこ稼いでたし、今の守衛の仕事だって給料も悪くねぇから、ちっとばかし仕事休んで給料減ったぐれぇじゃ困んねぇよ! それにな……おめぇは勇者で、これから魔王倒しにはるばる西の果ての魔王城まで行ってくれるんだろ?」

「はい、そのつもりです」

「だったら旅先じゃ、装備やら食料やら色んなもんを調達しなきゃなんねぇし、お金はいくらあっても困んねぇはずだ。俺からの餞別せんべつだとでも思って気持ちよく受け取ってくれや。本当は俺で力になれる所ぐらいまでは一緒に付いていってやりたいとこだがな……あいにく、このエイバスの街に……守ってやりたい奴がいるからよ」


 ウォードはそう言いつつ、隣に座るステファニーへと優しそうな目線を向ける。

 一瞬2人の目が合ったかと思うと……照れくさそうに慌てて顔を背けた。



「…………」


 顔を赤らめているウォードとステファニーに、色々と察した俺。




 こののやり場を探すためにも、はっきりと聞いておくことにした。




「……あの失礼ですが、お2人は……」




 再び目を合わせるウォードとステファニー。

 フフッと笑いあうと、同時に質問に答えた。




「夫婦だよ」

「夫婦です」




「そ……そうだったんですね……」



 思わず、お似合いの2人だと感じてしまう。

 まだ傷が浅いうちで良かったと、無理やり割り切ったのだった。

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