第35話「歴戦の猛者の、戦い方」


 テオ、ウォード、ダガルガと俺は貸馬屋でレンタルした馬に乗り、ダンジョンがあるカルネざんふもとを目指す。


 俺にとって初めての乗馬ではあったが、他の3人が色々と教えてくれた上、しかも温厚な馬の上手いフォローがあったため、数十分もすると落ち着いて乗りこなせるようになった。




 およそ2時間後には、目的地へ到着。

 馬を降り貸馬屋で教わった通り合図を出すと、馬達は来た道を駆け戻っていった。


 騎乗者もいない4頭が、綺麗に隊列を組んで帰っていくさまは凄かった。

 その堂々と駆ける後ろ姿を見つめていると、テオが声をかける。


「そっか、タクトは貸馬屋使ったの初めてだもんなっ」

「ああ。確かあの馬達、自分で店に戻る訓練を受けてるんだっけか?」

「そーらしいね」



 貸馬屋の店員からは出発前に『馬達はレンタル時間が過ぎるかもしくは合図を出されるかすると、自ら店に戻るよう訓練されている』との説明があった。

 これはゲームでも同じ設定だった。



「脇目もふらずあんなに規則正しく帰っていくなんて、いったいどんな訓練してるんだろうな?」


 俺の疑問に、首をかしげながらテオが答える。


「ん~……俺もよく知らないんだよね……訓練方法は各街の貸馬屋によっても違ってて、それぞれ代々受け継がれてる企業秘密らしいとか、特殊な魔導具を使ってるらしいみたいな噂は聞いたことあるけどさっ」

「へぇ、そうなんだ」


 一般に知られていたら、色々と悪用されてしまいそうな技術。

 秘密にされるのも無理はないかもな。





**************************************





 早めのお昼も兼ねて軽く休憩をとってから、俺達4人は小鬼こおに洞穴ほらあなの中へと入って行く。


 先日2人で潜った際と変わらず、ところどころ苔むした石造りの通路は少し肌寒く、湿った土のようなにおいがする。

 そして通路を暖かな色合いの光で照らしているのは、壁の高いところに等間隔に取り付けられた火の魔導具。



 ただ前回――俺の戦闘訓練も兼ね、様子を見つつ歩を進めていた――と違ってあくまでボス討伐のみが目的のため、ギルド公開のダンジョン地図を時々確認しつつ最短距離で最下層を目指す。


 途中で俺がLVアップしてしまわないよう、道中出会った魔物は他の3名が……というより先頭を歩くダガルガが、ほぼ瞬殺でほうむり去っていた。

 俺達はダガルガの邪魔にならぬよう少し離れて後をついていく。




 ゴブリン達を見つけると、その中心に笑顔で突っ込み、重そうな大剣をビュンッと豪快に振り回しては一掃していくダガルガ。

 その姿は、かつてゲームで見た戦闘時の彼そのものだった。



 だけどよくよく見ると、ただ力強いだけじゃない。


 狭い通路であってもその刃は壁や床に当たることはなく、敵を最速で殲滅せんめつするのに最適な太刀筋で斬りかかっている。

 大振りアクションに見えるが、戦闘における動きは最低限であり、連続でのバトルにも疲れた様子が一切ない。


 まさに、場数を踏んだ強者の戦い方と言えるだろう。




 自ら剣を取って戦うようになった今だからこそ、彼の凄さをひしひしと感じるようになった俺。今後の戦闘の参考にすべく、ダガルガの一挙手一投足をしっかりとその目に焼き付けたのだった。

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