第21話「初ダンジョン・小鬼の洞穴、2日目(2)」


 小鬼こおに洞穴ほらあな5階層を探索していた俺とテオは、6階層へと続く階段を発見した。



 この6階層からは、5階層までと出現する魔物の種類が変わる。


 5階層までは、棍棒こんぼうゴブリン――棍棒を装備した普通ゴブリン――、やりゴブリン――槍を装備した普通ゴブリン――といったような、近接で戦う魔物ゴブリンしか出てこない。


 だけど6階層からはそれに加えて、弓ゴブリン――短弓ショートボウを装備した普通ゴブリン――が出現する。


 森での戦闘も合わせ、俺にはまだ遠距離攻撃の魔物との実戦経験が無い。

 とはいえゲーム中の弓ゴブリンの動きを思い出しての脳内シミュレーションだけは何度も何度も重ねてきたし、万が一があってもテオがしっかりフォローしてくれるはずとのことなので心配の必要はないと思うけど。




 自分を中心にして半径50m以内に生き物や魔物がいるかどうか何となく分かる【気配察知LV1】スキルが常時発動しているのを確認してから、俺とテオは6階層へと階段を下り、石造りの通路を進んでいく。


 ちなみに弓ゴブリンの射程距離は、およそ20m。

 成人男性の半分程度の背丈しか無いゴブリンは非常に非力だ。さらに使っている弓や矢もコンパクトサイズなので、その飛距離は短く、威力も小さめとなる。


 小鬼の洞穴はその大半がやや入り組んだ道幅3~10m程の道であり、直線部分はあっても15m程度。

 よって【気配察知】で存在をとらえてから武器を構えたとしても、十分対処できるだろうと俺達は踏んでいた。





**************************************





 しばらく経った頃、【気配察知】にピコンッと何かが引っかかった。

 「あっ」とつぶやき立ち止まる俺。合わせて止まるテオ。



「テオ、左方向50mに魔物4体」

「ん~……棍棒ゴブリン2体、槍ゴブリンが1体……あ、弓ゴブリンも1体いるね」




 俺の【気配察知LV1】スキルで察知できるのはあくまで“何となく”であり、スキルLVを上げない限りそれ以上の情報は分からない。

 そのため基本、俺がスキルで何となく察知してから、テオがその音を聞いて魔物の種類などを判別するという連携をとっていた。


 もちろんテオ1人でもスキルを使えば可能なのだが、俺の練習も兼ね、今回はこのような形で動くことに決めたのだ。




「……こいつら移動早いな」

「うん、こっちに気付いて走ってきてるみたい……来るよ、タクト」

「おう」


 小声の早口でサッと会話し、素早く武器を構えた。


 剣&盾装備の俺が前列、鞭装備のテオが後列という恒例の隊列フォーメーションにて、10mほど先の曲がり角に注意を向けて待つ。





 数秒後。


 まず弓ゴブリンが姿を見せ、同時に俺目掛けてシュッと矢が飛んでくるが、事前に分かっていれば何とかなる。素早く右に避け矢をかわしきった。


 俺が矢に気をとられた一瞬を狙い襲い掛かってきたのは残りの近接装備ゴブリン。

 ジャンプで同時に殴りかかってきた2体の棍棒ゴブリンのうち、1体の攻撃は盾で受け流して地面へ転ばせつつ、もう1体の攻撃を素早くかわしその背中へ剣を叩き込む。バッサリ斬られた棍棒ゴブリンは悲鳴を上げて絶命し、粒子へと変わり消えた。



 だが低めの位置から時間差で一直線に突っ込んできていた槍ゴブリンへの反応がちょっと遅れた。必死に右足を上げて避け、やや不格好ではあるものの何とか突きをかわし、さっき倒した奴と同じく背後から斬りつけ消滅させる。



 その瞬間、俺の背中・左側上部にが走った。



「イテッ」


 思わず短く叫び、のけぞってしまう。


 すかさず横目で確認すると、どうやら矢が自分に当たった模様。

 しかしちょうどそこが、装備している『革の軽装鎧』だったためか、矢は刺さることなく地面へカランと落ちた。



 動きこそ一瞬止まった俺だったが、ダメージ自体はほぼ無かったこともあり、咄嗟とっさに弓ゴブリンの方をキッとにらんで走り出した。


 曲がり角にいた弓ゴブリンは、急に走り込んできた俺に驚いたらしい。

 慌ててさらに弓をるものの、どう見ても構えがブレブレだ。俺に照準をうまく合わせられなかったらしく、矢は明後日あさっての方向へと飛んでいく。


 矢を放った瞬間の隙を狙って、弓ゴブリンを斜め正面から剣で斬った。即座に振り返り、俺を追って飛び掛かかってきていた棍棒ゴブリン――先程転んでいたゴブリン――にも思いっきり斬りつける。

 これがとどめとなり、残っていた2体は同時に粒子へと変わり消え去った。



 襲ってきたゴブリン全てがドロップ品を残し消滅したのをしっかり確認し、張り詰めていた緊張がやっと解ける。 





「おつかれさん!」


 いつの間にか背後に来ていたテオ。

 爽やかな笑顔が少しむかつく。


「テオ……1体ぐらい手伝ってくれてもいいんだぞ?」

「だいじょぶだいじょぶ、タクトならまだ全然余裕だって」

「いやいや、ギリギリだったし――」

「何言ってんの? あんな低レベルゴブリンなんかにダメージ受けるわけないじゃん、タクトの今のステータスならさっ」

「え?」

「タクトはとにかく1度、自分のステータス見てみな!」

「お、おぅ……」


 ぴんと来ないながらも言われるがまま、いったん【偽装】を解除してからステータスウィンドウを開いてみる。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・

名前 タクト・テルハラ

種族 人間

称号 勇者、世界を渡りし者、神の加護を受けし者

状態 健康

LV 7→11


 ■基本能力■

HP/最大HP 124/39→62+62

MP/最大MP  74/27→37+37

物理攻撃 24→36+46

物理防御  9→12+34

魔術攻撃 16→29+29

魔術防御  8→11+26


 ■スキル■

光魔術LV1、剣術LV1、能力値倍化LV5★、収納アイテムボックスLV1、技能スキル習得心得LV1、鑑定LV1、神の助言LV1、言語自動翻訳LV1、攻略サイトLV1、偽装LV1、防御LV1、気配察知LV1


 ■装備■

手作りの片手剣(物理攻撃+10)、ミスリルバックラー(物理&魔術防御力+15)、革の軽装鎧(物理防御力+7)、布の服、革のブーツ、ある旅人のマント

・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「……あ」


 想定外の数値。

 テオが笑顔で補足を入れてくるる。


「ていうかこのステータスって、普通の剣士のLV20強と同じぐらいの能力値じゃん? 小鬼の洞穴に出てくるゴブリン達はLV4以下の雑魚ざこばっかなのにさ……むしろどうやったら、あいつらがタクトにダメージ与えられるんだよっ!」

「……」



 先日の鍛錬の合間にテオにそれとなく確認してみたところ、この世界リバースにおけるステータスの『基本能力の数値』とは、ゲームと同様、その個人の「本来の肉体能力の数値」に「どれだけ魔力の補正がかかるかという数値」を加えたものであるとのこと。

 見た目だけではその数値を判断できず、か弱そうな小さい子供が凄く高い攻撃力や防御力を持つといったようなパターンも少なくない。


 だから例えば物理攻撃への防御能力の場合、本来の肉体の防御力に加え、「魔力で出来た、物理攻撃を防ぐシールド」が常時全身に張られている状態。

 この状態を数値化したのが、ステータスにおける『物理防御』というわけだ。


 そしてあまりにもLV差や能力差がある場合、そもそも魔力のシールドに傷すらつけられないことがある。その場合、さっきの弓ゴブリンから俺への攻撃のようにダメージ量は0となってしまうのだ。





「……原因は、【能力値倍化LV5★】スキルか……」



 称号『世界を渡りし者』にて解放されるスキル【能力値倍化LV5★】は、常時全ての能力値が2倍になる効果を持つ。LVが上がり素の能力値が高くなればなるほど恩恵が大きくなるスキルだと言っていいだろう。


 ようやく納得した俺は、これなら想像以上に安全な旅ができるんじゃないかと希望を持ったのだった。

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