第12話「ウォードと、赤の石窯亭」
エイバスの街へ戻った俺とテオは、まず冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの次のピークである夕方には早い時間ということもあって、ギルドの中はかなり空いていた。
テオを待合スペースで待たせておき、俺1人でカウンター窓口に並んで待つ。
「お待たせいたしました。ご用件は何でしょうか?」
順番が回って来た時、カウンター業務を担当していたのは午前中と同じ女性職員。
「ドロップ品の鑑定をお願いします」
「では換金希望のアイテムをお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
【
女性職員はアイテムを鑑定しながら、手早く買取希望価格を算出していく。
「『鉄鉱石』の小が56個、中が8個。『石炭』の小が21個。あとは『古びた
提示されたリストがこちら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■買取希望金額一覧■
鉄鉱石・小 1
鉄鉱石・中 2
石炭・小 2
古びた
合計:1314
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
事前に【鑑定】スキルで確かめておいた売却目安価格の通りの買取金額。
文句など付けようもない。
「……はい、問題ないです」
「ではこちらのリストへサインをお願いします」
リストの受領欄に署名し、ずしりと重い代金を受け取ってからテオの所へ戻る。
テオは待合スペースのいつもの席で、本を読みながら待っていた。
「終わった?」
「ああ」
「初めての換金は、どうだったかい?」
「改めて……ウォードさんに感謝せねばと思ったよ……」
「だよねぇ」
俺の言葉にうんうんと頷きまくるテオ。
ウォードが倒した
**************************************
その夜。
用事があるというテオといったん別れた俺は、約束通りウォードと合流し、彼行きつけの酒場へ向かう。
昔ながらの繁華街の、飲食店が立ち並ぶ一角にある『赤の石窯亭』。
そこは、窓から暖かな光と賑やかな声が漏れ出す、小さな煉瓦作りの建物だった。
入口の扉を開けたウォードは混雑した店内の中を見渡すと、店員に一声かけつつ空いているテーブル席の1つを陣取り、笑顔で俺を手招きする。
「ほらタクト、あれ見てみろよ」
ウォードが親指で指したのは店員が忙しそうに料理を作っている厨房。
その中央には、赤っぽい煉瓦で作られた立派な石窯型の魔導具が置かれていた。
「店名にもなってる、あの石窯で焼き上げた料理がたまんねぇんだ。ここのは肉も魚も野菜も全部安くてうめぇし、どれ頼んでもハズレねぇから安心しろよ。ま、1番の名物は何といってもピッツァだと思うぜ!」
「そういえば、お客さんは皆ピッツァを頼んでますね」
「だろ? ここに来たら、やっぱアレは食わねぇとな!」
ウォードが大声でいくつか注文するとすぐ、陽気っぽい店員が木製ジョッキに入ったビールと小皿料理を運んできた。
まずはビールで乾杯し小皿のピクルスをつまむ。
少し
オリーブやキュウリ等のピクルスは旨みも塩気も強くて、いかにもビールが進みそうな味付けだ。
キンキンに冷えた日本のビールに慣れた舌には最初少し違和感があった。
だけどグビグビ喉を鳴らしてビールを飲み進めるウォードにつられて俺も一口二口と飲んでいくうち、これはこれで美味いかもと思えるようになってきた。
「……エイバス近郊は1年を通して温暖で過ごしやすい気候で、土壌も豊かだから農作物を作るにゃ凄くおあつらえ向きな土地ってわけだ」
「確かにこの野菜、どれもおいしいですね」
「野菜だけじゃねぇぞ。海に面してるから魚介類もよく捕れるし、税金も安いから船での輸出や輸入も盛んで、色んな国の名産品も入手しやすいんだよな……タクト、これがどういうことか分かるか?」
「えっと……どういうことなんですか?」
「つまりこのエイバスじゃ、
「あぁ、なるほど!」
「俺は元々冒険者として世界各国を旅してたんだが、
「そうだったんですね」
確かにエイバスはゲームでも全体的に物価が安い街だった。
特に飲食店や食料品店といった食べ物を取り扱っている店は多く、値段だけじゃなく品揃えも魅力的だった印象がある。
街の治安もいいほうだと思う。
他の多くの国や街と違い、歩いていて急に襲われるなんてイベントはエイバスでは見たこと無いし、犯罪件数も少ないっていう設定だった。
もし
「それにしても、お
「顔見知りというか……今朝たまたま、冒険者ギルドで知り合ったんです。色々あって、その……しばらくパーティを組む事になりました」
「へぇ、あいつが初対面の奴といきなりパーティ組むなんて珍しい事もあるもんだ」
意外そうな顔をするウォード。
そういえば昼前に正門をくぐった際も、オークジェネラルから助けてもらった際も、テオをよく知った風なリアクションだったな。
「ウォードさんはテオと付き合い長いんですか?」
「まぁな。その昔……結構長い間、共に各地を回ってたんだぜ」
「え?」
旅の吟遊詩人・テオ。そしてエイバスの守衛・ウォード。
この2人にそんな接点があるなんて、ゲームでも一切聞いた記憶がないぞ。
塩茹でされたソラ豆をつまみながら、ウォードは昔を懐かしむように話し出した。
「最初に会った時、テオはまだ小さくてな。確か……まだ10歳かそこらじゃなかったか。4人でパーティ組んでた俺達に『旅に連れてってくれ』って頼み込んできたんだが、流石に子ども過ぎるし、俺含め仲間の大半が渋ったのさ……けどな……」
ウォードは溜息をつき、遠い目をしながら話を続ける。
「テオの事情を聞いたダガルガの奴だけが同情しちまってよ……あの巨体とデッケェ声でおんおん泣きながら『絶対連れてく!』って言い張って聞かないもんだから、仕方なく同行させることになってな……」
「あのう……ダガルガってもしかして、エイバス冒険者ギルドの――」
「おう、ギルドマスターやってるダガルガだ」
「なるほど。それでダガルガさんとテオ、あんなに仲良さそうに喋ってたんですね」
朝のギルドでの2人の様子を頭に浮かべると、すとんと納得できた。
「まぁ結果的には、テオのおかげで助かった場面も少なくないし、連れてって正解だったと思うぜ。割といい奴だしな。ちょっと変わってはいるが……」
何かを思い出したかのようにフッと笑うウォード。
先程の店員が、石窯で焼き上がったばかりの特大ピッツァを2枚運んできた。
ピッツァを受け取ったウォードは、嬉しそうに早速ほおばる。
「あっつ、うんめぇ! ……ほら、タクトも早く食え。焼き立てが格別なんだからよ。冷めちまったらもったいねぇぞ」
「はい!」
俺も早速、8等分に切り分けられたピッツァの手前の1切れを食べてみる。
ところどころプクッと膨れて焦げ目がついたピザ生地は、外はサクっと香ばしく、中はモチッとしていた。
1枚は、トマトベースのソースが塗られ、とろっと溶けたチーズとバジルが載った定番マルゲリータ。
そしてもう1枚にもトマトソースが塗られているのだが、こちらのソースにはニンニクや香辛料が効いており、上に載った魚の塩漬けが良いアクセントになっていた。
2枚ともシンプルだからこそ、素材の新鮮な美味さがよく引き立つ。
何枚でもいけそうな味に、俺の顔は思わずニヤけた。
「……美味しいですね!」
「だろ! ここのピッツァはふちの耳までうまくてよ……週に1度は来ちまうんだよなぁ」
その後もウォードの冒険の思い出やら、エイバスの街の諸々についてやらの話をしながら、日付が変わる頃まで楽しい時間を過ごしたのだった。
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