意志の代償
逢内晶(あいうちあき)
結婚(1/2)
高校時代の友人(私にはその認識がなかったが、メールの文面に「高校時代の友人の」という記載があったため、便宜上「友人」と記載する)から、メールが来た。
自分のgmailアドレスに親族以外からまともなメールが来るのは何年ぶりだろうか。
内容は高校時代のクラスメイトの結婚式で使用する写真及びお祝いメッセージの提供依頼であった。
文面から察するにクラスメイト全員に送っているのだろう。
メールの送信者とは高校卒業以来会っていないが、ご丁寧にも署名欄に記載してあるSNSアカウントから、地元で医師として働いていることを知った。
そう言えば確かに医学部志望だった気はする。
現役では落ちていた記憶があるが浪人して見事受かったのだろう。
3年間クラスが同じだったとは言え、特に仲が良かった訳でもない自分にまで連絡を回してくれるのは、彼なりの気遣いであろうか。
その気遣いが私の心を著しくかき乱すとも知らずに。
いや、この考えは辞めよう。
彼は高校時代から周りに気を配り、どんな人にも分け隔てなく接する好青年だった。
彼に私を卑下しようという意図は全くないはずだ。
それに、仮にも学友(と向こうは思っているだろう)の祝いの席だ。
私は他人や自分を信じてはいないが、憎んでいるわけではない。
穏やかな日曜の朝に心がかき乱されたことについて思うところはあるが、写真とメッセージ送るくらいの労力はかけても良いだろう。
私はそうして自分の写真を探そうと、スマートフォンを手に取り写真アプリをタップする。
しばらく写真をスクロールしても自分の写真は見つからなかった。
やはりか。
私は当然の結果にやや落胆しながらも、今度は「f」と表示された青いアイコンをタップした。
「写真」をタップして自分がタグ付けされた写真を探していく。
すると、いくつか自分の写っている写真を見つけることはできたが、結婚式で使えるようなものーすなわち、笑顔の写真は1枚もなかった。
写真を撮られているのは知人といるときのため、嫌そうな顔をしているわけではない。
しかし、周りの知人たちの笑顔とは根本的に異なる表情の写真ばかりだ。
まあ、ある程度は分かっていたことだが。
そもそも、これらの写真はほとんどが3年以上前、私がまだかろうじて周りの知人たちと同じであった頃のものだ。古すぎて使えないだろう。
結局、検索エンジンで「結婚式 メッセージ 例文」と検索して上位に出てきたサイトの例文を少し改変し、
「写真探したけど、良いのがなくて。。。メッセージだけで申し訳ないけど、お願いします。」
という文章とともに返信した。
「自分の写真を探してメールに返信する」
文字で表せば20字に満たない作業にも関わらず、予想以上に精神を削り取られた。
気づけば昼食の時間である。
こんな精神状態で外に出るのは億劫だったが、あいにく食欲は健常人と同等にあるらしい。
金曜の夜から入浴していない汚らわしい体を隠すようにマスクと帽子をかぶり、私は玄関を出た。
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