第2話「三大公爵会議」
シャルディア共和国では貴族制を採用しており、貴族階級が政治権力を握り人民は支配している。
シャルディア共和国における貴族は全て
人口では九倍近い数を誇る
はるか昔、まだシャルディア共和国が他国の植民地であった頃にこの国を支配していた人間が自分たちと容姿が似ていると言う理由、そして魔力因子を持つ人種であること。その二つの大きな理由で
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シャルディア共和国最高政治中枢。
貴族制を採用しているシャルディア共和国において最も権力を誇るものは三大公爵家と呼ばれる御三家だ。
そしてその御三家が貴族院の決議したものを最終決定するのが三大公爵家代表会議である。つまりどんな法案でも三大公爵家が通さなければ絶対に採用されることはないし、逆に三大公爵家が通しさえすればどんな法案も通すことができる。
つまりこの国の貴族制は三大公爵家の三頭政治といっても過言ではない。
「久しいな、ハルデンベルグ殿にリーリエ殿」
真っ白な白髪と髭に覆われた正装姿の男が最も高い場所に座りそう言った。
彼の名はグナエウス・ワールドハウル。
三大公爵家ワールドハウル家の代表にして、この場で最も発言力を持つものである。
三大公爵家代表会議では基本的には代表者の歳によって発言力が変わる。グナエウス・ワールドハウルは御歳八十七歳になろうかという老人だ。
三大公爵家代表会議に初めて出席して四十年以上経つ、まさに今の時代を作り上げた貴族といっても過言ではない。
「まだ生きてたのか。いい加減引退して余生を楽しんでなよ爺さん」
グナエウスに続いて、そんな生意気な発言したのはマルクス・ハルデンベルグ。三大公爵家ハルデンベルグ家の代表である。歳は五十に届かない程度の比較的若い当主だ。
金髪の髪をオールバックにして、後ろで紐で一つに纏めている。全身は筋肉質で、喧嘩すればこの中で一番強いのは目に見えて明らかだろう。ただこの場で喧嘩の強さがなんのステータスにもならないことはマルクスが一番よく知っている。
「まぁまぁハルデンベルグ殿。キリシス殿も私たち
そして最後に言葉を発したのはユリウス・リーリエ。エリシア・リーリエの実の父であり三大公爵家リーリエ家の代表である。歳は四十代半ばと、この中では一番若い。
短く切り揃えた金髪に、娘に受け継がれた整った顔立ちから若い頃から貴族の娘に人気のある当主だ。
「クククッ、まだ主らに政治の主導権はやれんなぁ。特にリーリエ殿。君の所に政治を任せると青猿共を優遇しかねないからねぇ」
「青猿とは口が悪いですなキリシス殿。私はただ同じシャルディア国民として、
「リーリエ、おめぇーの話は相変わらず理想論過ぎるんだよ。この国は一割の俺たちを九割の奴らが支えて出来ているんだ。そんなものを取っ払おうものならすぐに奴らにこの国の全てを乗っ取られるぞ。魔法は使えないくせに奴らは数だけはいるからなぁ」
選民主義のワールドハウル家とハルデンベルグ家。この国のあり方を常に先導してきた両家だ。そして
リーリエ家は
「さて、私語はこの程度にして本題に移るとしよう。リーリエ殿が提出した『二民族共栄法』の改案、それと私が提出した『金髪褐色人特別法』の新規制定。今日はこの二つだな」
グナエウスのその言葉で議会場に緊張が走る。どちらもこの国を命運を左右しかねない重大な案件だった。
会議が終わるとユリウス・リーリエはため息をつく。今日は何とかリーリエ側の主張をある程度通すことができたため、
しかしこの調子ではリーリエ家の悲願である二人種の共存共栄はユリウスの代で叶えることは不可能だろうと感じていた。
「子の代……孫の代。いつまでこんなこと続くのかねぇ」
ユリウス・リーリエは二度目のため息をついた。
■■■
「エリシア、起きなさい」
朝の日差しがガラス窓から差し込む。
サラは隣でスヤスヤと寝ているエリシアを手で揺らして起こそうとする。しかしこれがなかなか起きない。
毎朝のことなのでサラは特別焦ったりせず、今度は強めに揺さぶる。
「エリシア起きて。もうすぐ朝食の時間ですよ」
しかしエリシアは起きない。
ならばとサラはエリシアの脇を掴み……。
思いっきり脇をくすぐった。それはもうマッサージの域を超えて、軽い拷問だった。
「……うぴゃ⁉︎ はははっ……ちょぉおお⁉︎ やめっ……も、もうむりぃいい」
夢から覚めたエリシアは朝っぱらから脇をくすぐられている状況に驚き、声を漏らす。
脇を攻められるのが弱いエリシアはこの方法ですぐ起きるのだ。
「やっと起きましたか」
「お姉ちゃん、もっと優しく起こしてよぉ」
「優しくするとエリシアは起きませんからね」
まだ寝ぼけ眼のエリシアからサラは衣服を脱ぎとる。上下のパジャマを剥ぎ取ると、綿のパンツだけになったエリシアが現れた。胸は少し膨らむ気配がしてきたかなって感じの絶壁よりマシ程度。成長途中のこの時期にしか見ることのできない貴重な胸だ。
見てないふりをしつつチラチラとサラはエリシアの半裸を眺める。そして十分堪能してから、あらかじめ用意してあった新しい衣服にエリシアを着替えさせた。
「はい、ばんざーい」
「ばんざーい……」
服を着替えさせた後は椅子に座らせて櫛でエリシアの髪をとく。寝癖でピョンピョン跳ねた金髪をきれいに整えていると、エリシアはウトウトと船を漕ぎ始めた。その度に脇をいじめる。
エリシアを人前に出れる格好にした後はサラもメイド服に着替える。こっちは早着替え術があるので数瞬の内に着替え終わった。エリシアが「手品?」と呟いていたことは、サラは適当に流しておいた。
「さぁ、行きますよ姫様」
カチリっと頭のスイッチを切り替えてお姉ちゃんモードから従者モードへとサラは変わる。
エリシアが不服そうな顔をしたが、そう言う約束なのだから仕方ないのだ。
サラの差し出した手を掴みエリシアは寝室から一歩踏み出した。
寝室から出るとそこは忙しそうにメイドや執事が廊下を行き来していた。しかしエリシアが寝室から出た途端に一斉にエリシアに礼をしてきた。
エリシアはめんどくさそうに手を振ると、彼らは元の仕事へ戻っていく。
「毎朝毎朝めんどい。私のことなんて構わなくていいのに」
「そうは行きませよ姫様。貴方はこの国の三指に入る貴族の直系なのですから」
「でも毎朝よ! 毎朝私がこの部屋から出るたびにこれよ! どうにかしてよお姉ち……サラ」
「サラ」と小さくとって付けたようにエリシアは呟く。未だにサラの事を呼び捨てにすることは慣れていないようだ。
「私には無理です姫様。私は一介のメイドでしかありませんから。それに……」
サラは「それに……
エリシアは何も知らず純粋に育った。
いや何も知らずは言い過ぎたかもしれない。名前程度なら聞いたことくらいはあるだろう、とサラは思った。
サラはエリシアが差別のことを知ることで自分との関係に悪影響が及ぶかもしれないことを恐れている。エリシアがそんなこと気にする性格出ないということはサラも知っている。それにサラの両親から見てもリーリエ家は
しかし、『もし』……とい不安が邪魔をして差別のことについては話して来なかった。エリシアの両親もまだそこらへんの教育はしてないと言っていた。
「それに……私はまだ子どもですから。他人に意見など到底できません」
サラはそう言ってごまかすことしかできなかった。
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