イスレア様の最後のお願い
イスレア様が、コーヒーテーブルから葉巻を取りだししわくちゃの口にくわえ大きく吸い込んだ。火はつけてなかったが開いた口からは緑がかった紫の紫煙が出、鼻先辺りで淀みかき消えた。
モニター画面は今度は半島の海側の断崖の画面に変わっていた。半島は大陸と接する平たい台地の部分を除くと大部分を1000m近い山々に囲まれていた。海側は山々が直接海に落ち込んだかのような断崖絶壁である、打ち寄せる波は高く高く絶壁を登り白い波しぶきをたてる。
天敵の来れない絶壁には沢山の海鳥が住み着く、また沖に向けては半島の峰々のなごりか至るところに険しい岩礁が突き出ている。
真っ白い波しぶきと鉛色の絶壁のコントラスト、沖に向けては紺碧の青と突き出た鉛色の岩礁、砕ける白い波しぶき、絶壁を飛び交う無数の海鳥の舞い。
おろかな人類が何千年もの彼方に残してきた碧き美しい惑星、今は薄暗闇の岩山だけの惑星、その惑星が美しかったころのなつかしい風景が今ここにあるのである。
「モルぺスよ、本当に美しい半島だね、」
「いついつまでも変わらず残したいね!」
感慨深げにモニター画面を見ていたエスレア様は振り返る。
そして葉巻を差し出し
「どうだい!モルぺス吸ってみるか」
「そのデブ、デブのお腹も少しへこむのではないか」
茶目っけを出す。
「いいえ、いいえご遠慮しますよ、私は不健康そうには見えますよだけど私の半分は健全なマシンですよ、生身の部分だけですよブテ、ブテのこれが付いているのは」
と酒樽のようなお腹をポン、ポン叩き、
「生気酸素じゃ、私のお腹はへこみませんから」
「イスレア様が、この生身のプテ、プテ細胞に変わる代謝の良い細胞の葉巻でもつくってくれれば何本だって吸いますよ」
と返す。(笑い)
「モルぺス、お前はもう手遅れなんじゃないか!代謝の良い細胞をつくろうがつくらまいが、儂には見えているぞ!お前のそのプテ、プテ、プテ 細胞がとうとうお前が言う健全なマシン部分まで浸食しだしているのをそしてほら見えるのだ。お前の将来の姿が」・・・(笑)(笑)
「腹がでっかくなりすぎ、とうとう後足で立ち上がることが出来なくなり前かがみになり立ち上がれずもがいてる姿を」
「それでも、本能的にお前は四足であるこうとするが今度は腹がでか過ぎ、、、床まで前足後足がつかないのだ!」(笑い)
「まるで風船みたいになり、イスレア様、イスレア様何とかして下さいよ・・・」
泣きついてるおまえの姿をと手振り、身振りで可笑しく話し大笑いをしモルぺスをおちょくるのである。
モルぺスは本当に嬉しかった。おちょくられていることが本当に嬉しいのであるイスレア様のあのクチャ、クチャのお顔がさらにクチャ、クチャになるところを見ることが本当に嬉しいのである。
それから少しの間、二人はおちょくり合いをしその後昔使っていたのに今は使わない忘れそうな言葉当てをしようという事になった。そして負けた者は女性に振られた時の話をするのだと、またモルぺスをおちょくる気である。
それはモルぺスがまだ若かりし頃、恋をしたのである。
モルぺスは猫にしてはすごっく大きい、モルぺスは普通の猫に恋をすれば良かったが普通の猫でなくメスの芝犬に恋してしまったのである。
そして夜な夜な追いかけまわし、そして最後には怒ったメスの芝犬からの反撃にあい尾の先を食いちぎられるという重症をおったのである。
(犬に恋したバカ猫の重症事件)(笑い)
イスレア様はこのことを私から何度も、何度も聞いているのに私が恥ずかしいから話したくないというのにまた理由をつけては私に強引に話させようとするのである。
おちょくろうとするのである。でもモルぺスにとっては心地よい恥ずかしさでありまた心地よいおちょくりでもある。こんなおちょくりをしているときはイスレア様は本当に本当に無邪気に子供のように笑われるのであった。
昔使っていて、今使わない忘れそうな言葉ではダイエットとか化粧とか出た。この2~300年を超える間女性が存在しないのだから仕方ないと言うことになった。
そんなことがあって、1週間が過ぎた朝とうとうイスレア様からモルぺスに最後のお話しがなされたのである。
その日もモルぺスは大変心地よく朝を迎えていた。
あの、イスレア様からの最後お話しがいつ切り出されるのかという不安をこのところはしばらく忘れていたのである。
イスレア様はこのところは大変機嫌が良く、涙目の跡も宙を彷徨う瞳もなく元気であり昔の、まだこの半島に沢山のお仲間が生活していたときのお話しを嬉しそうに何度も何度も語っていたからである。
その日、モルぺスが制御室のドアーをくぐりイスレア様と1杯のコーヒーをすすりかけたときイスレア様が急に突然に切りだされた。
「モルぺスよ、本当に本当に長い間ご苦労様でしたね・・・」
しわくちゃの顔に笑顔を浮かべやけに丁寧な口調で切りだされた。
モルぺスは、通常でないただならぬ雰囲気を察して言葉が出ずにいると、
「モルぺス、モルぺスよ儂もそろそろみんなのもとに行こうかと思っているんだよ・・・」
「儂の細胞達も、もう限界ですよご主人さまと毎日毎日嘆いているんだよ・・・仕方ないだろうモルぺス」
「お前の神の国での最後の仕事、やってくれるね。ねえ、モルぺス」
イスレア様はニコ、ニコと微笑みながらモルぺスを見つめていた。
モルぺスは何か言おうとするのだが言葉が出ない。ただただモルぺスの両目から涙が1滴、2滴垂れだすともうせきが切れたように涙が後から後から流れ出し顔を上げることさい出来なかった。モルぺスは思いきり泣いた。
イスレア様はそんなモルぺスをじいっと見守り、そっとモルぺスの肩に手を置いた。枯れ枝のように枯れ節くれだった腕、温かい手だった。
(モルぺスよ、これからはお前一人になるんだよ、大丈夫かい、寂しくなるだろうけど頑張っておくれ)そう言われているかのようだった。
モルぺスは、すぐさまイスレア様の懐に飛び込み思い切り抱きしめて貰いたかった。だがモルぺスが懐に飛び込む衝撃にもうイスレア様の枯れ木のような身体が持ちこたえることが出来まいと我慢して泣き続けたのであった。。
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