第27話 お仕事日誌・朱組1
※名前なんか覚える必要ありません。ゆるゆると雰囲気をお楽しみください
さて、色んな職場を見てこいと言われた僕とフーフーではあったが、当然最初に見て回るのは自分たちの所属する朱組の現場である。フーフーのことで変なプレッシャーをかけられていたこともあって、まずは若手たちを中心に見漁ることとに。
~音楽家ナッチ「雀」~
使い魔「
……ホースが首からつながった鍵盤ハーモニカ頭
「俺は音楽家だよ」
ナッチというハゲ頭の男は、喋りながら口元に描かれた鍵盤を自慢気に指でなぞってみせた。
「詞は書けないから、もっぱら作曲だね。こう見えて俺らの中じゃ二番目に点数持ってるんだよ。で、一番点数が高かったのが、今もかかってるこの曲」
アトリエにどんよりと響く異様に早口のリズムに、しばし耳をすます。まるで鳥が音階を作って鳴いているような不思議な調べだった。小鳥の歌……というにはちょっとロックすぎるが。
「かっこいいね」それがフーフーの感想だった。
~薬師フォーレ「剤」~
使い魔「
……エグい顔をしたペンギン
「すごいいい匂い。ほら」
フーフーに促されて匂いを嗅いだら、確かに清涼でフルーティな香りがした。
「つまりはラムネ菓子やね」フォーレという金髪の女の人……フーフーにワンチャンを夢見る男たちに呆れていた彼女は、自分の作品を口に放り込みながらそう呟いた。「あー、あー、ほらこんな感じで、女でも男の声とか出せるんだぜっていう」
「うわ、エグい声」
「ホントはこの街向けにもっと薬品臭くしなきゃ駄目だから、まだ未完成だけどねー、だぜ」
~彫金師スプリ「水求」~
使い魔「
……頭が目覚まし時計の棒人間
巨大なサングラスをかけた小さな男が僕らに差し出したのは、言ってしまえばガラスと陶器でできた水時計だった。水かさで時間がわかるのはもちろんだが、面白かったのはそれが完全な球体であったこと。
「つまり、水が中央に落ちていくってこと?」聞いたのは僕。
「仕組みはオーパーツ由来だから、よくわかってない」チラチラと不器用にフーフーを確認しながら、彼は答える。「
~調整ホクロ「行」~
使い魔「
……ギターを背負ったウェスタン風の黒子
「僕の作品って言われても、実は特にない」パンク青年のホクロは気取ったポーズで肩をすくめる。「アレンジャーってやつね。いろんな人の作品を、まあ、この街向けにリファインしてく係だ。監督に持っていく前にクァラに、クァラに持っていく前には僕にって順番ってこと」
「責任重大だね」フーフーはおだてる。
「そゆことー」ホクロは嬉しそうだった。
こういう仕事が過大でも過小でもなく評価されるのも、この世界の素晴らしいところだろう。
とまあ、若手組と作品はこんな感じに趣味の延長感があったが(それでも十分専門的だが)、さすがベテラン組の作品は個性が違った。
~人形造形フォトン「蛞」~
使い魔「
……一対の手袋で作られたクモ(親指が顔)
「うっ……」と、フーフーが本気で気持ち悪そうに顔をしかめた人形たちは、サイズは概ね30センチくらいの球体関節ドールだ。モデル自体はいたって普通の人間なのだが……いやつまり、いたって普通の人間がモデルの人形ってのはそれだけでも結構気持ちが悪いってことだろう。その口の中にカラフルな生きたナメクジが蠢いていたら尚更だ。
「トラウマっていうのはね、こうやってね、自分から本気で向き合えば楽しくなるものなのね」長い髪を雑にポニーテールにしたガリガリのおばさんは、エプロンで手を拭い、ニコリともせずそう呟いていた。「人なんてみんな普通の顔……でも口の中にはそれぞれの虫がいるね。そうは思わないかい?」
~演出家ハーミン「惨」~
使い魔「モンタ」
……耳が腕、舌が脚になった巨頭
眼の前でフーフーが爆散したかと思った。
血まみれになったフーフーは体を硬直させたまんまプルプルと震えていて……そしてその血が今度は一瞬で全部吸い上げられて、ハーミンの手に収まった。
「びっくりした?」バレー選手のように際立ったスタイルが美しいその
スプラッター演出家ハーミンの言葉に合わせて、耳が腕になった生首の使い魔が次々と赤いボールをお手玉をする。
マカといいジョーカーといい、人ってほんと見かけによらない。
~漫画家キミヲタク「好色」~
使い魔「
……ツヤッツヤの卵男
「
「えっと、いちおう……はい」裸の獣人とおぞましいイラストを思い出しながら頷いた。
「あの桃みたいな肌の色さあ、えっちすぎない? 人間よりもずっとグッとくるんだなあこれが」
「だからこういう塗りなわけですか」と、フーフーは感情の読み取れない笑顔を浮かべながら、僕に向けてキミヲタクの
「僕にはわかんない話だなあ」と誤魔化しつつも、実際、彼の色彩感覚の恐ろしいほどの卓越ぶりには感心せざるを得なかった。
彼が、朱組で三番目に点数が高い人とのこと。ちなみに二位はクァラで、一位はもちろんフーフーだ。
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