第2章 歴史

第1話

「——さて、どこから話そうか。」

 ギルさんは、よいしょ、と言い椅子に腰かけた。

「そうだな、君はここの知識が無いからね。まずは、歴史から少し話そうか。」

「……はあ。歴史、ですか。」

 歴史どころか勉強が嫌いなオレは、ギルさんの話を最後まで聞けるか不安になった。

「悠也君も、勉強が苦手かな?」

 ギルさんが少し笑った。そんなにわかりやすい顔をしていたんだろうか……。

「はい。……悠也君も?」

「リドルも勉強が苦手でね……。全く困ったもんだよ。座学あっての実践だろうに、実践ばかりやるもんで、いつまでたっても上達しない……。今朝のアレ、一年前と何ら変わってないんだよ。」

 ギルさんが少し興奮気味に喋り始めた。出会った時と朝の惨事を見る限り、きっと大変なんだろうな……。

「ゴホンッ、愚痴はこのくらいにして、そろそろ話そう。」

 ギルさんは、一度咳払いをしてオレに向き直った。オレも椅子に座りなおし、ギルさんを見つめた。

「分かっていると思うが、ここには魔力を持つ者しかいない。学校では、人間は大昔に絶滅したと教えられるんだ。実際に人間は今存在しない。なぜいなくなったのか、ここから話そうかな? まだ人間がいた頃——」

 オレは30秒もしないうちに眠りに落ちた。社会の先生に毎回叩き起こされているのは部活で疲れて眠ってしまうだけが原因じゃなかったようだ。

 ——パンッ!!!

 耳元で破裂音が聞こえた。飛び起きて音がした方を見ると、オレを見下ろし仁王立ちしたギルさんがいた。手にはお坊さんが座禅の時に使う棒がある。さっきの破裂音の正体はそれだろう。

「……どこまで聞いていたのかな?」

 いつもの静かな言い方が逆に怖く感じた。

「人間が絶滅したのは何故かという話をする前です……。」

 オレは正直に答え、恐る恐るギルさんを見上げた。背中に嫌な汗が流れた。ギルさんの後ろに鬼が見えるのは、きっと気のせいじゃない。

 ギルさんが纏う空気が落ち着いた。

「正直に答えたからね。今回はいいよ。」

 ギルさんは椅子の隣に棒を立て掛け座った。今回は、という事は、次はあの棒が容赦なくオレに当たるんだろう。オレはもう一度椅子に座りなおし、次こそ寝ないようにしようと決心した。

 ——決心から十数秒後にオレは夢の世界に旅立っていた。

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